~雲が空を覆い隠す
あの日僕は水汲みの為近くの池へと居た。
正直、10年間この仕事をしてきたが住んでいる家までバケツに入れた水を持っていくのはかなりの重労働だ。でも、彼女に運ばせるのも男としてどうかと思う。だから、やっている。
「優斗、そろそろ食事だから帰ろ」
優しい言葉で僕の後ろへ立って言ってくる彼女、桜。
「うん」
僕は立ち上がった。そして、満杯に水が入ったバケツを持ち彼女の横へと足を向けた。
「持とうか?」っと言われたが僕は断った。
僕はこんな平和な生活を10年続けてきた。あの日からずっと。
城にいた時はこんな重労働をしたことがなかった。でも、いつか国の長になる為勉学に励まされた。僕は、親に従って勉学に励んだ。
今思うと、どっちが幸せのかと思うと城にいた時の方が幸せだったのかもしれない。
でも、この日ちょうどあの日から10年が経った日。恐ろしい事が起きた。
雲が空を黒く覆い雨が降りそうだった。
この日は彼女が「急いで帰ろう」と言ったので小走りに歩いた。
いつもなら、重いものを持っている僕を気遣いゆっくりと行くのに彼女は「早く」と言っていた。
まぁ、僕は早くこの水の重さから解放されたいから別によかったが正直手が痛かった。
「ごめん。ちょい休憩」
そう言って水の入ったバケツを持つ。手からは血が出ていた。さっきの池で切ったのか。どくどくと血が出ていた。
サァーと風が吹く。その瞬間、彼女が僕の近くへと歩いてきた。
いつもの彼女とは大きく違っていた。
『 ――――だから、早く帰ろうって言ったのに』
その瞬間彼女が口を開け僕の首筋にかみついた。
「!!?」
なんだ?何が起こっているんだ?混乱の中僕は首に感じる痛みに鋭い恐怖を覚えた。
そう、彼女は吸血鬼となってしまった。
自分の首筋からどくどくと血が流れているのを他人事のように見ながら意識が薄れていくのを僕は感じた。