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第十二話「魔剣と迷宮 -前編-」


 元素魔法を覚えて1週間、俺はこの1週間テジンの宿屋で美味いご飯を食べ、特大肉団子の肉がホーンマウスだと聞きちょっと複雑な気持ちになりつつ…適当に冒険者ギルドのクエストをこなしていた。


 ある時は平原でグランドバッファローという牛の魔物の角を狩り、角を納品してステーキもついでに食べようと1匹拝借しようと思ったら群れで一斉に突進してきて迫力に負けて空を飛んで逃げたり…。


 ホーンマウスの角を取りに行き、角を斬り回収っと思ったら角なしのただのでかいマウスで…俺のせいだよな?ちょっとコレ苦情言われるんじゃね?と心配になり数日ホーンマウスの角が生えるか朝1番で確認し、3日目にしてようやく折れた角から小さい角が生えてきていることに安堵し…。


 美味い串焼き屋が有名になっていたので食べに行き、美味い美味いと10本食べて何の肉?と店員さんに聞いたらまたホーンマウスと言われ…。


 防具屋を見に行こうとしたらローズフォール服店のアンナさんにまたドナドナされて着せ替え人形にされたり…。


 魔力操作でだだ漏れの魔力を抑えたり出来ないか?と試したら成功。成功した!と喜ぶとアウルがだだ漏れの魔力を食ってたらしく盛大にアンテナを引っ張られ、たまに魔力を手からあげることになり…。



 そんなこんなでCランク冒険者になった俺は今日も元気にランカさんに会いに行く。今日は青いローブで爽やかさアップだ。


 朝1番ランカさんに朝の挨拶をしてから掲示板でクエストを物色する。それが俺の1日の活力となる。


 バン!ガランガラン!


 ギルドに入るといつも以上にザワザワガヤガヤしている。相変わらずボンバーヘッドのおっさんも居る。あの人いつ来ても居るんだよな…しかもいつも1人だし、大丈夫かボンバーヘッドよ。


 とことことランカさんの下に向かう。周りは何やら興奮したように鼻息が荒い。ほんとにどうしたの?


「おはようございます。ランカさん!」


「あら、レーテちゃんおはよう。今日も早いわね。えらいえらい」


 ふふふ、これで俺は今日も頑張れますよ!そう俺がニヤニヤしてたら後ろの声が聞こえてきた。


「おいおい、どうするよ?新迷宮!俺らも行っちゃう?行くしかないでしょ?」


「あたいらじゃ厳しくないか?強い魔物が出るかもしれない」


「でも荒らされて無い迷宮だぜ?お宝ざっくざくかもしれねえじゃねえか」


 迷宮だと!?性別変えれるアーティファクトがあるかも・・・試しに入るしかないね!それしかない!


「ランカさん!新迷宮!どこですか!」


 カウンターに身を乗り出しランカさんに迷宮のことを聞いてみた。


「ちょ、ちょっと教えてあげるから落ち着きなさい」


 ランカさんは俺の肩を押してカウンターから下ろさせる。ボディタッチや!と喜びつつ話を聞く。


「もう…、新迷宮はエスタールから北に3時間ほどの所で見付かったの。急に丘の下に洞窟が出来ていたらしいわ。自然発生の迷宮ね。結構広いらしいけど入り口付近はそんなに強い魔物は居なかったらしいわ。一応Cランク以上の冒険者に探索のクエストが出てるけど…」


「探索のクエストって何するんですか?」


「あまり特別なことはないわよ?あとでどうなってたか別室で報告してもらうくらいかしら。報酬は情報量によるし…あんまり報酬は出ないのよ。迷宮で取れる物がメインの報酬ってことになるわね」


 ふむ、それなら全然問題ないな。職員1人連れて行って一緒に探索とかだとめんどくさそうだし丁度いいや。


「受けます!」


「ダメよ」


 まさかのお断り…。ランカさんの真面目な言葉が続く。


「レーテちゃんはソロでしょ?迷宮はあぶないの。いくら入り口付近の魔物が弱いからってソロでは危険なの。諦めない」


 ランカさんの強い口調にうっ…とひるむ。


「で…でも!」


「でもじゃないの!本当にあぶないの。奥はどうなってるかもわからないし。ソロじゃクエストの登録は出来ません。どうしても行きたかったらCランク以上の人を2人以上連れてきなさい。3人パーティなら登録してあげるわ」


「うぅ…わかりました…」


 ランカさんのあまりの迫力に俺はとぼとぼとギルドを後にする。


 中央広場のベンチに座りはぁ…と溜息をつく。


 迷宮探索出切ると思ったのになぁ…あわよくば性別転換出来そうなアーティファクトをゲットの予定が…!そう思うとまたはぁ…と溜息が出る。


『何をそんなに落ち込んでおるのだ。場所は聞いたのだからこっそり行けばよいであろう?』


 はっ!なるほど!そうだよ。別にクエスト登録しないと迷宮に行けないわけじゃないじゃないか!


