第84話 堅固なる砦へ
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**【ドラーゲン視点】**
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ラゴマジョレの市庁舎。
フェリシアと千景を連れて戻ったドラーゲンは、即座に決断した。
「俺と千景で連邦に救援を求める」
市庁舎に集まった者たちを見回す。カルロ、アンブロジウス、そして避難準備を進める官僚たち。
「お前たちは魔王城へ撤退しろ。あそこなら時間が稼げる」
千景が九尾の姿に変身した。巨大な白狐の姿。
「妖術と影術なら一晩で回れる」
カルロが心配そうに言った。
「でも市民たちは...」
グレイウォル将軍が進言する。
「魔王城なら収容可能です。食料も備蓄があります」
ドラーゲンは頷いた。
「その間に、俺たちが援軍を連れてくる」
フェリシアが傷だらけの体で頷く。肩の傷を布で縛っている。ヴァルブルガも翼を負傷していた。
「分かりました。市民を守ります。...必ず」
ドラーゲンはフェリシアの頭に手を置いた。
「お前はよくやった。俺たちが必ず援軍を連れてくる」
千景が尻尾を揺らす。
「わらわたちが必ず援軍を連れてくるのじゃ」
ドラーゲンが最後の指示を出す。
「城の防衛術式を全て起動しろ。魔王城の地下には対軍用の古代の防衛システムがある。それを使って持ちこたえろ」
ヴァルブルガが頷いた。
「分かった。わらわの城じゃ。皆を守ってみせる」
フェリシアも決意を込めて言った。
「師匠、千景さん...必ず戻ってきてください。待ってます」
ドラーゲンと千景は、影と妖術で消えた。
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**【視点切り替え:ドラーゲン → フェリシア】**
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市庁舎の中で、フェリシアは深呼吸した。師匠と千景さんが出立した。援軍が来るまで、持ちこたえなければならない。
傷が痛む。でも、立ち止まっている暇はない。
広場では、カルロが物資輸送を指揮している声が聞こえる。
「食料と医薬品を優先!」
市民への避難勧告が出された。ざわめきが広がり、パニックが起きかけた。
「落ち着いて!」カルロが叫ぶ。「順番に避難します!」
アンブロジウスが市民の前に立ち、落ち着かせるように語りかけている。
「神は我々を見捨てません。魔王城は堅固です。必ず守られます」
フェリシアは窓から外を見た。老人と子供が馬車に乗せられている。健康な者は徒歩で。避難行列が始まっていた。
ラゴマジョレの人口は約5万人。魔王城まで、2日かかる。間に合うだろうか。不安が胸をよぎるが、信じるしかない。
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**【視点切り替え:フェリシア → ヴァルブルガ】**
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ヴァルブルガは避難の最後尾にいた。フェリシアと並んで。
後方から、セレスティナ軍の光が見える。黄金の光。量産勇者たちが追ってくる。
「お姉さま、先に行くのじゃ」
「私が時間を稼ぐ」
フェリシアが首を振った。
「一緒に戦うわ」
二人は後衛として応戦した。量産勇者の先遣隊が追いついてくる。
フェリシアが光の障壁を展開する。ヴァルブルガがブレスを放つ。
だが、疲労が蓄積している。傷も癒えていない。
「皆を先に!私たちが時間を稼ぐ!」フェリシアが叫んだ。
戦いながらの撤退。次第に、体力が限界に近づく。
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**【視点切り替え:ヴァルブルガ → フェリシア】**
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ついに、魔王城が見えてきた。黒い巨城。高い城壁と、無数の塔。
「あれが...魔王城」フェリシアは初めて間近で見た。
グレイウォル将軍が門前で指揮を執っている。
「門を開けろ!急げ!」
市民が次々と城内へ入っていく。約3万人が、既に無事避難していた。残りの2万人も、続々と到着する。
フェリシアとヴァルブルガが最後に城門をくぐった。
「閉めろ!」グレイウォルが命令する。
巨大な鉄門が閉まった。
ヴァルブルガが城の中央へ向かう。
「お姉さま、一緒に来て」
フェリシアも後に続く。城の中央広場。そこには巨大な魔法陣が刻まれていた。
「これが防衛術式の核」ヴァルブルガが説明する。「わらわ一人でも起動できるが...」
フェリシアが前に出た。
「私も手伝うわ。二人の方が強くなるはず」
ヴァルブルガが嬉しそうに微笑む。
「お姉さま...ありがとう」
二人は魔法陣の両端に立つ。ヴァルブルガが闇の魔力を注ぎ込む。紫色の光が魔法陣を走る。
フェリシアが聖なる光を注ぎ込む。金色の光が紫色と共鳴し始めた。
二つの力が混ざり合い、予想以上の輝きを放つ。
「防衛術式、起動!」
二人の声が重なった。
城全体が、紫と金が螺旋状に絡み合った光の障壁に包まれた。通常の何倍も強固な障壁。二人の力が共鳴し、想定を超えるシナジーを生み出していた。
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**【視点切り替え:ヴァルブルガ → フェリシア】**
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城内で、防衛準備が始まった。市民たちも武器を取る。
「俺たちの国を守るんだ!」
「勇者だろうが、負けるか!」
フェリシアは城壁から見渡した。包囲網が完璧だ。300名の量産勇者。全員が、黄金の光を纏っている。
「ドラーゲン、千景さん...急いで...」呟く。
ヴァルブルガが寄り添ってきた。
「大丈夫、必ず助けは来る」
フェリシアは頷いた。
「ええ、信じてる」
だが、心の奥には不安があった。どれだけの時間がかかるのだろう。本当に、持ちこたえられるだろうか。
夜が更けていく。魔王城は紫色の光に包まれ、静かに佇んでいた。
外では、量産勇者たちが機械的に歩哨を続けている。籠城戦の始まりだった。




