第89話 解放への道
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**【フェリシア視点】**
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魔王城の城門が開いた。フェリシアは、連合軍の先頭に立っていた。傷は治療魔法で応急処置したが、まだ痛む。それでも、前を向く。
「出発します」フェリシアが言った。
ヴァルブルガが隣に並ぶ。「お姉さま、無理はせぬように」
「ヴァルブルガこそ」
二人は顔を見合わせて、微笑んだ。
後ろには、連合軍2万5千。グルカ軍、アルカ共和国軍、タラッサ軍、ドワーフ軍、エルフ弓兵、獣人部族軍、レオニス兵。そして、千景が率いる妖怪軍団。連邦の主要7カ国が、一つの目的のために集まった。
「セレスティナへ、進軍する」フェリシアが剣を掲げた。「ただし、これは侵略ではありません」「解放です」
兵士たちが頷く。
グルカが副官に命じる。「全軍、整然と行進しろ」「略奪や暴力は一切禁止だ」
連合軍が動き出した。秋の陽射しが、軍旗を照らす。
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**【視点切り替え:フェリシア → アウローラ】**
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アウローラは、フェリシアたちの後ろを歩いていた。捕虜ではなく、同行者として。自ら申し出たのだ。
「私の過ちを正す責任があります」フェリシアに言った時、彼女は驚いた顔をした。だが、すぐに微笑んで頷いてくれた。「一緒に、量産勇者たちを助けましょう」
その言葉が、アウローラの心を温めた。
(私は...何てことを...)歩きながら、自分のしたことを思い返す。セレスティナで、マリーネ大司教の命令のまま、勇者を量産した。人々に過剰な加護を与え、自我を奪った。そして、この戦争を始めた。
全て、神の意志だと信じていた。だが、違った。操られていただけだった。
「アウローラ様」声がして、振り返る。
量産勇者の一人だった。魔王城の戦いで降伏した者たち。今は、連合軍に保護されている。
「はい」アウローラが答える。
「本当に...終わるのでしょうか」若い兵士が尋ねる。元は農夫だったという。「この戦いは」
アウローラは頷いた。「終わります」「必ず」
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**【視点切り替え:アウローラ → フェリシア】**
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行軍の途中、国境地帯に差し掛かった時だった。セレスティナとノヴァ・ステラの境界線。そこで、量産勇者の残存部隊と遭遇した。
「敵だ!」斥候が叫ぶ。
だが、グルカが手を上げて制した。「待て」
フェリシアも前方を見る。量産勇者たちが、こちらに向かってくる。だが、その動きが明らかに鈍い。足を引きずり、剣を満足に構えられていない。
「疲れている...」グルカが呟いた。
量産勇者の先頭が、グルカの前で立ち止まった。元は商人だったのだろう。商人風の服の上に、粗末な鎧を着けている。
「もう...戦いたくない...」男が呟いた。「何日も...戦い続けて...」「体が...動かない...」
そして、地面に膝をついた。剣が地面に落ちる。後ろの量産勇者たちも、次々と武器を落とす。
グルカが理解する。「過剰な加護の副作用か」
人の体は、長期間神の力を保てない。肉体が限界に達している。
「全員、武器を捨てろ」グルカが命じる。「降伏すれば、命は保証する」
量産勇者たちが、次々と武器を捨てた。「ありがとう...」「やっと...終わる...」
涙を流す者もいる。
グルカは兵士たちに命じた。「彼らに水と食料を与えろ」「敵ではない。被害者だ」
ヴァルブルガが前に出た。降伏した量産勇者たちを見て、治療魔法を使う。暗黒の癒し。黒い光が、量産勇者たちを包む。
「これは...」一人が驚く。「体が...楽になる...」
疲労が癒されていく。
ヴァルブルガは全員に治療魔法をかけた。「わらわたちは、敵じゃない」「皆を助けに来たのじゃ」
量産勇者の一人が、ヴァルブルガを見た。「あなたは...魔王...」
「そうじゃ」ヴァルブルガは頷いた。「でも、わらわもお姉さまも、皆と同じ。ただ、平和に生きたいだけじゃ」
男は涙を流した。「ありがとうございます...私たち、騙されていました...」
ヴァルブルガは男の頭を撫でた。「もう大丈夫じゃ」
フェリシアは微笑んだ。ヴァルブルガの優しさが、人々の心を癒していく。
その後、師匠と千景さんが報告に来た。師匠はセレスティナの村々を調査し、千景さんは首都を偵察してきたという。
「村はどこも若者がいない。量産勇者にされた」師匠が言った。「老人と子供だけの村が続いている」
