第76話 ドラーゲンの登場、三人の共闘と説得
## 【フェリシア視点】9-8 ドラーゲンの登場、三人の共闘と説得
荒野の岩の上に、四人が座っていた。
ドラーゲン、千景、フェリシア、ヴァルブルガ。
月明かりが、戦いで荒れた大地を照らしている。
千景が尻尾を揺らしながら言った。
「話してみよ。誠意が感じられなければ、即座にお主ごと吹き飛ばす」
ドラーゲンがフェリシアとヴァルブルガを見た。
「まず、この二人から説明してもらおう」
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**【視点切り替え:フェリシア → 千景】**
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フェリシアが頷いた。
「千景さん、私たちは本当に師匠の弟子です。恋愛関係ではありません」
千景が疑わしげに見た。
「その割には、随分と親密に見えるが」
ヴァルブルガが説明した。
「親密なのは、わらわとお姉さまじゃ。わらわたちは姉妹のような関係で、一緒に国を作ろうとしている」
千景の狐耳がぴくりと動いた。
「国を...?」
国を作る?それは一体どういうことだ。千景は少し興味を持ち始めた。
フェリシアが続けた。
「はい。ノヴァ・ステラという新しい国です。私とヴァルちゃんが共同で統治する、姉妹元首制の国」
ヴァルブルガが補足した。
「師匠は、わらわたちがそれを実現できるよう、ずっと見守ってくれているのじゃ」
千景が少し驚いた表情になった。
「姉妹...国を...」
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**【視点切り替え:千景 → フェリシア】**
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フェリシアが真剣な表情で言った。
「師匠は私たちの保護者のような存在です。確かに修行は厳しかったですし、セクハラまがいのこともありましたけど——」
千景の目が再び吊り上がった。
フェリシアが慌てて続けた。「——でも!それは本当に修行の一環でした。師匠は不器用なだけで、私たちを恋愛対象として見ているわけではありません」
ヴァルブルガが頷いた。
「師匠は、わらわたちを弟子として、娘として、見守ってくれている。それだけじゃ」
千景が黙って聞いていた。
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**【視点切り替え:フェリシア → ドラーゲン】**
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ドラーゲンが口を開いた。
「千景...俺はお前から逃げていた。それは事実だ」
千景の狐耳が揺れた。
「40年前、お前が求婚してきた時、俺は断った。『若い女の子が好み』なんて、ふざけた言い訳をして」
千景が小さく頷いた。
「...覚えておる」
ドラーゲンが続けた。
「あれは最低の断り方だった。お前の気持ちを踏みにじる、最悪の言い訳だった。だから、俺はずっと逃げていた。お前に合わせる顔がなかった」
千景の目が潤んだ。
「じゃあ...なぜ断ったのじゃ...」
ドラーゲンが夜空を見上げた。
「俺は影魔法使いだ。暗闇に生き、影に隠れて生きる。そんな俺に、誰かと一緒に生きる資格があるのかと...ずっと思っていた」
千景が首を傾げた。
「一人で生きる...じゃと?」
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**【視点切り替え:ドラーゲン → フェリシア】**
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フェリシアは初めて聞く、師匠の本音だった。
ドラーゲンが続けた。
「でも、この二人に出会って、少し考えが変わった。一人で生きることだけが正解じゃないと...気づいた」
千景の尻尾が、ゆっくりと揺れた。
ドラーゲンが千景に向き直った。
「千景...お前を40年も待たせて、本当に悪かった」
千景の狐耳がピンと立った。
ドラーゲンが深い溜息をついた。
「このままじゃ、お前は俺を追い続ける。そして俺も逃げ続ける。それじゃ、いつまでも終わらない」
ドラーゲンが諦めたような表情で言った。
「...結婚しよう。それで、けじめをつける」
千景の九本の尻尾が一斉に立ち上がった。
嬉しそうに揺れている。
「ほ、本当か!?嘘ではないな!?」
顔を真っ赤にして、狐耳がぴょこぴょこ動く。
ドラーゲンが苦笑した。
「ああ、本当だ。もう逃げない——というか、逃げられないな」
千景が抱きついた。
「ドラーゲン...わらわ...40年待った甲斐があった...」
フェリシアは複雑な表情で微笑んだ。
(師匠...仕方なく、という感じだけど...)
ヴァルブルガが囁いた。
「お姉さま、師匠は覚悟を決めたのじゃな」
「ええ...責任を取る、という形で」
グルカが荒野から戻ってきた。
「感動的な話だが」
グルカが巨大な請求書をドラーゲンに突きつけた。
「荒野の修復代と、避難誘導にかかった人件費、合計でこれだけだ」
ドラーゲンが請求書を見て絶句した。
「...一生かかっても払えない額だぞ、これ」
グルカが真顔で言った。
「当然、新婦も連帯保証人になってもらう。結婚契約と同時に、債務契約も結んでもらう」
千景が首を傾げた。
「債務契約?」
カルロが契約書を取り出した。
「はい、こちらにサインを。夫婦連帯で返済していただきます」
ドラーゲンが頭を抱えた。
「待て、これじゃ完全に逃げ道が...」
アルマン伯爵が微笑んだ。
「ドラーゲン殿、これで千景さんから逃げることはできませんね。法的拘束力のある契約です」
千景が笑顔で言った。
「良いではないか。夫婦で一緒に働くのじゃ。わらわは嬉しいぞ」
グルカが契約書にペンを突きつけた。
「サインを。今すぐ」
ドラーゲンが諦めた表情でサインした。
千景も嬉しそうにサインする。
市民たちが恐る恐る戻ってきた。状況を理解すると、拍手が起こった。
「おめでとう!新郎新婦に幸あれ!」
ドラーゲンが深い溜息をついた。
「なんか...完全に嵌められた気がする...」
千景が幸せそうに抱きついている。
「わらわは幸せじゃ」
フェリシアはヴァルブルガと顔を見合わせた。
(師匠...セクハラの報いが、こんな形で...)
ヴァルブルガが小声で言った。
「因果応報じゃな」
「ええ...でも、千景さんは本当に幸せそうだわ」
月明かりの下、新しい絆が生まれた。
ドラーゲンと千景——40年の時を経て、半ば強制的に結ばれた二人。
フェリシアとヴァルブルガ——新しい星を作る双子星。
緑牙平原の夜は、祝福と少しの同情に満ちていた。
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翌朝。
ドラーゲンが再び契約書を見つめていた。
「...本当に一生分の借金だな、これ」
千景が笑顔で言った。
「大丈夫じゃ。わらわも一緒に働く。一生、お主の隣におるということじゃ」
ドラーゲンが頭を抱えた。
「それが狙いか...」
グルカが満足そうに頷いた。
「債務者は逃げられない。完璧な契約だ」
フェリシアとヴァルブルガが笑った。
「師匠、頑張ってください」
「応援しているのじゃ」
ドラーゲンが深い溜息をついた。
しかし、その顔には——諦めと、ほんの少しの安堵が混ざっていた。
(まあ...これで、本当に終わったな。逃げる必要も、なくなった)
緑牙平原に、新しい物語が始まった。
ノヴァ・ステラの誕生と、因果応報の結婚。
そして、一生かけて返す借金。
ドラーゲンの自由な日々は——完全に終わりを告げた。




