第78話 神々の宣託
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**【フェリシア視点】**
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到着翌日の午前。
フェリシアは市庁舎の大会議室で、ヴァルブルガの隣に座っていた。周りには、ドラーゲン、千景、カルロ、グレイウォル将軍、そして両国の高官たちが着席している。
アンブロジウス枢機卿が前に立った。「皆様、お集まりいただきありがとうございます」声が会議室に響く。「昨夜、両国の神々から直接の宣託を受けました」
フェリシアは息を呑んだ。ヴァルブルガが手を握ってくる。
アンブロジウスが神託の書を取り出す。真新しい羊皮紙。金色と銀色のインクで書かれた文字。書から淡い光が漏れ、室内が神聖な雰囲気に包まれる。
「お聞きください」フェリシアは息を殺して聞いた。
アンブロジウスが読み上げ始める。「アルピリアの光神とノクテルヴァルトの闇神が、初めて合意されました」
光神と闇神が?フェリシアは驚いた。長年の対立を続けてきた神々が、初めて協力するというのか。
「勇者と魔王のシステムを、対立から調和へ転換すると」アンブロジウスが続ける。
「対立から...調和へ?」フェリシアは呟いた。
ヴァルブルガが手を握ってくる。「お姉さま」小さな声。
フェリシアは握り返した。
アンブロジウスが続ける。「双星守護システム」
新しい言葉だ。フェリシアは耳を澄ませた。
「これは、新たな継承システムです」周りの人々が身を乗り出す。
「光の代表、肩書は勇者。闇の代表、肩書は魔王。この二名が選定されます。選ばれた者は共同で統治する」
「そして...」アンブロジウスが重要な部分を読み上げる。「先代が引退した場合、残った側は大御所として新しい二人を支援する」
千景が尻尾を揺らした。「東方にも似た制度がある」妖狐が口を挟む。「経験者の知恵は貴重じゃ。妖狐の世界でも、長老が若い者を導く。これは良い仕組みじゃな」
師匠が頷く。「世代交代と経験の継承を両立できる」
千景は師匠の腕に寄り添った。「夫も認めておるぞ」
カルロが質問する。「選定方法は?」
アンブロジウスが答える。「神々が適任者を選びます。血統ではありません。選ばれた者は『星の兄弟姉妹』として結ばれます」
カルロが頷く。「世代交代がスムーズなら、経済的にも安定します」
フェリシアは考えていた。寿命差の問題。これで解決するのだろうか。いや、解決ではない。別の形での答えだ。
私が引退した後、ヴァルちゃんは新しい勇者と魔王を導く。そして、いつかヴァルちゃんも引退する時が来たら、その次の世代が...永遠に続く、継承の輪。
「私たちが最初の例となるのね」フェリシアは呟いた。
ヴァルブルガが頷く。「いずれは後進に道を譲り、支える側に回るのじゃな」
二人は顔を見合わせた。そして、微笑んだ。
師匠が口を開く。「世代交代の時期も重要だな。早すぎても、遅すぎても良くない」
アンブロジウスが頷く。「その通りです。適切なタイミングを見極める必要があります。神々の加護が、その判断を助けるでしょう」
グレイウォル将軍が質問する。「軍の指揮系統は?共同元首が引退した場合、軍はどうなるのですか」
アンブロジウスが答える。「新しい勇者と魔王が、軍の最高司令官となります。大御所は助言者として支援しますが、実権は新世代に移ります」
グレイウォルが頷く。「了解しました」
明確な回答だ。フェリシアも安心した。これなら混乱は避けられるだろう。
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**【視点切り替え:フェリシア → ヴァルブルガ】**
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ヴァルブルガは胸に手を当てた。いずれ、引退する日が来る。そして、お姉さまはもっと早く引退することになる。
寂しい。だが、それが自然なのだ。人間と魔族。寿命が違う。でも、お姉さまとの絆は消えない。引退した後も、一緒に新しい世代を支えられる。
「お姉さま」ヴァルブルガは声をかけた。
フェリシアが振り向く。
「わらわ、頑張る。新しい世代を、お姉さまと一緒に導くのじゃ」
フェリシアが微笑んだ。「ええ、一緒にね」
アンブロジウスが会議を締めくくる。「具体的な統治システムの協議を始めましょう」
カルロが経済面を説明する。「通貨統合は段階的に進めます」
グレイウォルが軍事面を説明する。「両軍の指揮系統を一本化します」
両国の高官たちが、詳細を詰めていく。
ヴァルブルガは窓の外を見た。空が晴れている。双子星が、昼間でも淡く輝いている気がする。
アンブロジウスが言った。「明後日の調印式で、神々の祝福が顕現するでしょう」
ヴァルブルガとフェリシアは、希望に満ちた表情で頷いた。新しい時代が、始まろうとしている。
会議が終わった。
ヴァルブルガはフェリシアと並んで窓の外を見た。
「お姉さま」
「ヴァルちゃん」
二人は手を繋いだ。
「寿命差の問題、完全に解決したわけじゃないけど」フェリシアが言った。「でも、道が見えたわ」
「うむ」ヴァルブルガが頷く。「わらわたちは、新しい継承の形を作るのじゃ。そして、いつか後進に道を譲る。それまでは、全力で国を守る」
フェリシアが微笑んだ。「ええ、全力で」
二人は窓の外を見つめた。ラゴマジョレの街が、活気に溢れている。市民たちが、笑顔で働いている。
「明後日、調印式じゃな」
「ええ、楽しみね」
二人は手を繋いだまま、未来を見つめた。新しい国の、新しい始まりを。そして、いつか来る世代交代の日を見据えて。




