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第三話 動き出す鼓動

朝の光が、空中庭園を白く染めていた。


雲海の向こうから昇る陽が、石畳に反射し、まぶしさが目を刺す。

夜の静寂は消え、代わりに、張り詰めた熱が満ちていた。


トーナメント初日。


格闘家たちは、それぞれの控え区画から姿を現す。

視線が交錯し、無言の圧が流れる。


ユウは、深く息を吸った。


道着の袖口を握り、拳の感触を確かめる。


(……始まる)


「大丈夫だ」


隣で、マコトが拳を合わせる。


「いつも通りやれ」


「……ああ」


広場の中央。

高く組まれた装置が光を放ち、空中に巨大な円が浮かび上がる。


「これより――」


響く声。


「蒼空拳舞トーナメントを開始する」


光の円が、複数に分かれ、空へ散る。

次の瞬間、視界が歪んだ。


足元の感触が変わる。


ユウは、無意識に構えた。


気づけば、そこは別の場所だった。


崩れた建物。

ひび割れた道路。

風に舞う砂埃。


廃墟都市。


「……転送か」


周囲を見渡す。


遠くに、別の円。

他の格闘家たちが、それぞれ配置されている。


「一回戦、開始」


空から、淡々と告げられる。


向かいの通りから、ひとりの男が歩いてくる。

大柄で、筋肉質。

重心の低い構え。


経験豊富な格闘家だと、一目で分かる。


「若いな」


男が、にやりと笑う。


「だが、ここじゃ年は関係ない」


ユウは、言葉を返さない。


ただ、間合いを測る。


男が踏み込む。

地面が鳴り、拳が迫る。


重い。


だが、速さはない。


ユウは、半歩ずれる。


拳が空を切る。


その瞬間、相手の呼吸が見えた。


(今)


拳を振るう。


――心象拳。


直接打ち込むのではなく、

相手の内側に揺らぎを送り込む。


男の動きが、わずかに止まる。


「……?」


その隙を逃さない。


ユウは跳ぶ。


身体を捻り、空中で脚を振り抜く。


――飛燕蹴。


風を切り裂く音とともに、

衝撃が胸板に突き刺さる。


男は吹き飛び、瓦礫の山に倒れた。


土煙が上がり、やがて静まる。


光の円が、ゆっくりと消えた。


「……勝者、ユウ」


空から声が響く。


ユウは息を整え、拳を下ろす。


(……一つ)


だが、胸の奥は落ち着かなかった。


遠くで、別の衝撃音。


笑い声が混じる。


「ははっ! 悪いな!」


マコトだ。


拳に力を込め、

――笑撃拳。


衝撃とともに、相手の体勢が崩れる。


追い打ちの――旋風脚。


風が渦を巻き、勝負は一瞬で決した。


さらに、別の区画。


風が舞う。


アイリが跳ぶ。


――舞風脚。


軽やかに、だが鋭く。

彼女の蹴りが、相手を圧倒していく。


雷鳴が、遠くで轟いた。


空が、暗くなる。


その下で、白い道着が揺れる。


リオだ。


拳に、蒼い光が宿る。


――蒼閃裂破。


一撃で、場の空気が変わる。


ユウは、それを遠目に感じながら、拳を握る。


始まったばかりだ。


このトーナメントは、

まだ、誰のものでもない。


だが。


胸の奥で、鼓動が高鳴る。


拳は、

蒼空へと向かって、確かに打ち鳴らされていた。

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