第十五話 影が示すもの
転送の光が消えた瞬間、空気が変わった。
薄暗い。
瓦礫が折り重なり、遠くで崩れた建物が影を落としている。
廃墟都市。
かつて人が生きていた痕跡だけが残り、
静寂が、胸の奥を締め付ける場所。
ユウは、ゆっくりと周囲を見渡した。
(……ここか)
足元の円が、淡く光る。
向かいに現れたのは、黒髪の女性。
無駄のない立ち姿。
感情を隠した瞳。
シズク。
影を縫う拳を使う、孤高の格闘家。
「……この場所」
シズクが、低く呟く。
「嫌いじゃない」
開始。
音は、なかった。
シズクが、消える。
(速い――)
いや、違う。
影だ。
瓦礫の影から、影へ。
――影縫。
ユウの足元に、黒い線が伸びる。
身体が、止まる。
「……捕らえた」
シズクの声が、背後から響く。
――暗影刃。
鋭い衝撃が、肩を掠める。
「っ……!」
影が解け、ユウは前に転がる。
距離を取る。
(……見えない)
視覚では、追えない。
なら――
(感じろ)
呼吸。
気配。
空気の揺れ。
ユウは、目を細める。
瓦礫の隙間。
わずかな違和感。
踏み込む。
――心象拳。
影に向けた拳が、空を裂く。
だが。
「甘い」
シズクの声。
背後。
再び、影縫。
足が、止まる。
(……っ)
その瞬間。
胸に浮かぶのは、恐怖ではなかった。
(……逃げない)
影に縛られたまま、身体を捻る。
――飛燕蹴。
無理な体勢からの蹴り。
風が、影を裂く。
シズクは、距離を取る。
初めて、表情が動いた。
「……その状態で、撃つか」
「……止まっても、終わりじゃない」
ユウは、息を整える。
廃墟の静けさが、二人を包む。
過去と向き合う者。
守るために進む者。
影が、再び動く。
この戦いは、
心の奥を映し出す。
蒼空の拳舞は、
さらに深い孤独へと踏み込んでいく。




