とあるイラストレーターの葛藤
僕の職業はイラストレーターだ。
とはいっても、いわゆる絵師では無い。チラシやお店の看板といった、宣伝媒体用のイラストを主に手がけている。
昨今はフリー素材や生成AIの台頭で需要は細る一方だ。やれやれ。
まあ、それはそれ。
さて、人にはどうしても割り切れない一線があるものだ。
『仕事だから』。
このひと言で、私情を挟まずに粛々と依頼を熟すのがプロというもの。
僕だって大半の依頼はそういう姿勢で挑んでいる。
でも、どうしても、心のなかで整理をつけられない。そんな依頼もあるのだ。
『ブタミンパワーで君も元気だブー!!』
『焼肉王国OPEN! みんな食べに来るんだモー!!』
こういう類だ。
いや描くよ。描くけどね。
おかしいよね? 何故に殺され喰われる者にそれを言わせるのか。
画像の前の君たちはいつも笑顔だ。ひどい目に遭っているというのに。その笑顔が僕は辛いよ。
...って、僕が描いたイラストだったよ。思わず感情移入してしまった。絵が上手いな僕。
ウインナーのパッケージで笑う豚さん。
焼き鳥屋の看板で楽しそうに鳴き声をあげる鶏さん。
『非実在青少年』なんかよりよほど倫理的にアウトなんじゃないかな?
でも、誰も異を唱えない。不思議でしょうがない。
...いやまてよ。
誰もが疑問に思いながらも、声を上げられないだけなんじゃないかな? いわゆる同調圧力だ。
誰か一人の声を、皆が待っているのかも知れない。
そう思った僕は、ある時とんかつ屋の看板作成の依頼に、煮えたぎる油鍋に憤怒の表情で放り込まれる豚さんを描いてみたんだ。
クライアントに、これ以上ないくらいの良い笑顔でアイアンクローされた。
そのクライアントからはそれ以降仕事の依頼が無い。
間違っていたのは僕の方だったようだ。
この世界はまだ家畜に笑顔を強要させたいらしい。
しかし、そうと分かれば僕もプロの端くれ。こだわりは封印して、これからも最上の笑顔の家畜たちを描き続けようじゃないか。
でもその代わり、もしもこの世界に人間を食べちゃう宇宙人がやって来て、僕たちが食卓に乗せられる日が来たら、
その時は『美味しいよ』と笑顔を振りまく人間を描くんだ。
それがイラストレーターとして家畜に向けた、最低限の礼儀だと思うのだ。
おしまい




