第86話 緊急会議
---
**【ソロン・クラティス視点】**
---
アルカ・ポリス中央議会場。中立都市アルカの中心に佇む、白亜の建物。
ソロン・クラティスは議長として、木槌を手に取った。深夜0時からドラーゲンと千景が各国を回り始めて、12時間後の正午。
異例の速さで、全ての国の代表が集まった。通常は招集だけで1週間かかるところを、たった半日で実現した。ドラーゲンと千景の縮地の術による直接輸送。それがなければ不可能だった速度だ。
議場を見渡すと、各国の代表が揃っている。グルカ、タラッサ女提督アストリッド、バリン、エルドリック王、老狼グウィン、ヴァレリウス老王...
皆、疲労の色を見せながらも、真剣な表情だ。それほどの緊急事態だということだ。
「緊急議会を開催する」
ソロンは木槌を打った。議場に響く音。全員が静まり返る。
「議題は一つ、セレスティナの暴走と連邦の対応」
グルカが最初に発言権を取った。
「単刀直入に言う。これは戦争ではない、思想戦だ」声を張り上げる。
「セレスティナは『正しい秩序』を押し付けている。今回はノヴァ・ステラ、次は我々の誰かだ」
議場から「その通りだ!」の声が上がる。
グルカは続けた。
「我々は多様性を認め合う連邦だ。だが、セレスティナは画一的な秩序を求めている。これを許せば、連邦の理念が崩壊する」
拍手が起きた。グルカは席に戻った。
ソロンは頷いた。グルカの指摘は的確だ。これは単なる国家間の争いではない。理念の戦いだ。
ソロン・クラティスは立ち上がった。銀髪の議長が、静かに語り始める。
「私は議長として、中立であるべきだ」議場が静まり返る。
「だが、これは中立を保てる問題ではない」ソロンの声が響く。
「アルカは連邦の首都として、政治と文化の中心だ」
「だが、それだけではない」
「我々にも誇りがある。自由を守る意志がある」
ソロンが拳を握る。
「アルカ共和国軍1万を派遣する」
「連邦の盟主として、先頭に立つ」
議場がどよめいた。中立を旨とするアルカが、これほどの兵力を出すのは前代未聞だ。
ソロンが席に戻ると、タラッサ女提督アストリッドが立ち上がった。日に焼けた肌と金髪の女性だ。
「海の民は自由を愛する。だが彼らは言う」声が議場に響く。「『神の秩序に従え』と。誰の神だ?誰の秩序だ?」拳を振り上げる。
「セレスティナの独善を許せば、連邦の理念が崩壊する。我々は、自由を守るために戦わねばならない」
議場から歓声が上がった。
アストリッドは続けた。
「タラッサは艦隊を出す。海から、2000の陸戦隊でノヴァ・ステラを支援する」
次にバリンが金槌で机を叩いた。大きな音が響く。
「勇者を300人も作る?それは冒涜だ!」怒りの声。
「選ばれし者の価値を、工場生産で貶めている」
「これは全大陸の誇りへの挑戦だ」
髭を逆立てる。
「ドワーフの誇りにかけて、必ず援軍を送る。ゴルン=アンヴィルの重装兵1500を派遣する」
拍手が起きた。
エルドリック・シルヴァヌス大公が立ち上がった。銀色の長髪を持つエルフの君主だ。
「私は変化を好まぬ保守派と思われておろう」静かな声が議場に響く。
「だが、セレスティナのやり方は容認できぬ」
「神の名の下に他者の在り方を否定する」
「それは千年前、我らエルフが人間と戦った理由でもある」
エルドリックは杖を掲げた。
「銀森エルフ王国も援軍を送る」
「森の弓兵300、そして私自身も参戦しよう」
議場がどよめいた。エルフ王自らの出陣は、異例中の異例だ。ソロンは驚きを隠せなかった。
