第十三話 雷の向こう側
天空リングの空気が、張り裂けそうに震えていた。
風は渦を巻き、雲が足元を流れる。
一瞬の判断が、すべてを決める。
ジンは、静かに拳を構え直した。
「……感情を、否定してきた」
低い声。
「だが、捨てきれなかった」
ユウは、息を整える。
「それでいい」
短く、だが確かな言葉。
雷鳴が、遠くで轟いた。
次の瞬間。
ジンが、全身を沈める。
――雷鳴破。
これまでとは、違う。
雷が、空気を裂き、リングを震わせる。
ユウは、迎え撃つ。
――心象拳。
拳を合わせた瞬間、衝撃が爆ぜる。
二人の足元が、同時に滑る。
リングの中央から、外周へ。
蒼空が、近づく。
(……ここだ)
ユウは、歯を食いしばる。
踏み込む。
感情を、逃がさない。
――飛燕蹴。
空を切る音。
だが、ジンも動いていた。
――絶影拳。
影の中から放たれる、一点集中の一撃。
衝突。
衝撃が、互いを弾き飛ばす。
ユウは、辛うじて着地する。
足元は、縁。
ジンは――
一歩、外へ。
だが。
踏み出した瞬間、風が吹き荒れる。
ジンの身体が、揺らぐ。
「……っ」
その時。
ユウは、反射的に手を伸ばしていた。
「掴め!」
指先が、触れる。
ジンの腕を、掴む。
一瞬、二人の視線が交わる。
「……なぜ」
ジンの問い。
「敵だろう」
ユウは、答える。
「勝つために、殺す必要はない」
風が、二人を引き裂こうとする。
ジンは、歯を食いしばり、踏ん張る。
ユウは、全身に力を込める。
引き上げる。
二人は、リングの内側へ転がり込んだ。
静寂。
次の瞬間。
光の円が、消える。
「……勝者、ユウ」
空から、淡々と告げられる。
ユウは、膝をつき、荒く息を吐く。
ジンは、天を仰いだ。
「……負けたな」
悔しさよりも、何かを受け入れた表情。
ジンは、ゆっくりと立ち上がる。
「ありがとう」
小さな声。
ユウは、首を振る。
「……お前の拳、強かった」
二人は、短く拳を合わせた。
風が、優しく吹く。
天空リングの戦いは、終わった。
雷の向こう側に、
それぞれが、次へ進む答えを見つけた。
蒼空の拳舞は、
さらに深い領域へと踏み込んでいく。




