第12話:誘拐されたのっ!
物騒なサブタイトルですが当然シリアス要素はありません
「ラーメンが食べたい……」
「さっきお昼食べたやろ」
昼食後のティータイム中に出た、ユーフィのアホなつぶやきにコレットがつっこんだ。
――今日は夕方からライブビューイングで遠隔ライブをする予定だったのだが、機械の調子が悪いらしく、延期となったため四天王の4人は執務室で暇を持て余していた。
「ん~、それならココとかどうかなっ! 最近できたラーメン屋さんで、お店はきれいだしデザートもおいしいんだって。予定空いちゃったし、今夜行ってみる?」
「あら、いいですわね」
ロザリーがオススメのラーメン屋を調べてくれたが、いかにも女子受けしそうなお店であった――。
この世界に召喚されてからというもの、ユーフィは美少女にふさわしいキラキラした生活を送ってきた。キラキラ生活では、食事はヘルシーで健康にいいもの、お菓子はオシャレ~でバエル~な感じのものばかり出てくる。
夜中にカップラーメンとかポテチをキメることなんて許されない。
初めのうちは珍しさもあり、おいしいので特に不満はなかったのだが、それがずっと続いてくるとガワだけ美少女のユーフィには耐えきれなくなってきた。
清すぎる水には、濁り水にいた生き物は住めなかったのである。
たまには、なんかもっとこう、体に悪いものが食べたい! 具体的には、背油こってりの豚骨ラーメンがだべだい゛! ギョウザとライスもつけちゃうもんね! 炭水化物と炭水化物の夢のコラボや!
ユーフィの脳内はアブラ不足でかなりゆるふわになっていた。
実は既にいい感じのお店も調べてあり、行けるチャンスを虎視眈々と狙っていたところにスケジュールが突然空いたのである。これぞまさに運命のいたずら――!
「ちょっと、部屋に忘れ物したので取ってきます!」
「……なんで忘れ物宣言でドヤ顔してるんだろ。ユーフィちゃん、絶対また変なこと考えてるでしょ」
決行するなら今しかない――、とユーフィは席を立った。ロザリーが何か言ってきたが気にしない。
とはいっても、さすがに四天王であるユーフィが町のラーメン屋に現れようものなら、大騒ぎになってラーメンを楽しむどころではなくなってしまう。
それはいけない。ラーメンを食べるときは、誰にも邪魔されず自由でなんというかってやつである。
ユーフィは自室に戻ると、机の引き出しからこの作戦における最重要アイテムを取り出した。
「てれれれってれー! 『瓶底グルグル眼鏡』~!」
通販で買った『瓶底グルグル眼鏡』――「これであなたも、教室の隅にいる目立たないキャラになれる」というキャッチコピーで、簡単な認識疎外魔法がかかっている――を装備する。
髪も三つ編みにしようとしてみたがよくわからなかったので、なんとかおさげっぽく自力で結ってみた。
――うん。いいんじゃないかな。読書好きの地味な眼鏡モブ子っぽいぞ。
鏡で確認し、自身の変装技術に満足したユーフィは豚骨ラーメンを求めて街へと駆け出していった――。
眼鏡をかけた銀髪の少女が昼下がりの街を走っていた。
その眼鏡のせいか少し地味な印象を受けるが顔立ちの良さは隠しきれておらず、不慣れながらも結った髪型からは、慣れないおしゃれに奮闘したことが見て取れる。
デートの待ち合わせ時間に遅れないように走っているのだろうか――。
まあ、一見するとそんな感じに見えなくもないが、実際はただ豚骨ラーメンを求めて走っているだけのアホである。
変装しているとはいえ、あまり人目につかないほうがいいだろうと考えたユーフィは、メイン通りから外れた狭い道を選んで移動していた。
目的地までの道のりを思い出しながら走っていると、不意に横から人が出てきた。
「ぷぎゅっ!」
注意力が散漫になっていたユーフィは、避けることができずに出てきた誰かにぶつかって無様に尻もちをついた。
「っ! 君は、あの時の――!」
「え? ――ヒッ!」
ぶつかった相手を見上げると、そこには変な仮面をつけた男がいた。
タキシードとか着て女子中学生を見守っていそうである。着ていたのはローブだったが。
へ、変態だーー--!!!!
