第十六話「魔剣と洞窟 -前編-」
ちょっと魔物の描写が適当すぎたので修正しました。
少し昼が過ぎた頃、俺達はエスタールの街を出てから北に二時間ほど、土を固めただけの歩道を俺とマーレさんは歩いていた。周りは平原、たまに丘などがあるが変わり映えしない景色が続く。
マーレさんには俺が空間収納を使えることを教えたので、出発前に持っていたバカでかいリュックは俺の空間収納にしまい込み、今は肩から掛けるバッグに必要最低限の水や非常食などだけを詰め込んでいた。
アウルも俺のフードの中でぐっすりと眠り、長い道を延々てくてくと……てくてくと……。
俺は立ち止まり呟く……。
「……飽きた」
「え?何々?」
マーレさんが顔を覗き込んでくる。
「平原飽きたー!もう歩くのもめんどくさい!マーレさんコレあげる!」
「レーテちゃん?どうしたのよ、ん?何コレ?あら、綺麗な指輪ね~」
左手の人差し指に嵌めていた指輪をはずし、マーレさんに渡すと太陽にかざしながら緑の宝石がついた指輪を見ていた。
「それアーティファクトで飛翔の指輪っていうんだ。魔力通したら結構簡単に飛べるはずだからさ、歩くのも飽きたし飛んでいこうよ」
「アーティファクト!?そ、そんなの貰えないわよ!!売ればいくらになると思ってるのよ!!」
ブンブン首を振り指輪を返そうとしてくるが、もう歩くのは嫌なんだよ!抱えて飛ぶより自分で飛んでもらったほうがいいし。
「じゃあ、貸すだけならいいんじゃない?」
「え?うーん…………まあ、それなら」
渋々という感じでマーレさんが指輪を指に嵌めていた。
『良いのか?アーティファクトを譲ってしまって』
『いいんだよ、俺は飛翔の指輪が無いとちょっと飛ぶのがめんどくさくなるだけで、飛べないわけじゃないし』
『まあ、お主が良ければ良いがな……』
おっさんと会話してたら突如、マーレさんが俺を後ろから抱えてぷらんぷらんし始めた。
「あの……マーレさん?」
「私がこうやってレーテちゃんを抱えて飛ぶのね!!」
「いやいや、俺は自分で飛べるからね?」
「ちょ!レーテちゃん、俺って!エスタールでは私って言ってたじゃない!」
「こっちが素だから!マーレさんとはパーティ組んだし、素でもいいでしょ?」
「……私だけに素?私だけに……うふふ、よし!いつか直してみせるわ!!飛んでみ……ん?あれ?レーテちゃん自分で飛べるって言った?指輪もうひとつあるの?」
抱えた状態でマーレさんは俺を見下ろしながら首を傾げていた。
「無いよ。でも魔法で飛べるから」
「ふえ?魔法で?え?」
「うん、魔法で」
目をパチパチさせてこちらを見てくるマーレさんから離脱し、軽くふわっと1mほど飛んでマーレさんの周りを飛んで見せた。
「ほらね?」
「えええーー!?そんな簡単にっ!?あれ?そういえば詠唱は?」
「あー、俺無詠唱だから気にしないで、ほら、行こうよ」
「気にしないでって!ええー?」
この後、低い場所で少しマーレさんの飛ぶ練習をしたが、問題無さそうだったので高度を上げてタイワルの洞窟へ向かった。
「アハハハハハ!私は鳥よー!鳥になったわー!!」
満面の笑みで両手を広げ、俺の横をくるくる回転しながら飛ぶマーレさん……まあね?俺も初めて飛んだときクロールしてはしゃいだからわからなくはないけどさ。こうして見る側になると……痛いな。
「アハハハハハ!見て見て!立ちながら飛べるわ!あ!下!下見て!魔物がゴミクズのようよ!アハハハハハ!!」
