第二話「魔剣の力」
はー、どうしよう。魔剣で魔王様かー。やばいなぁ、人間いっぱい殺すーとかやめてほしいんだけど。渋いおっさんも逃げるわけだよ な。俺も逃げたい・・・それに!さっきから魔王様が自分の魔力めっちゃ流してくるんだけど何ごと!何かおいしいけどさ!でも支配しよ うとするような感覚も流れてくるんだけどー!うざい!
彼は城の中を歩きながら右手に持った俺を顔の位置まで持ち上げ思案げにじっと見つめてきた。
「おかしい、魔力を流しても主従関係の契約が出来ないだと?まさか我を主と認めないというのかレーテヴァイル!!」
怒りの表情で彼が叫ぶとさらに力を流したのか右手が光り輝いて俺に流れていく。そのせいで彼がいる通路まで光で包まれ、さらにはズズン!と風が吹き抜け壁にヒビが入るほどの衝撃が走った。
ぬぉー!胸焼けするぅぅう!あかん、気持ち悪い支配の思考も流れてくるし!まだ入りそうだけどもういらん!いりません!へるぷみ ーおっさんー。
俺が唸っているとどこからか大声が聞こえてくる。
「オーグラン様!何事ですか、城が壊れてしまいますぞ!」
後方からの言葉を受け彼の魔力の流れが止まり後ろを振り返った。助かった。
「ジークか、それにギュンレイ。見ろ!魔剣レーテヴァイルが完成したぞ!」
さっきまでの怒り狂った顔が消え、子供のようにうれしそうな顔で剣を前方に突き出している。
ふぅ、止まったぁ。というかさっきからレーテヴァイルって俺のことかね?魔王はオーグランか、それにジークとギュンレイ・・・?
そちらに目をやると白髪に口髭の執事服のダンディなおじさまとモヒカンの身長130cmくらいの厳ついけど小さいおっさんがこっちを見ていた。
「へへへ、魔王様よ。俺がオリハルコンで打った魔剣がようやく完成か?いくら俺がドワーフの天才でも大変だったんだぜぇ?魔王様の血をオリハルコンに馴染ませ、さらに先代様の魔眼を取り付け融合させるのはさ。俺にも見せてくれよ」
そう言うと小さいおっさんは近寄ってきた。
やっぱり魔王様大当たりー・・・、そしてよく聞くドワーフがいるのか、ならエルフちゃんも居るのか?というか金属以外に血と魔眼も材料なん?俺きもいな・・・。あれ?そういえば夢に出てきた禍々しい剣!あれかー!血管と目玉の剣か、やべー、聖剣とか言ってた自分 が情けない。どっから見ても魔剣やん。
「ギュンレイ!オーグラン様に失礼ですぞ。それにしても黒の池にて3年・・・ようやく完成したのですね。完成後すぐ拝見でき、このジーク感激ですぞぉ」
執事服のせばすちゃ・・・じゃなかったジークが胸ポケットからハンカチだしておよよってしてる。なんだこれ。
「あぁ、ようやくだ。人間や雑魚の魔物などは楽だったが、属性ごとに龍種を狩るのはめんどうだったな。特に古龍ギルフィゴール・・・ 奴はめんどうだった。あやうく殺されかけたからな」
魔王は首を振り、いかにも大変だったというそぶりをしている。
古龍ギルフィゴールねぇ、どっかで聞いたような。あ!渋い声のおっさんか!というか夢だと思ってたけど俺全部見てるな。途切れ途切れだけど、あれは現実だったのか。
「ジーク、ギュンレイ、今からテラスで魔剣レーテヴァイルの力を試す。お前らも見に来い。おかしなことにまだ主従契約が出来んが軽い力なら振るえるだろうよ」
「おぉ、是非拝見させて頂きます!」
「んん?おかしいな、魔王様ならどんな魔剣でもいけるはずなんだがな。まあ時間をかけて魔王様の魔力を流せば認めない魔剣など存在しないでしょうよ」
そう言い2人は魔王のあとに続き城のテラスに向かった。
高さ50mほどの位置にあるテラスは広く、長さだけでも30mはあるだろうか。この城の大きさが伺える広さである。外は夕暮れで空がほんのり赤みがかかり、周りには森が広がっている。少し遠くには山も見え、ここは秘境なのだろうか?と思わせるほどの山奥であった。
「では、始めるか。空間を斬り裂く魔剣・・・レーテヴァイルよ。力を魅せよ!」
魔王がそう言うと魔剣の剣身に黒いモヤがかかる。そして魔王が地上に向け軽く1振りするとズンッ!と大きい音が響き森が、大地が300mほど割れた。
空間を斬り裂くその斬撃は大地の固さなど感じずに底が見えないほどに大地をえぐった。後ろの2人はその威力に呆然とし、放った本人の魔王ですら目を見開き驚きの表情をしている。そしてその力の源の魔剣も・・・。
うおおお!何だよ今の!名前呼ばれて力を魅せよって言われたら体の奥から力がみなぎったよ!気持ち悪いからぺってしたらすごいの出たよ!怖いわ!言霊とかいうやつかな?無理やりの強制力があったんですけどー!
