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13.エリシア、惑う

お気に入り、評価、ありがとうございます。

いきなり読んでくださる方が増えて少々ビビっている小心者ですが、レビューの凄さを実感しました。


これからも読んで頂けるよう、頑張ります。



 結局部屋に戻ってきたエリシアが不貞寝するようにそのまま大きなソファで眠りについて、数時間。朝日が昇る前の薄暗い時間帯に続きの部屋からの物音で意識が浮上した。

 入り口にかかったカーテン越しに動く、なるべくおしころそうとしている気配に、ああ、今日は早いな、と目を開けずにため息を吐く。慣れない他人の気配に眠りは必然的に浅くなって、隣室にいる人間が立てる音でもすぐに目が覚めてしまう。

 それだけなら別にどうという事もないが、扉さえないカーテンの向こうにいるのは慣れ親しんだ妹や近所の幼馴染などではない。いきなりチームを組まされた美少女だ。朝、ゴソゴソとカーテン越しに衣擦れの音がすると反射的に着替え中かもしれない、と思って固まる自分がこんな状況でも正常すぎて残念だ。


 覗かないけどねっ 竜に誓ったし、唯一の相棒だからね!


 誰に聞かせるワケでもないが、とりあえず心の中で吐き出してエリシアはモゾモゾとソファの上で体位を変える。室内に背を向けるように寝返りをうつと薄く開いたカーテン越しにまだ暗い空が見えてもう少し寝たいなと目を閉じた。

 ヘタレ、草食、結構。肉食だったら今頃ココに集った美女達に釣られて演技が大変な事になっていただろう。

 誰にも惚れるなよ、僕の理性。と念仏のように唱えているとカーテンが引かれる音が響いて人の気配が近づいてくる。

 ああ、また今日も憂鬱なコルセットタイムが待っている。

 出来れば少しでも先に引き伸ばしていたいなぁ、とそのまま動かずにいると、ソファの脇にやってきたマリーネはエリシアが寝ているかどうかを確認するように見下ろし、そっと身を翻した。


 ? 今日はまだ早いからかな?


 昨日とは違う行動にエリシアが瞼を閉じたまま耳を澄ませているとパタンとドアが閉じられる軽い音が飛び込んできた。パッと目を開けて体を起こして見てみても、室内には誰もいない。先ほどの音はマリーネが部屋を出て行った時のものだろう。

 流石に何も言わずに部屋を出て行くとは思わなかったが、おそらくまだ起こすのは悪いと思ってそっと出て行ったのだろう。今のうちにお茶を入れる為の水を貰ってくるつもりなのかもしれない。

 マリーネが働いているのにこのまま寝ているのもどうかと思い、起き上がって窓に掛かるカーテンを半分ほど開ける。窓も開くと穏やかな風が顔に吹き付けてきた。

 明け方の風はほんのりと涼しいが、国の中央にあるセオドールはエルトが住んでいる山奥よりも温暖な地なので何かを羽織らなくても大丈夫だ。この土地ならよっぽどの寒気が来ない限り外で寝て死ぬという事もないかもしれない。

 守護竜が炎竜だからだという学者もいるが本当だろうか。オルトワートの姿など誰も見た事がないのに。

 確かに他所の土地はセスティアほど安定した気候ではないと習った。エルトの村の冬が厳しいのは国境近くの山村だからかもしれない。


 ギリギリ竜の縄張りに引っかかる場所、か・・・・・・・・・ご先祖様、ほんとに嫌われてたのかな・・?


 窓枠に張り付いたままうな垂れていると見覚えのある人物が視界を過ぎった。顔を起こして眺めた先に、先ほど部屋を出て行ったマリーネがはいる。

 頭上から眺めるエリシアには気付いていない様子でサクサクと中庭を横断するその足が、不意に止まった。木立や建物の影に隠れてギリギリ見えるか見えないか位の場所で誰かに頭を下げる。


 ?


 誰に頭を下げたのかはココからでは見えなかったが、マリーネの前方に視線を向けるとかすかに白っぽいつま先と布切れが見えた。引きずりそうなほど丈が長い・・・・・・ローブ? いや、ドレスか?

