第50話 味の理由
「……もう一皿、いいか?」
男が言った。
「はい!」
ミアが元気よく返す。
皿が並ぶ。
香りが立つ。
「……」
一口。
「……はぁ」
深く、息を吐く。
「……なんだ、これ」
視察員の男は、しばらく言葉を失っていた。
「問題ありましたか?」
リリアが静かに聞く。
「問題しかない」
「良すぎる」
「……」
周囲でも、同じような反応が続いている。
「うまい……」
「これ、何の肉だ?」
「野菜が甘い……」
ざわめき。
「……これが、例の食事か」
「はい」
「毎日、これが出るのか?」
「基本的には」
「……」
再び、無言。
「……住みたいな」
ぽつりと、誰かが言った。
「気持ちは分かります」
リリアが頷く。
「……いや、分かるレベルじゃないだろこれ」
「これ、外で出したらどうなる?」
「……」
マルクが静かに口を開く。
「すでに、試しています」
「……は?」
「簡易的にですが、外部に流しています」
「結果は?」
「行列です」
「……」
「一度食べた者が、もう一度求める」
「その繰り返しです」
「……麻薬か?」
「違います」
「純粋に、美味しいだけです」
「それが一番怖いわよ」
カレンが小さく言う。
「再現は?」
視察員が聞く。
「困難です」
マルクが即答する。
「素材、環境、調理」
「すべてが揃っている必要があります」
「……つまり?」
「ここでしか出せません」
沈黙。
「……強すぎるだろ、それ」
その時。
「いらっしゃいませー!」
ミアの声が響く。
新しい客。
また一人。
さらに、また一人。
「……増えてるわね」
カレンが呟く。
「ええ」
リリアも頷く。
「明らかに“食事目的”の来訪者が増えています」
「……観光地じゃないのよここ」
「結果的に、なっています」
「……」
テーブルが埋まる。
席が足りない。
「すみません、少しお待ちください!」
「いい、待つ!」
「待てる!」
「……なんなのよこれ」
「需要です」
マルクが淡々と言う。
「しかも、非常に強い」
「……」
視察員が周囲を見る。
笑っている人。
食べている人。
並んでいる人。
「……分かった」
小さく言う。
「ここ、もう」
少しだけ間を置く。
「“街の顔”がある」
「顔?」
「名物だ」
「……ああ」
カレンも納得する。
「分かりやすい強みね」
レインは、いつも通りだった。
「美味しいですからね」
「そこじゃないのよ」
カレンはため息をついた。




