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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ホラーのようなホラーじゃない話。

人殺しに罰を

作者: 原雄一

 今日から高校三年生になる俺は、いつものようにマンションのエレベーターを呼び出した。


 俺の家はマンションの十三階にあった。なかなかいい部屋だ。家賃も高かったと聞いている。十三階から一階まで下りるとなると、さすがに階段を使うわけにもいかず、毎日エレベーターを使って昇降しているのだ。

 尤も、やろうと思えば階段でも下りられる。バスケ部に入っている俺は、それくらいの体力は付いている。しかし、俺は生来面倒くさがり屋なので、できれば楽をしたいのだ。


 暫く前に、人を殺した。


 暫く前と言っても、一年前の事だ。

 そいつは部活の先輩だった。途中から入ってきたくせに大きな顔をしていて、気に食わなかった。代替、三年になってからバスケ部に入ってくるなど、俺のように一年の頃からやっている者からしたら言語道断だ。しかも、どういうわけか俺の事を結構知っていたみたいだし、正直気味が悪かった。

 そいつからどこかのビルの屋上に呼び出されたので、隙を見て突き落としてやった。

 驚いたのは、そいつも俺の事を殺そうとしていたらしく、俺が突き落とす直前に俺の事を押そうとしていた事だ。俺が偶然にも身を翻さなければ、危ないところだった。

 最初の内は、捕まるんじゃないかとびくびくしていたものの、最近ではすっかり慣れてしまった。人ロ殺したという実感もあまりなくなってきたし(それがいいことなのかどうかは知らないが)、警察に捕まる気もしなかった。

 エレベーターのドアが開く。途端に犬が飛び出してきた。俺は「うわっ」と短く悲鳴を上げながらのけ反り、なんとか犬の攻撃(?)をかわした。

 中には黒い服に身を包んだ男(フードを目深にかぶっているので、正直男かどうかも定かではないが)が乗っていたが、注意しないところをみると、この人の犬ではないのだろう。飼い主の手から離れた犬が、偶然エレベーターに乗ってしまったと言ったところか。

 俺は走り去っていく犬を横目に見ながら、エレベーターに乗り込んだ。男は降りるそぶりも見せず、回数のボタンのところを見ると①が押してあったので、この人も一階まで下りるのだと分かった。

 俺は「おはようございます」と声をかけた(同じマンションに住む人には挨拶をするのが俺の流儀だ)。しかし男は答えず、会釈すらもしなかった。ずいぶんと無愛想な人だなと思ったが、このマンションではこういう人が少なくない。むしろ多数派と言えた。

 エレベーターが降下を始めた。わずかに振動しながら、ゆっくりと下がっていく。ガラスの外の景色が目まぐるしく変わる。十二階、十一階、十階……。

 やがて一階に着いた。ドアがゆっくりと開く。どうもこのエレベーターは、動作がどれも緩慢で腹が立つ。

 俺はエレベーターを降り、黒服の男に会釈しながら箱を離れた。今度も男は、挨拶を返さなかった。


 俺はマンションから出ると、自分の通う高校に向かった。三年になったからといって何が変わるというわけでもなく、今まで通りだった。――今のところは。

 ふと後ろを振り返ると、さっきの黒服がひたひたと後ろを歩いているのが見えた。どこに向かうのかなと無意味に考えつつも、俺は何故だか悪寒を感じた。俺は静かに頭を振り、また前に向き直った。

 しかしどうも後ろが気になり、また振り返ってみた。

 すると、黒服との距離が若干縮まっていた。あ、あっちの方が歩くの速いんだな、と当然の想像をしつつも、やはり俺は寒気を感じていた。

 俺はまた前に向き直り、少し乱れた呼吸を整える。そしてまた後ろを振り返った。

 やはり、黒服は俺に近づいていた。俺よりも歩くのが速いのだから当然だ。

 しかし、何かが変だった。一回目から二回目にかけて縮んだ距離よりも、二回目から三回目にかけて縮んだ距離の方が長い気がする。つまり、最初以上に距離が詰まっているという事。俺は気味が悪くなって、少し歩調を速めた。

 前を向き、ただひたむきに歩く。そして時々振り返ると、黒服はやはり迫っていた。それに不気味さを感じて、さらにスピードを上げる。しかし振り返ると、やはり黒服との距離は縮まっている。ついに俺は、小走りになった。

 何かが近付いている気配がする。いや、『何か』ではない。確実に黒服だ。俺は恐怖を感じながらも後ろを振り返――。

 れない。

 振り返れない。

 首が固まったように、動いてくれないのだ。俺はただ、走ることしかできなかった。


 やがて、その歩が止まった時、俺の首は地面に転がっていた。

 ひっそりと、音を立てずに。


 俺は首が落ちた時、あの黒服の気配をたしかに感じていた。そして、黒服がこう言うのも。


 ―――――罰を。

『俺の夢は未来を語り』に出てきた、『あいつ』の後日談だと気付いた人、あなたはすごい!

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