器用に立つように飛んだかと思うと、地上の牛の魔物を指差して高笑いを始めたマーレさん。飛んだことでハイになっちゃってるな。相手するのもめんどくさいし、さっさと洞窟に行っちゃうか。
「マーレさん!飛ぶのも慣れてきたみたいだし、飛ぶ速度を上げましょうか」
「アハハハハ……え?私これでも結構本気よ?これ以上はちょっと……」
「大丈夫、俺がやるから。ちゃんと水平に飛んでね?」
重力魔法で前方に引力、後方に斥力っと。重力魔法を展開した瞬間、俺達の飛ぶ速度は劇的に上がった。
「き、きゃあああああああ~~~~!!」
急すぎたのかマーレさんは立ってる状態から滑ったように仰向けで前方に足、後方が頭で赤い髪を盛大に逆さまに靡かせて飛んでいた。
「…………まあいっか!」
「いやあああああ~~~!!止めて~~~~!!」
俺は笑顔でまだ遠くに見える山に向かって高速で飛んだのだった。
◇
山が目の前に見えた頃、洞窟のようなものを発見できたので恐らくあそこがタイワルの洞窟だろうと俺とマーレさんはその洞窟の前に降りた。その山に掘られた穴は馬車2台は並んで通れそうなくらいの大きな穴だった。
「はぁはぁ、し、死ぬかと思ったわ……」
「移動はだいたいこんな感じになるから慣れてね」
「まさかあんなバカげた速度で飛ぶなんて……それにしても何で飛んで山を越えないのよ。それにタイワルの洞窟ってレーテちゃん、アースドラゴンのこと知らないの?」
マーレさんはぼさぼさの髪を直しながら聞いてきた。
「ちょっとアースドラゴンも見てみたくてね……それに美味しそうだし……」
「え?何?最後の方、聞こえなかったけど」
「まあまあ、大丈夫大丈夫、入ろ入ろ」
「ちょっとちょっと!わかってるの?アースドラゴンよ?たしかにレーテちゃんの魔法は強力だけど…………って、あ~、もう!いい?アースドラゴンに見付かったら逃げるのよ?私達なら飛んで逃げればきっと逃げ切れるわ」
マーレさんの背中を押しながら俺は洞窟へと入っていった。
洞窟はエスタールで入った迷宮と似ていたが、あの迷宮と違い中は真っ暗だった。
「真っ暗だね」
「私のリュックの中にランプがあるからそれを……」
「多分大丈夫、ライト」
光る玉をイメージして3つほど俺達の周りに浮かしてみた。3つの玉は洞窟を照らし10mほど先までは見通せるようになった。
「しゅっぱーつ!」
「レーテちゃん何でも出来るのね!さすが私のレーテちゃんね!!」
洞窟は少しじめじめしているが涼しく、また移動用に作られたため迷宮のように道が入り組んではおらず迷うことなく進めた。
安心して進んで行くと暗がりに何か動くものが見えたので、アースドラゴンに奇襲されるとマーレさんがあぶないかな?と思って魔眼で見てみることにした。
名前:ロックゴーレム
種族:ゴーレム
性別:無
Lv:47
魔法適正:土
スキル:頑丈Lv4
名前:ロックゴーレム
種族:ゴーレム
性別:無
Lv:45
魔法適正:土
スキル:頑丈Lv3
ロックゴーレム、ゴーレムか……メタルゴーレムと違って全然弱そうだなぁ。
しかし、岩だな……。人型だけど頭が無いし、でかい胴体の岩に岩の手足をつけてみましたってとこか。大きさは2mくらいあってでかいけどアレくらいならライトニングで……。
「レーテちゃん!ロックゴーレムよ!」
「あ、はい、そうですね」
振り向いた所で偶然マーレさんのステータスも見えてしまった。
名前:マーレ
種族:人間族
性別:女
年齢:22才
Lv:62
魔法適正:火、土、光
スキル:魔力身体強化Lv4、体術Lv4、剣術Lv6、盾術Lv3、槍術Lv3、回避術Lv4、受け流し術Lv5、農業Lv2