 薄暗い上に遠目では判別付かず目を凝らすように凝視していると影から手が伸びてマリーネの手にそっと触れた。骨ばっていそうな大きな手は男の手だろう。

 手を見下ろしたマリーネは離れかけたその手に一瞬だけ触れて離し、幾つか言葉を交わしたのだろう、暫くの間の後、二人はそのまま建物の中へと消えていった。


 ・・・・・・・・・え? 何? 今の・・・・???


 何を目撃してしまったのかいまいちわからず、数度意識的に瞬きを繰り返したエリシアは、ようやくあれは逢瀬かな、と現実を見始めた。相手は男だったし、あの長い裾はローブかマントだろう。何時の間にそんな相手と知り合ったのか。

 言ってくれればいいのに、と少々拗ねたような気分で窓枠に突っ伏したが、実際にはエリシアに言う必要はないだろう。この身代わり計画に支障がなければ付き人の自由にしていいはずだ。―――が。


 ・・・・・・・・・・・美人に囲まれながら女装して男に媚を売って・・・・なんだこの青春・・・・・・


 唯一の協力者が青春を謳歌しているというのならばなおさらキツイ。一生分の恥を濃縮して体験しているような現状がいっそう辛い。削られていく僕のナニカを返せと関係者に訴えたい。

 実際に支払われた慰謝料のような口止め料は多分、今現在義父の懐の中だ。思い出すだけでも腹立たしい。

 カーティス家にエリシアの事を探りに来るかもしれないから、とエリシア登城の間だけ一時的に家に帰される事になった母は久々の休暇に義父と一緒でご機嫌だろう。義父大好きな母はあのロクデナシがどういう事をしようがまず間違いなく行動を止めない。

 僕が身を売られて出来た金で酒場を買い占めて宴会をしようが、遠出して博打でスッてこようが、女にばら撒いて抱いてこようが、「あなたおかえりなさい、愛してる❤」「俺もだ」 ガバッ で許してしまえるその懐の深さがわからない。許容量が深すぎて実の息子も恐怖すら覚える。

 まあそのくらい好きでなきゃ僕の下に三人生まれるなんて事はおこらなかっただろうけど、手が早すぎなんだよ、あのロクデナシ。

 僕が女性に対してヘタレになったのは絶対、あの防音率ゼロのボロ屋敷で稚い子供がいるのに遠慮がなかった夫婦の所為だろう。人間、あんなにしょっちゅう盛ってはいけないと思う。


「・・・・・・・・・・・ハァ~~~・・・・虚しい・・・・」


 窓枠に突っ伏したまま呟くとさらに虚しさが増した。

 早く山に帰って親父を殴りたい。今の内からでも冬越しの準備をしとかないと。今いい頃あいだろうな、狩りがしたいな。グレイに現状知られたら爆笑されそうだな。

 止め処なく溢れる思いにコレがホームシックというものだろうかと溜息を吐いた。こんな事をしている場合ではない。

 よしっ、と気合を入れて顔を上げるといつものスマイルを浮かべる。完璧な演技を今日も貫かなければ。女装姿で城に潜り込み、王子とお見合いしたなんてバレたら精神的、肉体的、社会的に死ぬ。

 僕は今は女性、大丈夫バレない、といつものように自分に言い聞かせていると、それを遮るように朝の空気を裂いて数度、ノックが響き渡った。わざわざ気付かれないように出て行ったマリーネがノックをするのもおかしいな、と思いながら自らドアを開けると、一昨日辺りからちょくちょくと見かける見慣れてきた顔が目に飛び込んできた。


「おはようございます。エリシア様」


 出会った時から変わらぬ無表情。この城支給のお仕着せを隙なく着こなして姿勢よく立ったシオナだった。

 嫌なタイミングで表れた押しかけ部屋付きの登場にエリシアは天を仰ぎたくなる。ヤバイ。

 朝が早すぎて特に化粧なんてしてないし、服だって偽乳はずっとつけているが、首元や肩、胸元のレース以外は特に誤魔化せそうにないシンプルな白絹のドレスだ。間近くで見られようものなら演技だけで誤魔化せる自信がない。

