第十二話 断ち切れぬもの
天空リングを渡る風が、さらに強さを増していた。
雲が足元を流れ、視界の端で蒼空が歪む。
一歩の重さが、そのまま生死の境になる場所。
ユウとジンは、向かい合ったまま動かなかった。
互いの呼吸。
踏み込みの癖。
風に対する身体の傾き。
すべてを、測り合っている。
「……驚いた」
ジンが、初めて言葉を続けた。
「落ちかけてなお、攻撃を選ぶとは」
「……退く気はなかった」
ユウは、足先に力を込める。
「守るために、ここにいる」
ジンは、ゆっくりと構えを下げる。
「守るものがある拳は、鈍る」
「それでも――」
ユウは、視線を逸らさない。
「捨てられない」
風が、唸る。
次の瞬間。
ジンが踏み込んだ。
――雷鳴破。
音が遅れて追いつくほどの速さ。
ユウは、迎え撃つ。
――心象拳。
拳がぶつかる直前、空気が震えた。
衝撃。
二人の身体が、同時に弾かれる。
リングが軋む。
ジンは、着地と同時に間合いを詰める。
――絶影拳。
影の中から放たれる一撃。
ユウは、完全には避けきれない。
衝撃が、脇腹を貫く。
「っ……!」
身体が浮く。
だが、落ちない。
(……まだだ)
歯を食いしばり、踏みとどまる。
その瞬間。
胸の奥が、熱くなる。
家族の声。
仲間の背中。
アイリの笑顔。
(……ここで、終われない)
拳に、力が集まる。
――心象拳。
今度は、深く。
感情が、流れ込む。
ジンの動きが、止まる。
「……なに、を……」
ほんの一瞬。
だが、確かに。
迷いが、生まれた。
ユウは跳ぶ。
風を切り、身体を捻る。
――飛燕蹴。
空を蹴るような一撃が、ジンの胸を打つ。
ジンの身体が、後方へ弾かれる。
リングの縁。
蒼空。
だが――
ジンは、踏みとどまった。
片膝をつき、指先で床を掴む。
「……危なかった」
ゆっくりと、立ち上がる。
その瞳に、わずかな揺れ。
「感情は……確かに、力になる」
風が、二人の間を吹き抜ける。
観客席のない天空リングに、
息遣いだけが残る。
勝敗は、まだ決していない。
だが。
この戦いは、ただの勝ち負けでは終わらない。
断ち切れぬものを抱えた拳同士が、
蒼空の下で、さらに踏み込もうとしていた。