千景さんが続ける。「首都の防衛は形だけじゃ。士気は地に落ちておる。貴族たちも混乱しておる」
「抵抗はないと見ていい」師匠が結論づけた。
フェリシアは頷いた。情報は揃った。明日、首都に入る。
進軍を続け、セレスティナの農村に入った。荒廃している。畑は荒れ、家は壊れている。だが、人々は生きている。
恐る恐る、家から顔を出す。「連合軍...」老人が呟く。「助けに...来てくれたのか...」
フェリシアは馬から降りた。老人に近づく。
「はい」「戦争を終わらせに来ました」
老人は涙を流した。「ありがとう...」「息子が...勇者にされて...」「もう会えないと思っていた...」
フェリシアは老人の肩を抱いた。「大丈夫です」「息子さんも、きっと帰ってきます」
そして、兵士たちに命じる。「この村に食料を配って」「困っている人がいれば、助けて」
兵士たちが動く。村人たちに、パンと水を配る。子供たちが、パンを受け取って喜ぶ。
「ありがとう!」「おいしい!」
フェリシアは微笑んだ。これが、本当の勝利だ。戦いに勝つことではなく、人々を救うこと。
夕刻、野営地を設営した。首都まで、残り僅か。だが、今日は休む。兵士たちも疲れている。
グルカが地図を見ている。セレスティナ首都。そこに、全ての元凶がいる。マリーネ大司教。
フェリシアは決意した。「グルカさん」
「どうした?」
「明日、首都に入る前に、全軍に伝えたいことがあります」フェリシアが真剣な顔で言う。
グルカは頷いた。「分かった。集めよう」
野営地の中央。連合軍の全兵士が集まった。2万5千の顔が、フェリシアを見る。
フェリシアは、台の上に立った。深呼吸する。そして、声を張り上げた。
「皆さん!」兵士たちが静まり返る。
「明日、この無意味な戦争を終わらせます」フェリシアが続ける。「セレスティナの首都に入ります」「だが、忘れないでください」「セレスティナの人々も、被害者です」
兵士たちが真剣に聞いている。
「量産勇者たちは、操られていました」「市民たちも、望んでいない戦争に巻き込まれました」「だから、お願いです」
フェリシアが頭を下げた。「憎しみではなく、理解を持って接してください」「略奪も、暴力も、しないでください」「私たちは、解放軍です」
ヴァルブルガも前に出る。「わらわたちは、皆を救いに来た」「敵を倒しに来たんじゃない」「人々を助けに来たのじゃ」
兵士たちが頷いた。
グルカが立ち上がる。「フェリシア殿の言う通りだ」「占領ではない。秩序の回復だ」「規律を守れ」
タラッサ海王も頷く。「その通り」「我々は、正義の軍だ」
バリンも金槌を掲げる。「ドワーフの誇りにかけて、民を守る!」
兵士たちが一斉に武器を掲げた。「おおおおお!」
雄叫びが、夜空に響いた。
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**【視点切り替え:フェリシア → アウローラ】**
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アウローラは、野営地の端で座っていた。フェリシアの演説を聞いていた。
(私も...あんな風に...)人々を導けていれば。操られる前に、気づいていれば。
「アウローラ様」声がして、振り返る。量産勇者の一人だった。
「はい」
「明日...首都に入るんですよね」男が尋ねる。
「ええ」アウローラは頷いた。「私も、一緒に行きます」「まだ、首都には正気を失った人たちがいる」「私が、説得します」
男は頷いた。「お願いします」「私の家族も...きっとまだ...」
アウローラは立ち上がった。「必ず、助けます」「これは、私の贖罪です」
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**【視点切り替え:アウローラ → フェリシア】**
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天幕の中。フェリシアは、ヴァルブルガと話していた。
「お姉さま」ヴァルブルガが言う。「明日...本当に終わるのじゃろうか」
「ええ」フェリシアは頷いた。「必ず終わらせます」
「でも...怖いのじゃ」ヴァルブルガが震える。「また、誰かが傷つくんじゃないかと」
フェリシアはヴァルブルガの手を握った。「大丈夫」「私たちには、仲間がいます」「グルカさんも、タラッサさんも、バリンさんも」「ドラーゲン師匠も、千景さんも」「そして、ザガトたちも、ナーナも」「皆が、一緒に戦ってくれます」
ヴァルブルガは頷いた。「そうじゃな」「わらわたちは、一人じゃない」
二人は手を繋いだまま、眠りについた。明日、全てを終わらせるために。
夜が更けていく。野営地に、静寂が訪れた。だが、兵士たちの目には、決意の光が宿っていた。
明日、セレスティナの首都へ。そして、この戦争を終わらせる。
解放への道は、もうすぐ終わる。




