第五話 風の行方
雷雨は去り、廃墟都市には湿った風だけが残っていた。
瓦礫の間に水たまりができ、空気が澄んでいる。
戦いの匂いは薄れつつあるが、緊張は消えない。
「次は、私」
静かな声が、風に乗った。
アイリが、一歩前に出る。
長い髪を結び直し、足元の感触を確かめるように立つ。
向かいに現れたのは、体格のいい男。
腕を鳴らし、余裕の笑みを浮かべている。
「嬢ちゃん、風頼みか?」
「……違う」
アイリは、深く息を吸う。
「自分の脚で、立つ」
円が、淡く光る。
男が突進する。
重い拳。
だが――
風が、動いた。
アイリの足取りは軽く、
一歩ごとに空気が流れを変える。
――舞風脚。
舞うような回転蹴りが、相手の側面を掠める。
「ちっ……!」
男は歯を食いしばり、追う。
だが距離は詰まらない。
(焦ってる……)
アイリは、相手の呼吸を読む。
もう一歩。
踏み込み。
風が、渦を巻く。
――花嵐突。
突き抜けるような一撃が、男の体勢を崩した。
瓦礫が弾け、男は後方へ倒れる。
光の円が消える。
「……勝者、アイリ」
アイリは、しばらく動かなかった。
拳ではなく、脚を見つめる。
(……できた)
小さく、息を吐く。
「おめでと」
近づいてきたユウの声に、肩が揺れた。
「……ありがとう」
その声は、少しだけ震えていた。
「怖かった?」
ユウの問いに、アイリはうなずく。
「うん。でも」
顔を上げ、笑う。
「逃げなかった」
その言葉に、ユウは何も言えなかった。
ただ、胸の奥が熱くなる。
その様子を、少し離れた場所から見ている視線があった。
白い道着。
銀髪。
リオだ。
(……迷いが、力になるタイプか)
彼女は、静かに構えを取る。
次の相手が、前に出る。
空が、再び鳴った。
雷鳴。
リオの拳に、蒼い光が宿る。
――雷鳴破。
一撃。
音より速く、勝負は終わる。
相手は倒れ、円が消えた。
リオは、拳を下ろし、視線を向ける。
ユウの方へ。
一瞬だけ、何かを確かめるように。
そして、何も言わず背を向ける。
マコトが、肩を鳴らす。
「よし、次は俺だな」
拳を握り、笑う。
「派手に行くか」
廃墟都市に、再び熱が戻る。
それぞれの風が、
それぞれの行方へと、吹き始めていた。




