第二十話 伝えきれない想い
月光が、庭園全体を包み込んでいた。
二人の衝突が生んだ風圧が、花弁を舞い上げる。
宙に浮かぶ庭園が、わずかに軋んだ。
ユウは、踏みとどまる。
腕が、痺れる。
だが、倒れない。
(……強い)
アイリは、着地と同時に距離を取った。
肩で息をしながらも、その瞳は揺れていない。
「……やっぱり」
小さく、呟く。
「真正面から、受けるんだね」
「……逃げないって、決めたから」
ユウは、拳を下ろさない。
「お前の風も」
「想いも」
アイリは、一瞬だけ目を見開き、すぐに笑った。
「……ずるいよ」
風が、再び動く。
舞風脚。
だが、先ほどとは違う。
速さよりも、正確さ。
鋭さよりも、想い。
ユウは、気づく。
(……変えた)
彼女は、勝つためだけではなく、
“伝える”ために、技を選んでいる。
一撃。
ユウは、受ける。
――心象拳。
拳が、風を裂き、
その奥にある感情に触れる。
「……っ」
衝撃と共に、胸が締め付けられる。
悔しさ。
不安。
それでも、隣に立ちたいという願い。
すべてが、流れ込む。
「……アイリ」
名前を呼ぶ。
次の瞬間。
――花嵐突。
最後の踏み込み。
ユウは、真正面から進む。
――飛燕蹴。
風と拳が、交差する。
衝撃。
月光が、弾ける。
二人の身体が、同時に弾かれた。
静寂。
先に、膝をついたのは――
アイリだった。
「……ああ」
小さく、息を吐く。
悔しそうに、でもどこか晴れやかに。
光の円が、ゆっくりと消える。
「……勝者、ユウ」
宣告は、淡々としていた。
ユウは、すぐに駆け寄る。
「……大丈夫か」
アイリは、顔を上げ、笑った。
「……負けたのに、悔しくないのは」
少し、間を置く。
「ちゃんと、伝わったから」
立ち上がり、ユウの前に立つ。
「次は……勝つから」
「……ああ」
短く、強く。
二人は、拳を軽く合わせた。
月光が、その姿を照らす。
別の庭園では、蒼い閃光が走っていた。
リオが、拳を収める。
勝敗は、すでに決している。
決勝。
避けられない。
ユウと、リオ。
守る拳と、孤高の拳。
カイゼルは、月を背に、静かに見下ろしていた。
「……感情は、弱さではない」
その声は、風に溶ける。
蒼空の拳舞は、
ついに――
決勝戦へと辿り着いた。