ユーフィは、初めてリアル変態に出会った恐怖と衝撃から心の中で叫び声を上げた。
「ああ、そうか……。これをつけたままでは認識できなかったな」
ユーフィの反応を見た変態仮面が仮面を外すと、その正体はいつか同じようにぶつかったさわやかイケメン野郎であった。
どうやらしばらく見ないうちに、ニワカファンから変態仮面にクラスアップしていたらしい……。
――何なんだコイツは。
ユーフィは大変困惑したが、多分カッコイイと思ってつけてるんだろうし、馬鹿にして変態を下手に刺激しないよう、慎重に言葉を選んだ。
「あなたでしたか。……その、えーっと、素敵な仮面ですね?」
「い、いや、これは認識阻害の魔法具なんだ。別に好きで装備しているわけじゃない」
変態が苦笑しながら言い訳をしてきた。どうやら、ユーフィが装備していた眼鏡と同じようなものらしい。
そういえばあの眼鏡はぶつかったときに外れたみたいだけど、どこに吹っ飛んだんだろう――、と周りを見渡すと少し離れたところに転がっていた。
実は結構なお値段だったので、レンズが割れていなくてユーフィは安心した。
「――なにか落としたのか?」
「あ、大丈夫です。この眼鏡を探してただけなので」
ユーフィがキョロキョロしていたのを見て変態が気にしてきたが、問題ないと眼鏡を装備し直した。
手伝ってもらって変態に借りをつくっては、何を要求されるかわかったものではない。
「その眼鏡、認識阻害魔法がかかっているのか。子どものおもちゃレベルの低級だが……」
「……」
えぇ~……。これ、結構高かったんだけど……。
子どものおもちゃレベルと言われてユーフィが地味にショックを受けていると、少し離れたところからよく知っている声が聞こえてきた――。
「あのちびっこ、どこ行ったんや」
「も~、遊びに行くなら『どこに・誰と・何をしに・何時に帰るか』を言ってからって教えたのに」
「見守り機能付きのアクセサリーを持たせるべきですわね」
どうやら3人がユーフィを探し始めたようだ。
なんかめちゃくちゃ子ども扱いされているが、残念ながら当然である。
「やばっ!」
声が近づいてきたので、変態の後ろに隠れてこっそり様子をうかがっていると、こちらには来ずメインストリートをそのまま通り過ぎていった。とりあえず一安心である。
そんなユーフィの様子を見て、変態は驚いたように尋ねてきた。
「君は、まさか……、逃げてきたのか!?」
「え……? まあ、はい。だから、見つかりたくないので逃げないと――」
「そうか、何故か四天王が遠見の魔法を使えないというこの状況……。確かに、逃げ出すチャンスは今しか――」
「?」
ユーフィの返答を聞いた変態は、なぜか深刻な顔をしてブツブツ言い始めた。
遠見の魔法とか言ってるしライブビューイング参加予定だったのかな? もしかしてライブ中止になって怒ってる?
ユーフィからすれば、目の前の男は『変な仮面をつけはじめたけど推しを目の前にしてもまだ本人と気づかないやっかい系ニワカファン』なので変に刺激しないようビクビクであった。
「――だが、この国にいる限りすぐに見つかってしまうのでは?」
「まあ、確かにすぐに見つかってしまうとは思いますけど、それまで少しだけでも楽しみたいなって思いまして……」
「君は……、そんな悲壮な覚悟で――」
「? えっと、だからもう行ってもいいですか?」
変態がなんか泣きそうな顔で下を向いてよくわからないことを言っているが、よくわかんないからヨシ! とりあえずさっさと離れよう。
替え玉が待っているのだ――、とユーフィは立ち去ろうとしたが、そのタイミングでうつむいていた変態が顔を上げ、まるで世界を敵に回すことを決意をしたかのような目でみつめてきた。
「――わかった。君には以前、四天王の魔の手から逃してもらった恩がある。今度は俺が君を助ける番だ!」
いきなり覚悟完了オーラをまとって再び仮面を装備した変態仮面は、ユーフィに近づくとお姫様抱っこで持ち上げてきた。
「ちょっ! えっ!? なにしてんのっ」
元男のユーフィは人生初のお姫様抱っこに思わずトゥンク――、するはずもなく、名実ともに変態仮面と化した男から逃げようとジタバタした。ついでにタイトルコールもした。
「君をリアージュ王国まで連れていく」
「――は?」
変態仮面の口から出た意味不明な発言に、ジタバタしていたユーフィは思わず動きを止めた。
「大丈夫、わかっていると思うが僕は勇者だ! 信用できる立場の友人に匿ってもらう。君が傷つけられることはないから安心してくれ!」
「――え?」
え、この変態、勇者なの? ナニソレ知らない。初めて聞いたんだけど?
ヤバい。四天王本人を見ても気づけない残念なニワカ変態仮面だと思ってたけど、その正体は思いっきり敵対してる勇者だった。
こんなの、もし自分が四天王なんてバレたらきっと殺される!
ユーフィは めのまえが まっくらに なった!
思考停止している間に、ユーフィを抱えた勇者はすさまじいスピードでぐんぐん走っていく――。
というかこの状況が普通に怖い。車とか馬車ならともかく、むき出しで抱えられてる状況でこんな人外の速度で移動されたら怖くて死にそう。
ユーフィは落とされて死なないよう、半泣きになりながら勇者にぎゅっとしがみついた。
こうしてユーフィは勇者の善意によって人間たちの国、リアージュ王国へと連れていかれたのであった――。
1週間ほど人間の国をエンジョイしたら帰るらしい