 一瞬でその事に思い当たり、無用心に扉を開けてしまった自分を恨みつつ即座にドアを動かすと、閉じる直前でシオナの手が割り込んできた。まさか女性の手を挟むわけにもいかず、扉が触れる直前で手を止める。何事も無かったかのように素知らぬ顔で再び扉を開けたシオナに片手で顔を隠しながら若干恨みがましそうな視線を送るが、相手はいつものポーカーフェイスを崩さなかった。


「・・・・・・まだ着替えていないから、用事なら後にしてくださらない?」


 言葉に出してはっきりと拒絶するとシオナは藍色の瞳を瞬かせて、ジッとエリシアの格好を見つめた。うわ、ヤバイよ、なんでそんなに見るんだよ、と内心冷や汗を掻いているエリシアには気付かなかったのか、特にエリシアに疑問を持った様子も無く顔を上げたシオナが一歩前に寄る。


「私がお手伝いしますよ。どのドレスがいいですか?」

「いえっ 結構っっ マリーネにしてもらうからっ」


 声が少し上ずったかもしれない。焦りを顔に出さないように顔面の筋肉を固定しながらエリシアは思いっきり仰け反ってシオナから離れた。こんな時、防波堤になってくれるマリーネがいないとかっ!

 こうなった原因はシオナの存在を許容してしまった自分にあるが、さっそく危機に陥ってしまった。


 いや、大丈夫っ この程度の問題、きちんと片付けられるっ! そうだろ僕!?


 必死に思考回路を制御していると、マリーネの名前を出されたシオナがエリシアの体越しに室内に視線を走らせた。そこにマリーネがいない事を確認しようとしたのかはわからないが、あまり動かない眉をほんの少し寄せ、ドアノブを握っていたエリシアの手にそっと触れた。


 ――って、僕手袋してないしっ!


 これはもう誤魔化せないだろう、と慌てて手を引こうとしたエリシアに、そうはさせじとシオナは力を込めて抵抗する。手元に視線を落として若干頭を下げたエリシアに顔を近づけて、その耳元に唇を寄せた。



「・・・そんなにマリーネさんを信用していいんですか?」



 ボソリとシオナが呟いた言葉に一瞬、エリシアの動きが止まる。一拍の静寂を置いて、エリシアがシオナの手を跳ね除けるように素早く距離を取った。


「・・・・・・私の従者を馬鹿にするつもり?」


 笑顔などない、鋭い視線を向けられてもシオナは特に畏怖した様子も無く、エリシアの視線を真っ向から受け止めた。


「いえ・・・。でも彼女、おかしいです。嘘、ついてますよ。エリシア様は外に出てる時の事は知らないでしょうが、時々行動が不自然ですから」

「それはっ その・・・・・」

「エリシア様の為に? 違いますよ」


 まさかエリシアが男だという事をフォローする為の行為が何処かおかしく見えるんじゃないだろうな、とどもってしまった隙間を縫うように、シオナが淡々と畳み掛ける。眉間のシワはもう消えていていつも浮かべている無表情だったが、藍色の瞳はいつかのように真摯な光を灯し、真っ直ぐに見られると気圧されそうな程力強く輝いていた。


「今日も怪しい行動しているの見ましたし」

「それ、も・・・・・その、好きな人でも・・・」

「それなら戻ってきた時聞いてみたらいいですよ。もし好きな人がいるなら応援する、と。後、今朝居なかったけど誰かと会った?、など直球で言ってみてもいいかもしれませんね。後ろ暗い事がないなら、きちんと答えてくれますよ。貴方の信頼する従者さんなんでしょう?」


 グイグイと押し込むようなシオナの言葉に一人では返しきれずに思わず押し黙る。これはエリシアの問題だが、そもそもシオナの行動についての話なのだ。シオナが今まで何処で何をしていたのか知っているのかと問われるとエリシアだって断言出来ない。