『おっさん!ありがとう!いざ行かん!迷宮へ!』


 俺は立ち上がり気合を入れて迷宮へ向かうのだった。




 北に3時間ほどの所と聞いていたが、魔力で身体強化をした俺は風のように走り30分ほどで、新迷宮が出来たというそれっぽい丘に到着していた。冒険者みたいな人が複数居るから間違いないだろう。


 人の居る方へ向かうと何やら入り口前で衛兵のような人に冒険者がカードを見せている。


 …あれ?もしかしてクエスト登録の確認でもやってるんですかね?不安になりつつも列に並ぶ。


 よし、通れ。前の人の確認が終わって中に入っていく。ドキドキしながら衛兵さんの前に出る。


「カードを」


 ぶっきらぼうに一言だけ発し右手を差し出してくる衛兵さんにカードを渡す…。大丈夫かな?入れるかな?


「…ふむ、Cランクだな。いいぞ、通れ。だがソロで無理はするなよ」


 ランク確認だけだったようだ。よかった。心配してくれたのだろう、カードを返されつつお礼を言いながら入り口に入る。


 迷宮の穴はまさに洞窟。道幅は5mくらいあり、洞窟なのにやけに明るい。どうやら洞窟自体がほんのり光っているようだ。どうなってるんだろうなぁと思いつつ魔物にもまったく会わずに進んでいく。


 少し進むと広めの天井の高いドーム状の空間に出た。ここには冒険者何人かが魔物と戦っていた。


 ……あれ、コアラだよな…。目の前では二足歩行で格闘戦闘するコアラがいる。たまに蹴り技も放っているが短すぎて隙にしかなっていない。その隙を見逃す冒険者でもなくコアラは着々とダメージを受けたようで倒された。


 コアラが…と思ったが顔を見ると野犬がグルルルル!と言ってる時の様な怖い顔していたので倒されても仕方が無いと思い先に進む。


 進んでいるとたまにコアラとも遭遇する。コアラは常時二足歩行の様で鈍足だ。走って振り切ればコアラを殺さなくて済む。あの怖い顔を拝まなくて済むのだ。


 それにこのへんは冒険者が多い。コアラを相手してくれているから助かる。


 走り続けると結構奥まで来たせいか冒険者を全然見なくなった。今度は白い狼の魔物が絡んできた。逃げる。逃げる…しかし、コアラと違いさすがは狼、この速度では振り切れないようだ。仕方ないちょっと本気を出してあげようではないか!


 ふふん!と速度を大幅に上げる。すると狼はぐんぐん小さくなっていき…よしよしと前を向くと直角コーナーがあった。俺はがんばったががんばり空しく壁に激突する。


 ドガン!…これがほんとの壁ドン…。はっ!そんなこと言ってる場合じゃない。ちょっと早すぎたんだ!このくらいなら!


 俺はさっきよりかなりスピードを緩めて逃げる。逃げる。また狼だ。3匹もかよ!逃げる。また居る!逃げる。今度は赤いクマかよ!逃げる…。それを何度も続けて少し魔物と会う頻度も少なくなったので振り切れたかな?と後ろをチラッと振り向くと。


 そこには通路ぎちぎちに狼とクマが走っていた。狼とクマは横に走っている魔物とぶつかりながら俺に向かってくる。何匹いんだよ…通路の結構後ろの方にまで狼とクマしか見えない。


 あいつら足早いよ…。コアラ鈍足プギャーとか思ってたらこの仕打ち…どうしよう。これ以上速度出すとまた壁ドンだしなぁ。


 そうこう走っていると遠くに赤い鎧の女の人がクマ2匹と戦っている。結構良い勝負だ。あそこにコレを…連れてくのはひどいよね。


 しょうがない、後ろの大群を片付けるか。俺は自分からは出来るだけ殺生はしないが、殺す気で襲ってきた奴なら殺生も仕方が無いってタイプだからな!


 急ブレーキして振り返る。奴らとの距離は50mほどだ。数は100か200かそこらだろうか?


「チミ達、逃げるなら追わぬぞ?」


 俺はカッコよくそんなセリフを吐きながら適当な構えを取った。




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 私はマーレ、Aランクの冒険者だ。ランクポイントが足りずSランクにはなれていないがレベルはSランクの条件の60を越えてもう62だ。


 自分で言うのもなんだが年の割りに強いと思う。今年で22歳、農作業を毎日するのが嫌で冒険者になって7年。最初はなかなか大変だったが良い仲間に恵まれ着々とレベルとランクを上げることが出来た。


 しかし、男というのはやっかいだ。5年ほどして私を巡り仲間内でトラブルになった。こんな私のどこがいいのか。居心地が悪くなるパーティ。


 トドメは仲間の味方だと思っていた女の子が私を巡りトラブルを起こしている男の1人を好きだったようで、私をナイフで刺し、さらには惚れている男をも刺したのだ。幸い2人とも命に別状は無かったもののこのことでパーティは解散。


 5年も共にした仲間があっさり解散である…。それから私は基本ソロで活動している。そのせいで少しRP稼ぎが遅れているがSランクまでもう少しだ。


 今日は新しく見付かった迷宮に来ている。ここで最奥まで辿りつきアーティファクトクラスの財宝を手に入れ、最奥までの探索報告をすればきっとSランクまで上がるだろう。私は気合を入れてこの迷宮に突入した。


