哀願ペット
けったいな方だ。
初めて会うにも関わらず、私はそう思わずにはいられなかった。
何せ、面白いものを見せてやると言って私を自宅に招待したのに見せられたのは一人の女性だ。
「初めまして」
女性は丁寧に礼をする。
黄金色の髪の毛に青色の瞳。
口元に浮かべた微かな笑みがいつの間にか消えていた。
笑っていなかったのではないか。
そう思ってしまうほどに存在が薄い。
「配偶者の自慢ですか」
私が問うとその人は首を振り、無遠慮に女性の頭を撫でた。
愛情がある。
じゃれる犬の頭を撫でるように力強い。
「ご主人様のペットです」
女性は言った。
私は肩を竦める。
自分でも『驚くほどに』驚きはなかった。
「私はこの世で生きていけない生物なのです」
淡々と告げられる言葉。
惨めさはない。
まるで文章を読み上げられるように。
「こいつはね」
その人は女性の頭を撫でるのをやめた。
「一人では生きていけないんだ」
「生活力がないということですか」
「いいや」
その人は女性の袖をめくり隠れていた肌を晒す。
現れる縦に裂かれた切り傷やタバコを押し付けられた痕で汚れた人間の皮膚。
「痛々しいだろう」
その人はそう言って袖を戻して目に映る現実を隠した。
「乞食が慈悲を求めていたんだ。そして、こいつは――」
「その人を救おうとしました」
女性はそう言って笑った。
微かに見えた口の中の歯が明らかに少ない。
「だけど、助けようとしたら押し倒されて。殴られて遊ばれて、捨てられました」
女性の言葉にその人は大きくため息をつき、再び女性の頭を撫でた。
まるで子供にするように優しかった。
「こいつはね。『それ』を繰り返したんだ。何故だか分かるか?」
「……いいえ」
答えは浮かんだが私は首を振った。
自分の答えを言うことが酷く物悲しいと思ったのだ。
叶うなら、直視するのを避けたかったほどに。
「要はな。善人なんだ。こいつは。人間として生きていけないほどに」
予想通りの答えが響いた。
「自分を犠牲にしてでも誰かを助けようとする。社会じゃ生きていけない類いのものなのさ」
「はい。だから私はご主人様のペットとして生きることにしたんです」
「人として生きるのをやめたということですか」
私の問いに女性は首を振る。
「そこまで考えてはいません。ですが、生きていたいと哀願はいたしました」
淀みない女性の言葉に私は肩を竦める。
そんな私に女性は静かに目を閉じて、それ以上の反応はしなくなった。
「けったいな方達だ」
私の言葉に一人と一匹は私には理解出来ない反応をするばかりだった。