 前提として女装しているという厄介な事態が存在する現状では討論だってロクに出来やしない。下手に口を滑らせるよりは流した方が楽だと気持ちを切り替えた。


「・・・・・・そう、ね。それについては聞いてみるから。心配してくださったのでしょう? それは嬉しく思います。

 ところで貴方、一体何しに来たの? 幾らなんでもまだお勤めには早い時間でしょう?」


 シオナの言葉の切れ目に乗っかりながら顔をやや背けてシオナからさらに距離をとる。本来なら化粧っ気がない顔など真っ先に隠したいが手で遮ると男っぽい骨ばった手に注目されそうだ。

 ええと何処を何処で隠したら一番不自然じゃない? いや、それ以前にやはりシオナを追い返した方が早いな、とすぐ流されて逃げがちな行動を抑える。ここは意を決して一気に追い出そうと視線をシオナに戻すと、まだ何の許可も与えていないはずのシオナがずかずかと部屋の中に入ってきていた。


 え!? だからなんでこの娘、こんなに積極的??なわけ!?


 使用人にあるまじき行為にさらに数歩引いたが、その分を詰めるように間近まで迫られた。顔が近い!


「・・・っな・・っ!」

「警告をしに、やってきました」


 息が触れるほど近くに寄り、シオナは言葉に詰まって口を開閉させるエリシアに囁くほどの音を零した。本来の意図を告げると、数瞬して理解したらしい砂色の瞳がシオナを見下ろす。

 抑えきれずに瞳の中に微かに戸惑いを浮かべるエリシアは何も知らないのだろうか。呑気なものだ。お人よしだとも思う。


 ――――だから利用されるのだ。


「これ、を。ルチルが持っていたものです」


 手に隠し持っていたものを差し出すとエリシアは少々挙動不審になりながらおずおずと受け取った。手に取った折りたたまれた小さな紙片を開いて中を確かめるのを見て一歩下がる。


「・・・・・・・・・なに? コレ」


 急激に冷えたエリシアの声にシオナはいつものように無表情を取り繕った。自分は今、王宮侍女で、それを辞めさせられるわけにはいかない。

 無表情に。無感情に。冷静に。この場所に居座る為に。


「ルチルとは相部屋なんです。彼女が昨夜書いているのを見て、盗りました。あれで結構鈍いですから、まだ盗られたとは気付いてないかもしれません。もっとも気付いたら必死に探すでしょうけど」


 口から出る言葉は淡々としたものだ。それでいい。


「それはきちんとした手紙でもなんでもなく、ただの紙切れです。誰かに送るのではなく、おそらく直接手渡す為に書いたんだと思います」


 呆然と紙を見下ろすエリシアを放置し、感情など特に篭っていなさそうなシオナの言葉が無遠慮に続く。手元の紙に視線を取られながらも働いていたエリシアの脳はすぐさまその意味を理解した。

 つまりシオナはこう言いたいのだ。

 この紙を手渡す相手が、この城の中にいる。


「・・・・・・っ これが、本当にルチルのものだという証拠は無いでしょう?」


 紙から目を離し、咄嗟に庇うような事を言うと、シオナはその反論も考慮していたように、そうですね、と小さく首肯した。興味なさそうな視線をエリシアの手の中の小さな紙へと移す。


「それも確かめればいいですよ。本人に。コレ、落とした?って聞けばわかるでしょう?」


 まったく崩れない余裕に動揺したのはエリシアの方だ。知らず力を込めた手の中で紙片がクシャリと音を立てる。


「・・・あ、なたを信用出来るという事にはな、、らないでしょう」


 なんとか搾り出した声は言葉の変換遅れで少し途切れ、掠れていた。ヤバイ、一瞬素で演技を忘れそうだった。

 気付かれないように呼吸を整える事で思考を統制していると、シオナはどうでもよさそうに小さく首肯する。


「私が信用できないならそれでも構いません。けれど、私は昨日も言ったように貴方の味方です」


 何を考えているのかまったくわからないが、まるでその言葉は修道女が神にささげる言葉のように真摯に聞こえた。


「・・・ど」



「―――あなた、ココで何をやっているの?」



 思わずどうして、と言葉にしかけた所で、空気を裂くように鋭い誰何が部屋に響いた。

 シオナと二人、視線をゆっくり入口に向けると何時の間に帰って来たのか、開けっ放しの扉越しにマリーネが立っていた。覗く茶色いお仕着せが激情にふるふると震え、シオナを睨みつけるオレンジ色の瞳が明るみ始めた空の明かりをはじき返して迸る生気に輝く。