老狼グウィンが立ち上がった。銀灰色の毛並みを持つ狼獣人の長老だ。
「ファウレンヘイムの部族連合も賛同する」野太い声が響く。
「森は多様な種族が共に生きる場じゃ」
「画一的な秩序など、自然の摂理に反する」
グウィンが拳を握る。
「獣人部族連合軍100を派遣する。少数だが、森の民の全力で戦おう」
ヴァレリウス老王が立ち上がった。獅子の特徴を持つ獣人の老王だ。
「レオニスは小国だ」静かに語る。
「だが、千景殿には恩がある」
「彼女がいなければ、我が国は滅んでいた」
ヴァレリウスが頭を下げる。
「レオニスも兵100を送る。少数だが、我が国の全力だ」
拍手が起きた。議場全体が立ち上がった。全ての国が、同じ危機感を持っている。
独善的な正義。それは、誰もが恐れるものだ。
ソロンは目を細めた。連邦の団結を、これほど強く感じたことはない。
---
**【視点切り替え:ソロン → ドラーゲン】**
---
ドラーゲンが証言台に立った。
「現在、ノヴァ・ステラは魔王城で籠城中」声を張り上げる。
「一刻も早く援軍が必要だ」
「フェリシア殿もヴァルブルガ殿も限界に近い」
千景が追加した。
「東方から見ても、これは危険な前例じゃ」尻尾を揺らす。
「独善が勝てば、多様性は死ぬ」
「わらわも妖怪部隊を率いて参戦する」
議場が沸いた。
---
**【視点切り替え:ドラーゲン → ソロン】**
---
ソロンは採決を宣言した。
「ノヴァ・ステラ支援、セレスティナ暴走阻止に賛成の国は?」
全ての国が一斉に手を挙げた。一つの例外もなく。
「全会一致...」
ソロンは木槌を打った。全ての国が、一つの意志で団結した。
グルカが立ち上がった。
「当然だ。実利的にも道義的にも」
タラッサ海王が続く。
「海から援軍を送る」
バリンも続いた。
「地下道も使える。奇襲可能だ」
その他の国々も声を上げる。
「我々も全力で支援する」
ソロンはグルカを総指揮官に推薦した。
「実戦経験と判断力なら彼女が一番だ」
グルカは受諾した。
「効率的に、確実に勝つ」
具体的な支援が表明される。総勢2万5千の連合軍編成が即決された。
「明朝には出撃可能」
「補給線は確保済み」
各国が次々と宣言する。
グルカ軍1万、アルカ共和国軍1万、タラッサ海軍2千、ドワーフ重装兵1千500、エルフ弓兵300、獣人部族軍100、レオニス兵100。
連邦の主要7カ国が、それぞれの全力を結集した。
---
**【視点切り替え:ソロン → ドラーゲン】**
---
ドラーゲンが最後に警告した。
「相手は狂信者だ。対話は通じない」
「力で止めるしかない。覚悟を」
議場全体が立ち上がった。連邦歌を斉唱し始める。
「多様なる民、一つの理念」歌詞が議場に響き渡る。
ドラーゲンは千景を見た。千景が尻尾を揺らす。
「良い結果じゃな」
「ああ」ドラーゲンは頷いた。「これで、フェリシアとヴァルブルガを救える」
---
**【視点切り替え:ドラーゲン → ソロン】**
---
ソロンは宣言した。
「可決。アルカ・ポリス連邦は、その総力を持って」
「セレスティナの独善的暴走を阻止する」
「これは征服ではない。秩序の押し付けを拒否する戦いだ」
拍手が鳴り止まない。歓声が議場を満たす。
ソロンは誇らしかった。連邦の真価が、今示された。多様性の中の団結。それこそが、連邦の力だ。
議会は閉会した。各国の代表が、急いで自国へ戻る。軍の準備をするために。
ドラーゲンと千景も、アルカを後にした。
「急ぐぞ」
「うむ」
二人は連合軍の集結地点へ向かった。時間との勝負は、まだ終わっていない。




