月と変な生き物
ただの会話です……。
「やーいやーい、月やーい」
「……何かな──」
夜空に浮かぶ月は、体が欠けている。
「今日も体、欠けてんのかー?」
「キミだって、人のこと言えないじゃないか──」
月はソレに向かって言った。
ソレは、グニャグニャしており、目と口があるだけだ。
「お、オレはいいんだよ! まだ成長過程なんだ!」
「そうなのかい? そうだったらいいねえ」
と月はくすくすと笑う。
ソレはムッとしたようにしてから、ピョンピョンと跳んだ。
「そうに決まってんだろー! お前と違って欠けてなんかないんだ!」
そう言って、ソレは目一杯空に向かって伸びた。
*
数日後、またソレは、月を見て言った。
「お前、また体欠けてないか? 前より細い気がするぞ?」
「そうかい? 特に異変はないよ」
と月は言う。
ソレは「そうかよ」と言ってから話題を変えた。
「あ、聞いて驚け! こないだよりオレは、大きくなった!」
「へえ、良かったじゃないか」
「だから、いつかお前を抜かしてやるんだ!」
「ええ? それは無理じゃないかなぁ」
と月が苦笑いで言うので、ソレはキーッとピョンピョン跳ねる。
「無理とか勝手に決めつけんな! 絶対抜かしてやる──」
月はピョンピョン跳ねるソレを見て、くすりと笑った。
*
それからまた数日。やっぱり月は細くなっていた。
「……なあ、やっぱり細くなってるよな、それってストレスか?」
「ストレスだとしたら、君のせいだね」
「なに?! ……まぁ、そうなのか?」
「ボクに聞かれても……」
と月は苦笑いする。
ソレは少し考えて、グッと伸びた。
「たまには丸じゃなくて、楕円みたいになって伸びてみればいいんじゃないか? ずっと丸だと疲れないか?」
「いやぁ、ずっとこうだから……慣れちゃったよ」
「そうか……」
とソレはポヨンと縮む。
月は微笑んで、ソレに訊いた。
「もしかして、心配してくれてる──?」
「そんなわけないだろ。お前なんかいなくたって、オレは困らないんだ。ただ、話す相手がいなくなるのは、その……新しい話し相手探すのが面倒だろ」
「あぁ、なるほどね。大丈夫だよ──」
月は微笑んで、ソレに言った。
ソレは月にばれないようにホッと息を吐いた。
*
「……ぇ──?」
ある日、月は消えていた。
ソレは動揺した。
ウニャウニャと動いて、月を探す。
けれども、目にはいるのは星ばかりで、全く月は見えない。
「なんだよ……嘘だったのかよ……!」
空を見上げて、ソレは叫ぶ。
「大丈夫なんじゃないのかよ! 消えてんじゃねえか! なんだよっ……」
勢いが段々となくなり、ソレはふにゃりと地面に広がる。
「ストレスだったんじゃねえか……早く言えよ……」
きゅっと口を結び、力無く息を吐く。
「……話し相手、いねえじゃねえか──」
そう呟いて、ソレは小さく丸まった。
*
それから数日。ソレは夜空を見上げて口をぽかんとさせた。
月がまた細いまま居たから……。
「あ、久しぶり──」
「……おまっ、何で……」
「ちょっと眠ってたんだ。これからボクは丸くなって、欠けていく。そして、また眠る」
「消えてたんじゃないのか……」
「え?」
ソレは心配したと思われるのが嫌で「なんでもない」と口を閉じた。
「いやー、心配させちゃった?」
「してねえ」
「そっか」
と月は笑う。
久しぶりに見た月に、ソレは言った。
「……話し相手、いなかった」
「あ……、人見知りするタイプだったっけ?」
「はあ? ……もういい──それより、今までの分、聞けよ」
とソレはググッと伸びる。
「いいよ。聞く聞く──なんか、大きくなった?」
「よく気づいたな! これでお前を抜くいつかに、確実に近づいている……!」
「おお、頑張れ」
と月は笑う。
ソレはむふふと体をウヨウヨ動かした──
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