 怒っている。


「私は朝のお手伝いの許可を出した覚えは無いわ」

「・・・ああ、はい」

「寝ている主人の部屋を朝早くから訪れるなんてっ」


 反省などしていなさそうなシオナの返事にマリーネの視線がきつくなった。

 怒る美少女はとても怖い。怒られている本人ではないのに何故かビクついてしまってエリシアはさらに数歩そこから距離をとる。なるべくなら無関係でいたい。


「なにか手伝えるかと思って」

「用があるなら私が呼びますっ! さっさと出て行きなさい!」


 どんなに怒鳴っても無反応なシオナにマリーネの声が尖っていった。怒り狂うマリーネには逆らわず、はあ、では。と素直に頭を下げたシオナは少しだけ意味ありげにエリシアを見上げる。


「エリシア様も、私に何か用があったらいつでも言ってくださいね」


 それだけを言い残してマリーネの横を通って部屋を出ていった。その際に思いっきりマリーネから睨まれたのだがまったく気にしていないような堂々とした後ろ姿だ。

 シオナが出て行った直後、マリーネの瞳がエリシアを貫いた。


「・・・・・・何を話していたんですか?」


 不機嫌さも露わに、いまだ鋭い語調で尋ねられ、自分の方を向いた矛先にエリシアは天を仰ぎたくなったが、なんとかいつもの笑顔を浮かべて別にと首を振った。


「特にたいした事は話してないよ? 何か用は無いかと押しかけられただけで」


 疑われているなど本人に言うのもなんなので、適当に誤魔化すと暫く鋭い視線でエリシアを見ていたマリーネが、そうですか、と息を吐いた。気を取り直したのか視線を緩めて扉を閉める。


「今日はどのドレスにしましょうか?」


 近くの衣装箱に手をかけたマリーネに適当に返事をしながら、てきぱきと動くマリーネの姿にシオナの言葉がぶり返す。まったく、厄介な爆弾を落としてくれるものだ。


「マリーネはさ、なんか今日早かったみたいだけど、誰かに会ったりした? ほら、この城って結構人が多いし、誰かと仲良くなったりとか」


 モノのついでとばかりに尋ねてみるとマリーネはドレスを選ぶ手を止めて小さく首を傾げた。


「はあ、いえ別に。私の使命はエリシア様のサポートですから」

「・・・・・・今日は誰にも会わなかったの?」

「ええ、誰にも。まだ日も明けてませんでしたし、活動する人なんてあまり居ませんよ」

「・・・そう」


 言いながらエリシアに背を向け、次々と衣装と小物を取り出しては合わせているマリーネに、気付かれないように声を保った。


 いやまさか、そんな。それだけでは。


 動揺は一瞬だった。頭を駆け巡った言葉を手の中の紙を握りつぶす事で振り払う。そんな簡単に人を疑うものではない。


「エリシア様、今日はこれにしましょうか」

「ああ、わかった」


 呼ばれ、歩きながらチラリと視界に入った白い紙をスカートをたくし上げ、乱雑にズボンのポケットに突っ込んだ。

 嘘か本当か知らないが、ココまできたら確認だけは取っておこう。

 内容を思い出しながら自然とシワを刻みそうになる眉間をほぐす。

 一度見ただけで覚えてしまう脳みそは、白い紙に書かれた文字を一字一句覚えている。




 ――――― 接触に成功しました。私に任せてください ―――――




 あの文字は一体どういう意味だろうか。



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