おー、人間に初めて魔眼使っちゃったよ!見え方がカードに似てるな?こんな風に見えるのか。
『お主に理解しやすいように変換されておるのだろうな。最初にカードのステータスを見たのでそれが基準になっておるのだろう。本来なら様々な情報が頭に入ってくる程度のはずだ』
『魔眼って思ったより便利だな!』
『お主は魔眼を全然有効活用してなかったからな……』
聞こえない、何も聞こえない。
「レーテちゃん!私が前に出るから魔法でサポートを!」
話しを聞く前に俺は手をロックゴーレム達に向けて、ライトニングを放っていた。
ズガーン!!光る雷はロックゴーレム達を包み込み壁へと衝突。壁には溶けたような穴が開き、その前に居たロックゴーレム達は塵も残さず消滅していた。
倒すといつものように白いモヤが俺に飛んできた。
剣を鞘から抜いて今にも走り出しそうな体制で、マーレさんがこちらを振り向き止まっていた。
「あー、よ、弱そうなのは俺が倒しますよ?」
「すごいわ!あの迷宮で使ってた魔法ね!ロックゴーレムも一応Bランクの魔物なのに、レーテちゃんからしたら雑魚ね!!」
剣を鞘に収めてぴょんぴょん飛んでいる。
白いモヤはやっぱり見えて無いみたいだな。と少し安堵していると、マーレさんが少ししてジャンプを止めピタッと動きを止めた。かと思うと……近づいてきてぐいっと顔を寄せてきた。
「でも!私の強いとこをレーテちゃんに見せたいから、次は私にも戦わせて!」
「りょ、了解です」
「じゃあ、行きましょう!次よ次!!」
洞窟をズンズン突き進むマーレさんを追いかけて進むと、今度はカサカサと何かが這うような音が聞こえてきた。
「マーレさん」
「ええ、あの岩の向こうに何か居るみたいね」
遠くのぎりぎり光が届いて見えている岩の向こう側に何かが居るようだった。
ちょっと遠いかな?魔眼で見えるかな?
名前:ロックリザード
種族:リザード
性別:♀
Lv:58
魔法適正:土
スキル:爪術Lv4、硬質化Lv3
名前:タイラントリザード
種族:リザード
性別:♂
Lv:81
魔法適正:土
スキル:魔法半減☆、爪術Lv7、硬質化Lv5、回避術Lv5、炎耐性Lv5、雷耐性Lv5
え?1匹レベル高くない?マーレさんより強いじゃん!
「見えた!ロックリザード2匹よ!……何か1匹大きいわね?まあいいわ。行くわよ!きゃっ!!」
マーレさんが飛び出そうとした瞬間、頭上から音も無く何かがマーレさんに襲い掛かった。
名前:ダークバット
種族:バット
性別:♂
Lv:32
魔法適正:風、闇
スキル:牙術Lv3、吸血Lv2
名前:ダークバット
種族:バット
性別:♂
Lv:29
魔法適正:風、闇
スキル:牙術Lv2、吸血Lv2
名前:ダークバット
種族:バット
性別:♀
Lv:35
魔法適正:風、闇
スキル:牙術Lv3、吸血Lv2
50cmくらいの黒いコウモリが3匹、マーレさんを襲っていた。2匹はマーレさんに飛びかかりながら、1匹は後方から風を巻き起こしているようだ。
「く!弱いコウモリのくせに!私はロックリザードを倒してレーテちゃんに良いところを!」
マーレさんは左手に備えた小さな盾で頭上からの飛び掛るコウモリを逸らしながら、剣でコウモリを斬り裂いていた。
「それじゃあ、俺は奥の2匹を倒してきますね!あ、光は2つ置いていきますんで!」
「あ、ちょ!待ちなさい!ロックリザードは私が!ってもう!邪魔ね!」
追いかけてこようとしたマーレさんだが、ダークバットの風の魔法を一斉に受けて踏みとどまっていた。