「フ・・・フハハハハハ!!素晴らしい!信じられん威力だ!これでも全力ではないのだぞ!」
「何という・・・オーグラン様に相応しい!あなた様こそが持つべき魔剣です!素晴らしい!」
「おいおい、尋常じゃないな。これが俺の打った魔剣か・・・。ふふふ、ドワーフの里なんぞ追放されてよかったわ!こんな魔剣を俺が生 み出せたのだからな!!ワハハハハ!!」
「待てギュンレイ、お前だけではない。我とお前の最高傑作だろ?さまざまな魂をコレに吸わせたのは我だぞ?」
「ちげえねえ、すまんな魔王様。俺も興奮しちまったよ。これでじじい共に俺が正しいことが証明できる・・・魔王様!約束通りそのうちドワーフの里をそいつで斬り刻んでくれよ!」
「あぁ、そのうちな。ちゃんとした試し斬りも必要だが、まだ主従契約がうまくいかないからその後だな。契約さえ出来れば魔力次第でさらなる威力となるだろう!」
うっそーん、あれ全力じゃねえの?俺すっげーけど気付いたら危険兵器になっちゃってるよ。こんなん里に撃ち込んだら壊滅しちゃわない?・・・あ、またジークがハンカチ出しておよよってしてるよ。涙腺ゆるいなおい!
「次だ!次は魔法を通すぞ。だがその前に・・・我、望むは炎の剛球、ファイアボール!」
魔王は魔剣を持っていない左手を山に向け呪文を唱えた。その手からは1mほどの炎の玉が勢いよく飛んでいった。ドーン!と山に着弾すると大きなクレーターが出来ている。
「おお、お見事でございます!」
ジークが涙をだだ漏れにしながらよいしょしているよ。しかし魔法!さすが魔王だ!ファイアボールとか名前そのまんまだけどすごいな!と俺が興奮していると何やら次があるらしい。
「今のが我のファイアボールだ。しかしだ、このレーテヴァインに魔力を通し魔法を放つと・・・」
今度は魔剣を持つ右手をかかげて剣先をおもむろに山に向けた。そして
「我、望むは炎の剛球、ファイアボール!」
そう唱えると剣身が光輝き、手のひらではなく剣身の先から炎の玉が出てきた。その大きさは先ほどのものとは比べ物にならず5mほど の大きさをしている。そして気付けば炎の玉は炎を唸らせスピードまで上がり飛んでいく。ヒュンっと音がしたかと思うとカッという音と共に光を照らした。
ドォーーーーン!!!!という爆発音が次いで聞こえたかと思うと山の上半分はきれいに消えて無くなっていた。
た~まや~と思ったら山が弾け飛ぶ現象発生!ウフフ~、何ですの今の?俺が目は無いけど遠い目をしてたらって一応目が柄についてるんだっけ?まあそっちの目は制御できないんですけど!気分気分!
「ば、ばかな・・・何だ今のは・・・」
いやいや、奥さんこっちのセリフですよ!何また目見開いてるんですか?イケメンが台無しですよ!説明しなさい!ほら~後ろの2人も 顎が外れそうなほどに口開けて・・・あれ外れてるんじゃね?大丈夫?
「お、おおおおぐらんさま、い、いまのは・・・?」
ほらほら、ジークが震えて生まれたばかりの小鹿みたいですよ!ってギュンレイはやっぱり顎外れてたのか!必死に頭両手で持って顎 はめようとしてるよ。
「くはあ、びっくりしすぎて顎がはずれるなんざ初めてだぜ。魔王様!それが言ってた魔法増大効果ですかい?」
「・・・あ?あぁ、そ、そうだ。これが通した属性魔法の威力を増大させるこの魔剣レーテヴァインのもう1つの能力だ」
魔王様2度見とかやめてもらっていいですかね?俺っち魔剣ですけど自分の実力知りませんから!あ!やめて!何だこの剣?みたいな目 はやめて!
「主従契約が完了したら今の倍ほどの威力となるはず・・・だ?・・・契約できてないはずだよな・・・」
ちょっとー!疑問符ついてますけど?最後小さい声だけど俺には聞こえてるからね?大丈夫か魔王!
「これの倍でございますか・・・それに今のは炎の下級魔法のはず。上級以上で放ったらどうなるのでございましょう?」
「ワハハハハ、そんなのジークの旦那!山が消え、地表がきれいさっぱりになるだけさ!街なんかに撃ちゃあ、そこに街があったかさえもわからないほどのクレーターが出来そうだな!」
魔王は魔剣を握る手を震えながらも天高く魔剣を掲げた。
「絶対に我を主と認めさせてやるからなレーテヴァイン!貴様と我が合わされば人間と勇者など恐るるにたらず!!・・・それにあのお方 さえも我の物に・・・」
何だ最後?何て言った?よく聞こえなかったな・・・というか絶対下僕になんてならないからな!