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同上

 翌日。

 麻衣は授業を適当に受け終わるとすぐ体育館へ向かった。昨日は運動場を使えたのだが、今日は陸上部に占領され使えない。どうせ体育館ならドッジボールでもした方がいい感じはするが、昨日の練習の成果を見せなければ。体育館の重い、鉄色の扉を開け、麻衣は一人中へ入っていった。

 中はまるで墓場のようにしん、としていた。どこか冷たい雰囲気もある。まだ終礼が終わっていないらしく誰も来ていないようだ。麻衣は肩を縮こまらせたまま、体育準備室へと滑り込んだ。誰でもいいから早くきてほしい。この体育館はどこか不気味な雰囲気を醸し出している。

 体育準備室も同じように冷え切っていた。扉の近くの跳び箱に手を触れると、まるで冷蔵庫に入っていたのではと思うくらいに冷たかった。大分秋らしくなってきたせいだろう。そう思いつつ麻衣はバレー用ネットの方へ目をやった。


「あれ?」



 麻衣は思わず一人で素っ頓狂な声を上げた。そしてそのまま、周りに誰かいることも確認せずにネットの傍に寄る。

 乱雑に纏められたネットの上に、まるで封印でもしているかのように朱色の箱が丁寧に置いてあったのだ。大きさは腕に抱えられるぐらいで、金箔や蝶の模様があちこちに散りばめられている。


「(こんなのあったっけ?)」


 麻衣は緊張と好奇心の混ざった思いで箱の前にしゃがみ込んだ。至って普通の箱ではあるが、何処か冷たさを感じさせる。開ければもくもくと白い煙でも出て来そうだ。もし煙以外の物が中に入っているとするなら一体何なのだろう。思い切って、麻衣が箱に指を触れたときだった。


「!」


 突然の出来事に驚き、麻衣は後ろに転がった。そして箱に触れた指を奇妙な物のように見つめる。

 確かに今、火傷をしそうなくらい熱いものに触った気がしたのだ。指には火傷の跡など少しもない。だが、確かに火の熱さが箱にはあった。

 一体何の為にあるのだろう。 今までこんな物は存在しなかったというのに。


「誰かいる?」


 ふと、後ろから声がし、麻衣はすぐ振り返ると声の主を確認した。ああ、やっぱり智子だ。麻衣は親にすがりつく子供のように智子に飛びついた。


「ど、どうしたの?」

「智子! 変な箱が置いてある! しかもめっちゃ熱いの!」

「箱? そんなものないよ?」


 智子は麻衣の肩越しに体育倉庫を見渡しているようだ。麻衣は慌ててネットの方を指さそうとした、が。


「あれ、なくなってる……」

「終礼サボっちゃダメっていうお告げでしょ。さぁ準備準備!」


 と、智子は何食わぬ顔でさっさとネットを持って行ってしまった。麻衣はあっけらかんとしたまま、智子の普通な背中を見つめる。

 夢にしてはリアルだ。

 だが現実にしてはおかしい。実際火傷もしていないし、箱もない。


「おっかしいな……」


 軽くため息をつきつつ、麻衣は智子の手伝いをする為逃げるように倉庫を立ち去った。

 冷たい跳び箱の上に朱色の箱が乗っていたとも知らずに。

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