「「シャーーー!!」」
「さて、そこのちょっとレベルが高いトカゲさん!ちょっとあぶないから消えてもらうよ!ライトニング!」
ロックリザードとタイラントリザードは見た目はほぼ同じで、どちらもゴツゴツした岩がいくつも体に張り付き、まるで岩の鎧を着ているトカゲだった。
また、手足には大きく鋭い鉤爪が3本ずつ備わっており、さらにロックリザードは頭には捻れた角が1本、タイラントリザードには縦に並んで2本生えていた。
2匹のトカゲ目掛けてライトニングを放つと2mほどのロックリザードは消滅したが、レベルの高い3mほどの大きなタイラントリザードはライトニングに耐え切っていた。
「魔法半減と雷耐性のせいで倒せないか……。丁度いいしアースドラゴンの前に、このトカゲのお肉をもらうか!」
お肉にするために空間収納から、2mほどある黒く赤い宝石がついた両刃の両手剣、バルムンクを取り出し両手で構える。
「シャーーー!!」
タイラントリザードは仲間を殺されて怒り狂っているのか、叫びと同時に口から大きな岩を吐き出して飛ばしてきた。
それを左にジャンプして躱すとタイラントリザードはそれを狙っていたのか、空中に居る俺にもう一度口から大きな岩を飛ばしてきた。
即座に岩に左手をかざして空間魔法の黒いモヤを作り消滅させる。岩を飛ばした隙にタイラントリザードは近づいていたのか、岩を消滅させた直後に右横から飛び掛かり左前足の爪で俺を切り裂こうとしてきた。
「うおっ!」
後方に下がって爪を躱すが、岩を消滅させて安心していたために少し躱すのが遅れ、タイラントリザードの爪によりローブの腹の部分がザックリ切られてしまった。
「あー!俺のローブが!」
「ホーホーホーホー!」
俺がローブを切られたことにショックを受けていると、今の衝撃でアウルが起きたのかお怒りだった。
「黙りなさい!悪いのはあのトカゲだ!くっそぉ、お肉のくせに生意気な」
タイラントリザードは俺と距離を取りつつ飛び掛る隙をうかがっているようだった。
「まずは尻尾からだ!」
俺は地を蹴り右の壁を蹴り、次に逆さまになりつつ天井を蹴り、タイラントリザードの頭上から高速で右後方に着地する瞬間、バルムンクを右手で持ち尻尾に横薙ぎを放って着地した。
「シャーーーー!!」
バルムンクは硬質化のスキルを持つタイラントリザードの岩の皮膚を物ともせずに簡単に尻尾を斬り裂いた。
「あらよっと!」
タイラントリザードが尻尾を斬られたことに悲鳴を上げている隙に左回りに振り返り、そのままバルムンクを両手で振り上げて上段から一気に振り下ろすとタイラントリザードの首は抵抗なく斬り裂け、バルムンクはそのまま地面をも斬り裂いた。
タイラントリザードの首は空を飛び、胴体の首からは血が噴出して力なく地面に倒れていた。
「ふう、お肉一丁上がり」
地面からバルムンクを抜き、一仕事したぁと左手でおでこを拭っていたらマーレさんがダークバットを倒してこちらを見ていた。
「…………レーテちゃん……剣もすごいのね……それにその剣レーテちゃんより大きいし……」
えぇ、マーレさんの剣術スキルをコピーさせてもらいましたからね。その節はありがとうございます。
そんなことを考えながら空間収納にバルムンクとお肉ことタイラントリザードの死体を回収し収納した。
「さあ!進もう進もう!」
少し呆然としているマーレさんの背中を両手で押しつつタイワルの洞窟を進むのであった。
レーテがやっと魔眼を有効活用し始めました。
魔物のステータスにも性別を追加しました。