第二十四話 交わる孤独
雷が、天空リングの中心に落ちた。
光と轟音が、世界を白く染める。
次の瞬間、衝撃波が遅れて押し寄せた。
ユウとリオは、同時に吹き飛ばされる。
床を転がり、縁ぎりぎりで止まる。
蒼空が、すぐそこにあった。
ユウは、荒く息を吐く。
(……まだだ)
身体は、限界に近い。
腕は痺れ、脚は重い。
それでも、拳は――開かない。
向かいで、リオがゆっくりと立ち上がった。
白い道着が、雨に貼りつく。
蒼い気配は、まだ消えていない。
だが。
(……揺れている)
それは、力の衰えではない。
心の揺らぎ。
「……不思議だな」
リオが、低く言う。
「誰かと、ここまで殴り合うのは……初めてだ」
ユウも、立ち上がる。
「……俺もだ」
二人は、距離を詰める。
雨が、止み始めていた。
雷雲が、ゆっくりと流れていく。
環境が、変わる。
雷雨の支配が、弱まっていく。
リオの拳が、わずかに遅れる。
「……環境に、甘えていたわけじゃない」
リオは、自分に言い聞かせるように呟く。
「だが……頼っていた」
一歩、踏み出す。
「それでも、私は――」
拳を、引く。
――蒼閃裂破。
最後の、全力。
ユウは、逃げない。
(……受ける)
踏み込む。
――心象拳。
拳と拳が、ぶつかる。
衝撃。
だが、今度は弾き合わない。
互いの拳が、止まる。
距離、ゼロ。
「……なぜ、折れない」
リオの声が、震える。
ユウは、答える。
「……一人じゃないって、知ってるから」
リオの瞳が、揺れる。
孤高であることを、誇りとしてきた。
誰にも頼らず、誰も背負わず。
それが、唯一の答えだと信じてきた。
だが――
拳越しに、伝わる温度。
守る拳の、重さ。
「……」
リオは、唇を噛みしめる。
そして。
拳を、わずかに下げた。
蒼い気配が、霧散する。
次の瞬間。
ユウの身体が、前に出た。
――飛燕蹴。
蒼空を切り裂く一撃。
衝撃。
リオの身体が、後方へ弾かれる。
踏みとどまろうとするが、
足が、わずかに遅れた。
白い道着が、宙を舞う。
リオは、リングの内側に倒れ込んだ。
静寂。
雨は、完全に止んでいた。
光の円が、ゆっくりと消える。
「……勝者、ユウ」
宣告が、天空に響く。
ユウは、膝をつく。
全身の力が、抜ける。
リオは、仰向けのまま、空を見上げた。
「……負けたな」
悔しさよりも、どこか晴れやかな声。
ユウは、近づき、手を差し出す。
「……強かった」
リオは、一瞬だけ躊躇し、
その手を取った。
立ち上がり、向かい合う。
「……孤高は」
リオが、静かに言う。
「一人で立つことじゃないのかもしれない」
「……ああ」
ユウは、短く頷く。
二人は、拳を合わせた。
蒼空が、静かに広がる。
だが――
その高み。
すべてを見下ろす場所で、
カイゼルが、ゆっくりと歩み出す。
「……終わったな」
低い声。
「次は――俺だ」
蒼空の拳舞は、
決勝の向こう側へ。
真の終局へと、歩みを進める。




