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念者

猫‐〈秋の雨お外の(いも)が濡れて待つ 涙次〉



【ⅰ】


 魔界の「八人委員會」は*「もう一人の」肝戸を欠いた儘だつた。肝戸、鉢形監物を欠く「委員會」は、新しい【魔】を産み出す能力を持たない。「委員會」は、「もう一人の」肝戸が、じろさんに「【魔】(だま)拔き」されて、使ひ物にならなくなつてゐる事を知らない。

 矢城庄吉(やしろ・しやうきち)、と云ふ少年がかつてゐた。** 平手造酒の念者である。念者と云ふのは、義兄弟の契りが嵩じて、同性愛狀に發展したもの、の「思はれ人」の方、と考へてくれゝば良い。これは、平手造酒がまだ平田三龜として人間界にあつた頃の話である。

 鉢形は講談で、庄吉の事には触れなかつた。と云ふのは、講談作者が平手に念者がゐる、と云ふ事を創作しなかつたせゐである。鉢形は古典的な「平手像」に沿つた彼しか語らなかつた。



* 当該シリーズ第57話參照。

** 当該シリーズ第57~59話參照。



【ⅱ】


 鉢形に語られなかつた庄吉は、魔界にも存在し得ない。たゞ彼は、自分の誕生を待つてゐた。しかし、鉢形は、テオのテオ・ブレイドに斬られ、絶命した。庄吉の誕生は起こり得ない事となつてしまつた。云つてみれば庄吉は、胎児の儘放り置かれてゐる赤子であつたのだが、この場合の胎児は、意識を持つたそれ、である事を覺えてゐて慾しい。

 庄吉は無能な「八人委員會」を呪つた。彼は、平手がカンテラの前で、大喀血して果てた事を知り、彼の弔ひがしたかつたのだが... 胎児の儘の彼は、「もう一人の」肝戸に呼び掛けた。しかし、返答はいつ迄經つても、ない。仕方なく、遣る瀬ない氣持ちを、今存在してゐる、「普段の」肝戸にぶつけた。自分の大事な者を失うとは、どんな氣分がする事なのか、誰かに分からせたかつた。



【ⅲ】


 肝戸‐ 今はカンテラ事務所の運轉士職は、休職してゐた。每日、ぼおつとして過ごした。そして、庄吉の怨みの念の為、一人娘の力子を、ネグレクト狀態で放置してゐた。庄吉は、力子の餓死を望んでゐた。平手の命と力子の命、交換出來るものなら、交換したかつた。

 カンテラ事務所で、肝戸の現狀を眞つ先に知つたのは、やはり「シュー・シャイン」であつた。この儘では、力子はさう長くない。ヒューマニズム(?)の見地からして、それは許されざる事だつた。その事を聞いたカンテラ、肝戸のマンションの部屋に、透明人間化した涙坐を派遣、力子を預かれるやう、彼女を攫つて來るやう、命じた。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈盆休に夜更かしするはだうなのか祖靈呆れてなかなか帰らぬ 平手みき〉



【ⅳ】


 力子はなんとか命を長らへた。そしてカンテラは力子を、子供好きで、配偶者がなくとも養子が慾しい、と云つてゐた、タイムボム荒磯に預けた。それでも肝戸は惚けた儘で、最早見るべきところはなく、カンテラは彼を解職した。要するに馘首(クビ)である。

 だが「シュー・シャイン」ですら、庄吉の念については、知るところなく、カンテラは肝戸が(「もう一人の」ではない普段の肝戸が)魔道に墜ちたのではないかと訝しんだ。



【ⅴ】


 力子の件、自分の呪はれた境遇は、全てカンテラのせゐなのだと、庄吉思ふに至つた。で、今度はカンテラと悦美が、君繪をネグレクトするやう、念波を送つた。だが、カンテラ事務所には、強力な結界が張られてゐる‐ 庄吉、力及ばず、たゞ「八人(七人)委員會」に「やつ当たり」。委員會のメンバーは、謎の死を遂げたり、重い病氣(【魔】だつて病氣する)に罹つたりした。



【ⅵ】


 それもこれも、皆カンテラ一味には情報が届かぬ、水面下の動きだつたのである。カンテラが矢城庄吉と云ふ、平手造酒の念者について知るのは、ずつと後の事だつた。だが、「委員會」が壊滅した事に依り、魔界から溢れる「はぐれ【魔】」の増加が懸念された。カンテラは庄吉にも思ひも寄らぬ事の余波に、踊らされる事となる。


 カンテラは、だうやら荒磯が良く子育てしてくれるやうだつたのを見計らつて、肝戸を斬つた。目的は何か。非情なやうだが、口封じの為である。肝戸は、弱點も含め、事務所の内情を知り過ぎてゐた。「しええええええいつ!!」



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈寺の鐘ふと近く寄る秋驟雨 涙次〉



 肝戸‐ 良きキャラであつたが、充分な働きをする前に、命を半ばした。それもこれも、二重人格者たる彼の生まれが、災ひしたのである。カンテラが彼を斬つたのは、一味のメンバーの利益を圖つての事で、一味代表者としては当然の行動であると、お見知り置き願ひたい。彼には確かに非情な面もあつたが、作者が何処かに書いた、一味思ひのリーダーであると。


 では。

                                                  

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