現実だと認識してる少女(玲視点)
「はい、玲。あーん」
「あー…ん」
ぱくりと差し出してくれた卵焼きを食べる。
しょっぱめの味が口内に広がり、とても美味だ。
「美味しい?」
「ああ」
私の膝に横向きに座り、箸と中身の入った弁当箱を持つのは恋人で婚約者の闇羅悠姫。
嬉しそうに柔らかく微笑んでて、可愛いなぁ。
そんな可愛い可愛い可愛い可愛い悠姫の後ろで、攻防戦が起こっている。
防いでいるのはここ、悠姫のクラスの生徒全員で攻めているのは攻略対象達。
私は、転生者だ。
しかも「まほぷり」のライバルキャラ、水無月玲という存在になった。
だが、神は何を思ったのか私を男にしたのだ。
記憶が戻った三歳の時、股に違和感があったから見たら……ありましたよ。
まぁ、体が弱かったから健康になる願掛けのため、女装してたけど。
パーティーに参加する大人もみんな知ってたけど。
そんな私はあるキャラが好きだった。
氷河涼だ。
彼を初めて見た時に、ちび涼だと喜んだ。
喜んだが、あることに気づいた。
私は氷河涼を知ってるから惚れることはないと。
思わず呆然としてしまった。
さらに私の性別は男。
確実に無理である。
そんなことも知らない涼は、私にプロポーズをしていた。
曖昧に誤魔化したのが悪かったのだろう。
次の日から彼は、私の婚約者だと言ったのだ。
しかも誤解を解こうにも、私は風邪をひいた上に肺炎になっていた。
それで遅くなり……涼は、完全に自分は私の婚約者だと思い込んだ。
二重の意味で泣いた、あの時。
それからは自分の家以外では女装のまま、育つことになった。
この学園に入る時も女装のままだった。
体は男で少しずつ影響されてたので、辛すぎて裏庭で泣きそうになった。
『どうした?』
柔らかい声がした方を向くと、ユウキがいて驚いた。
漆黒の髪に紅い瞳。
そんな色彩を持ってる人は、この学園では一人。
隠し攻略キャラ、闇羅ユウキ。
一人のキャラを十回ほど攻略しないと現れない、闇属性魔法使いだ。
けれどユウキは悠姫で、女だった。
イレギュラーなことに驚いたが、彼女は私の目尻に溜まった涙涙を拭うと。
『そんなに泣いちゃ駄目だ。せっかく、綺麗な色の目が溶けるよ』
この瞬間、精神百合とか考える隙もなく悠姫に惚れた。
私は体が男だから、悠姫と婚約出来る。
だけど私に惚れてほしい。
なので頑張った。
デートにも誘ったし、私の事情を知ってるので私を男だと意識させたり……前世の彼氏、ありがとう!!
私に惚れたと分かった時に告白し、受け入れてもらえた。
嬉しすぎて思わずその場に押し倒し、最後までしちゃったのは……ごめんなさいと土下座した。
空き教室で良かった、防音結界を張る道具使って良かったと本気で思った。
まぁ、悠姫本人は「この一発で子供が出来れば玲と一緒にいれる…」と呟いてて、怒ってなかったけど。
むしろ、その後に誘われて一回、可愛すぎて歯止めが利かなくなって五回くらいしたけど。
最終的に気絶した悠姫を見て、自分が絶倫だと知って反省。
まだ学生な上に婚約者じゃないから子供を孕ませるのはヤバかったので、この時は出来てなくて良かった。
あの転生者ヒロインが来ても放置して悠姫といちゃいちゃしてたのに、嵌められそうになったけどな。
こっちの家から持ち掛けた縁談に、闇羅当主はあっさり話を進めてくれた。
タイミング良すぎだって。
でも、これで心置きなく悠姫を可愛がれるから不満はない。
あの勘違い眼鏡も捨てられる。
男の姿に戻れる。
一石二鳥どころか一石三鳥だった。
悠姫も転生者だったのは驚いたけど。
「私の可愛い婚約者を狙うとはな…」
「仕方ない、この世界は重婚OKだから。しかも私は闇属性」
そう。
闇属性は光属性よりも希少だ。
だからこの二つの属性のため、重婚は許されている。
だけど。
「悠姫は私の悠姫だ」
これは事実。
私は悠姫を愛している。
だから不愉快。
悠姫は柔らかく微笑み。
「知ってる。だからあの馬鹿どもはそろそろ勘当されるよ。あの女と一緒に監禁されて、子供を作ることを命令されて、ね…」
そう言われた言葉で思い出す。
そういえばあいつらって、自分よりも優秀な兄や姉、妹や弟がいたっけ。
なら大丈夫だな。
闇羅家は王家とも関わりがあったから、必ずだろうな。
「悠姫、愛してる」
「私もよ、玲」
藤宮聖は先に監禁されて調教されてます