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第十七話 影を越える一歩

瓦礫の隙間を縫うように、影が奔った。


――影縫。


今までよりも速く、深い。


シズクの動きに、迷いがない。

いや――迷いを、断ち切ろうとしている。


ユウの足元に、黒が絡みつく。


(……来る)


身体が、止まる。


だが、視線は逸らさない。


シズクは、静かに拳を引いた。


――暗影刃。


影が刃となり、一直線に迫る。


ユウは、歯を食いしばる。


(……動け)


力を込める。


だが、足は動かない。


その瞬間。


胸の奥で、何かがほどけた。


(……守るだけじゃない)


(……受け止める)


影も、過去も。


逃げずに、向き合う。


――心象拳。


拳に、静かな衝撃が宿る。


影に、打ち込む。


刃が、わずかに逸れる。


肩を裂く痛み。


だが、致命ではない。


影縫が、解ける。


ユウは、踏み出した。


瓦礫を蹴り、距離を詰める。


――飛燕蹴。


空間を切り裂く蹴り。


シズクは、紙一重で避ける。


だが、その動きは――遅れていた。


「……!」


初めて、はっきりとした動揺。


ユウは、止まらない。


連続で踏み込む。


――心象拳。


影の中心へ。


衝撃が、地面を震わせる。


瓦礫の影が、散る。


シズクは、後退し、片膝をついた。


荒い息。


肩が、上下する。


「……なぜ」


絞り出すような声。


「そこまで、踏み込める」


ユウは、構えを解かない。


「……逃げないって、決めた」


「影ごと、受け止める」


静寂。


廃墟の風が、二人の間を吹き抜ける。


シズクは、ゆっくりと立ち上がった。


影が、薄くなる。


「……私の影は」


拳を見つめる。


「私が、縛っていた」


視線を上げる。


「お前は……進む拳だ」


次の瞬間。


シズクが、前に出た。


影は、もう縫わない。


真正面からの拳。


ユウも、迎え撃つ。


二つの拳が、交わる。


衝撃。


光が、弾ける。


そして――


光の円が、静かに消えた。


「……勝者、ユウ」


宣告が、廃墟に響く。


シズクは、目を閉じる。


「……負けたな」


悔しさよりも、解放されたような声。


ユウは、深く頭を下げた。


「……強かった」


シズクは、小さく息を吐く。


「……ありがとう」


背を向け、歩き出す。


その背中は、影に沈まない。


廃墟都市に、静かな光が差し込む。


準々決勝は、終わった。


拳は、影を越え、

次なる高みへと進む。


蒼空の拳舞は、

いよいよ、準決勝へと向かう。

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