 最初は弱い魔物ばかりだった。動きが愛らしかったが顔が怖い。しかも短い手足で格闘戦は致命的だろう。蹴りを放つ時など致命的だ。さくさくと魔物倒し奥へ進めた。


 しかし、奥に行くと急に魔物が強くなった。Aランクの私でも苦戦する魔物ばかりだった。


 白い狼はシルバーウルフだろう。Bランクの魔物だと聞く。赤いクマの魔物は見たことも聞いたこともなかった。巨体のくせに素早く力も強い。一度鎧に攻撃を受けたが鋭い爪で鎧が簡単に傷ついた。きっとAランクの魔物に違いない。


 それにこの2種の魔物達、私のミスリル製の剣がなかなか通らない。大抵の魔物なら抵抗なく斬り裂くことが出来る私の剣。しかし、その丈夫な毛が邪魔しているのだ。いったいあの毛は何で出来ているのか!


 ほぼSランクの私でも3匹までは平気だろうが、4匹はどうだろう…5匹になるときっとあぶない。


 今だってその恐ろしい赤いクマを2匹相手しているのだ。目を狙い、隙を作り、やっと1匹倒してさあ次だ!


 そんな時だ。アレがやって来たのは…。


 ドドドドドッ!!地鳴りがしたかと思って音がする方向へ私は振り向いた。


 そこにはすごい勢いで走る青いローブの小さい女の子がいた。頭にフクロウを乗せ、綺麗な黒い髪をなびかせ、可愛い顔だが私のことを見るやすごい顔をした。


 でもそんなの問題じゃない…。その後ろ、そこには黒い塊の絶望が見えた。


 5匹であぶないと思っていたのに、その強い魔物達があの子の後ろには通路一面に存在している。通路の先が魔物のせいで見えないほどだ。


 数なんて数えられない…10匹や20匹じゃない。100匹…それ以上だ。


 私と戦っていた残りの赤いクマの魔物も口を開け、あの黒い軍勢を見て呆然としている。


 迷宮ではたまにどうしても倒せず逃げて、他人に助けを求めるという場合は存在する。しかし、それはトレインと言われ、あまり良く捉えられない。


 それはそうだろう。もし、ぎりぎりの戦いをしている人の前に追加の魔物を連れて行き魔物がそっちを向いたらその人は生きていられないだろう…。


 まさに今の私はそれに近い。私は何であんな大トレインを!!と悪態をつきながらも死を覚悟した。


 そんな時である。あの小さな女の子は信じられない行動に出た。今まで大トレインを引っ張って必死に逃げていたはずなのに走りをやめ振り返ったのだ。


 まさか私のため?私に逃げろと?その時間稼ぎをするというの?


 あの小さい女の子もここに入れたのだ。それはCランク以上の冒険者ということだ。


 あの年でCランク、よほどの努力をしたのだろう…ううん、それだけであの若さで辿りつけるとは思えない。きっと天才なのだろう。こんな所で死なせていいのか?どうにかあの子と私、この死地を抜け出せないか?


 うん、とりあえず1人で逃げるくらいなら私も戦って死のう。…出来れば一緒に逃げよう。


 そう思い一歩踏み出そうとした。その時である。あの子は手をあの魔物の軍勢に向ける。すると次の瞬間、轟音。そして彼女の先の通路は輝く雷で埋まっていた。雷が収まると何も無い、普通の洞窟の通路が目に見えた。


 あの魔物の軍勢はどこにいったの?塵すら残さずそこにはフクロウを頭に乗せた女の子しか立っていない。


 何が?と見ていると女の子はこちらを向き、こちらを指差しながら手を振って何かを叫んでいる。


 もうわけがわからなすぎて反応できない。


 私が止まっているとあの子はこちらに手向けた瞬間、輝く雷が私に向かって飛んできた。


 ……違った。私の横の赤いクマだ。赤いクマは私が呆けている間に復活し私にその鋭い爪を備えた手を振りかぶっていたのだ。


 輝く雷は赤いクマを貫き、塵すら残さず焼き尽くしていた。


 私は女の子を見た。目を見開き、きっと最初のあの子よりすごい顔をしているだろう。


 あの子は走ってきた。走ってきたと思ったらそのまま通りすぎる。


 すれ違い様に「どうも~、お騒がせしましたぁ」と頭を下げて去っていく。


 私にそれを止めることは出来ない。あの雷は何だったの?あなたは誰?と聞きたいが体が動かない。


 あの子はすごいスピードで去っていく。もう見えなくなった…。


 すごい、すごい!彼女は誰?Cランク何かじゃない!きっとSランクなんだ。あの幼さであの強さ。また会えるかな?会いたいな…。それでいろいろ聞いてみたい。


 それに通り過ぎた時の彼女はすごく可愛かった。抱きしめて頭を撫でたい。


 うん、絶対に会おう。きっとエスタールのギルドに行けば会える。会えるまで探そう。


 私はそう心に決め頷いた。今日はエスタールに戻ることにしよう。




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