第80話 双子星の旗の下に
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**【フェリシア視点】**
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誓いの夜の翌朝。快晴だった。
フェリシアは窓から空を見上げた。雲一つない青空。今日だ。今日、調印式が行われる。
大聖堂の鐘が朝から荘厳に鳴り響いている。
フェリシアは身支度を整えた。紺色の正装。勇者の証である剣。そして、銀色の髪を後ろで一つに束ねる。
鏡を見る。緊張している自分が映っている。
「大丈夫」自分に言い聞かせる。ヴァルちゃんがいる。一緒なら、きっと大丈夫。
ドアがノックされた。
「お姉さま、準備はできた?」ヴァルブルガの声だ。
「ええ」フェリシアは部屋を出た。
ヴァルブルガが紅色の正装を纏って、立っていた。
「行こうか」
「うむ」
二人は手を繋いだ。
大聖堂前の広場に出ると、両国の市民が集結していた。アルピリア連邦側は白と青の正装。ノクテルヴァルト側は黒と赤の正装。だが、もう敵ではない。皆、ノヴァ・ステラの民だ。
「今日が歴史的な日だ」
「勇者様と魔王様が、一緒に国を築くなんて」
市民たちの話し声が聞こえてくる。
フェリシアとヴァルブルガが姿を現すと、「わあ!」と歓声が上がった。
「フェリシア様!」「ヴァルブルガ様!」「新しい国の誕生だ!」
フェリシアは笑顔で手を振った。ヴァルブルガも一緒に。二人で手を繋いだまま、大聖堂の階段を上っていく。
市民たちの歓声が、さらに大きくなった。
聖堂内に入ると、両国の代表団が整列していた。右側にアルピリア連邦の代表団。白と青の正装。左側にノクテルヴァルトの代表団。黒と赤の正装。
そして中央に、「ノヴァ・ステラ建国宣言」と「統合協定書」が用意されている。羊皮紙に金色と銀色のインクで書かれた文書。
アンブロジウス枢機卿が祭壇前に立っていた。白い法衣を纏い、手には神託の書を持っている。
フェリシアとヴァルブルガが祭壇前に立った。
「今日、勇者と魔王は敵対する存在から、共に歩む存在へと生まれ変わります」アンブロジウスの声が聖堂中に響く。「これより勇者と魔王は、国家を共同で守護する双子の星となります」
沈黙。誰もが息を殺して聞いている。
フェリシアは一歩前に出た。
「フェリシア・ヴァルトリア」アンブロジウスが呼びかける。「あなたは、アルピリア連邦の勇者として、この文書に署名しますか?」
フェリシアは深く息を吸った。そして、はっきりと答えた。
「はい」声が聖堂中に響く。「私は、アルピリア連邦の勇者として、民を守る誓いを新たに、この統合に署名します」
ペンを取る。金色のインクが羊皮紙に染み込んでいく。
「フェリシア・ヴァルトリア」自分の名前を書く。
勇者として最初で最後の、大きな決断。
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**【視点切り替え:フェリシア → ヴァルブルガ】**
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ヴァルブルガは一歩前に出た。
「ヴァルブルガ・フォン・ノクテルヴァルト」アンブロジウスが呼びかける。「あなたは、ノクテルヴァルトの魔王として、この文書に署名しますか?」
ヴァルブルガは胸を張った。「うむ」力強い声。「わらわは、ノクテルヴァルトの魔王として、国を導く責務を胸に、この統合に署名するぞ」
ペンを取る。銀色のインクが羊皮紙に染み込んでいく。
「ヴァルブルガ・フォン・ノクテルヴァルト」自分の名前を書く。
魔王として、新しい道を選ぶ決断。
「そして」アンブロジウスの声が響く。「お二人は、ノヴァ・ステラ民主連合王国の初代共同元首として、この文書に署名しますか?」
ヴァルブルガはフェリシアを見た。お姉さまも、こちらを見ている。そして、同時に頷いた。
「はい」
「うむ」
二人は同時にペンを取った。建国宣言書の前に立つ。一つの署名欄に、二人で書く。
「ノヴァ・ステラ民主連合王国、初代共同元首」「勇者フェリシア・魔王ヴァルブルガ」
金色と銀色のインクが、一つの署名を作り上げる。
その瞬間。聖堂全体が、虹色の光に包まれた。
温かい光だ。金色と銀色が混ざり合い、虹色のような輝きを放っている。
「これは...神々の祝福だ」誰かが呟くのが聞こえた。
光が消えていく。
アンブロジウスが祝福の言葉を述べ始めた。「アルピリアの光神とノクテルヴァルトの闇神が合意されました」聖堂中に声が響く。「これより勇者と魔王は対立ではなく調和の象徴となります」
代表団たちが息を呑む。調和。対立ではなく、調和。新しい時代の始まりだ。
ヴァルブルガはフェリシアと共に新国旗を掲げた。双子星の旗。金色と銀色の双子星が風になびく。
聖堂の大扉が開かれた。外の市民に旗を見せる。
「わあ!」歓声が爆発的に上がる。
外では桜の花びらが舞い散っていた。千景様の妖術だろう。
「勇者と魔王が仲良しとは、新しい時代じゃ!」千景様の高らかな声が聞こえる。
市民たちが笑った。「本当だ!」「勇者様も魔王様も、我らの指導者だ!」
ヴァルブルガはバルコニーに出た。フェリシアと並んで、市民たちを見下ろす。
「私は勇者として、全ての民を守ります」フェリシアが宣言する。
ヴァルブルガも続ける。
「わらわは魔王として、国の繁栄を導く」
二人が声を合わせる。
「共に手を取り、ノヴァ・ステラを築いていきます」
市民の大合唱が響き渡る。
「勇者万歳!魔王万歳!ノヴァ・ステラ万歳!」
ヴァルブルガは空を見上げた。真昼にも関わらず、双子星が輝いている。
「お姉さま、見て」
「うん」
フェリシアも空を見上げる。双子星が、祝福してくれている。
ヴァルブルガは市民たちを見つめた。皆、笑顔だ。アルピリア連邦の民も、ノクテルヴァルトの民も、分け隔てなく笑っている。
「お姉さま」
「ヴァルちゃん」
二人は微笑み合った。
「やったね」
「うむ」
新しい国が生まれた。勇者と魔王が、共に歩む国。双子星の国。ノヴァ・ステラ。
「これからも、一緒じゃ」
「ええ、一緒よ」
二人は手を繋ぎ直した。市民の歓声が、さらに大きくなった。
「ノヴァ・ステラ万歳!」
双子星が空で輝き続ける。新しい国の、新しい未来を照らすように。




