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第四話 揺れる風音

廃墟都市の空に、低い雲が流れ込んできた。


陽は翳り、空気が重くなる。

遠くで雷鳴が転がり、金属の匂いが鼻を刺した。


一回戦は、同時多発的に進行している。

勝敗の報告が、断片的に空から降り注ぐ。


ユウは、瓦礫の影に身を寄せ、呼吸を整えていた。


(……次は、誰だ)


答えを待つ間にも、戦いは続く。


別の通り。


影が、不自然に伸びていた。


昼間だというのに、光が吸い込まれるように消えている。


その中心に、ひとりの少女が立っていた。


シズク――十八歳。

黒髪を束ね、無駄のない動き。

影を縫い、奪う格闘家。


向かいに立つのは、俊敏そうな男。

軽い足取りで、距離を測っている。


「厄介そうだな」


男が笑う。


「影なんて、踏まなきゃいい」


次の瞬間、男が踏み込む。


速い。


だが――


「……遅い」


シズクの声は、静かだった。


足元の影が、跳ねる。


――影縫。


男の動きが止まる。

足が、地面に縫い止められたかのように。


「なっ……!」


驚きの声を上げる間もない。


シズクは一歩、踏み込む。


拳に、黒い気配が宿る。


――暗影刃。


一閃。


男は膝をつき、そのまま倒れた。


影が、ゆっくりと元に戻る。


光の円が消え、勝敗が告げられる。


「……勝者、シズク」


彼女は、拳を下ろし、ほんの一瞬だけ目を伏せた。


(……また、一つ)


過去の因縁が、胸の奥で軋む。


だが、立ち止まらない。


別の区画では、風が荒れていた。


知的な目をした青年が、戦場を見渡す。


レオ――十九歳。

戦術を武器とする格闘家。


足元に散らばる瓦礫。

崩れかけの壁。


(配置は……悪くない)


相手が突進する。


レオは半歩ずらし、拳を放つ。


――旋風拳。


狭い路地に風が渦巻き、相手の体勢を崩す。


雷鳴。


雨粒が、落ち始める。


環境が、力を増幅する。


レオは拳を握り込む。


――雷鳴破。


雷光を伴う一撃が、相手を吹き飛ばした。


「……想定通りだ」


だが、視線は遠い。


計算通りにいかない相手が、必ず現れることを、彼は知っている。


ユウは、その戦いを遠くから感じ取っていた。


影。

戦術。

雷。


それぞれの拳。


(……俺は)


自分の拳は、何を宿しているのか。


その答えは、まだ形にならない。


雷雨が、本格的に降り始める。


雨粒が瓦礫を打ち、音が重なる。


その中で、ひときわ異質な気配が、静かに立ち上っていた。


高い場所。

崩れたビルの屋上。


そこに、黒衣の男が立っている。


カイゼル。


彼は戦っていない。

ただ、見ている。


「……拳は、正直だ」


低く、誰にも聞こえない声。


「いずれ、ここに辿り着く」


その視線の先にいるのは――


ユウだった。


雷鳴が、空を裂く。


交差する影の中で、

運命は、確かに動き始めていた。

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