第71話 ノヴァ・ステラの象徴、双子星
## 【フェリシア視点】9-3 ノヴァ・ステラの象徴、双子星
制度設計会議の翌日、午後。
グルカが一同を豊穣の砦の美術工房へ案内した。
「今日は国旗のデザインを決める。国の象徴となる大事な作業だ」
明るい工房には、画材と試作品が所狭しと並んでいた。絵の具の匂いと、キャンバスの白さがフェリシアの目を引く。
工房の奥から、巨大な体躯のオークが現れた。
「やあ、お待ちしておりました」
グルカが紹介した。
「マスター・ゴーン、我が領で最高の画家だ。オークの中でも特に芸術に秀でた者だ」
ゴーンが丁寧にお辞儀をした。意外なほど繊細な仕草だった。
「光栄です、勇者殿、魔王殿」
ヴァルブルガが目を輝かせた。
「オークの芸術家じゃな!」
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**【視点切り替え:フェリシア → ゴーン】**
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ゴーンは満足そうに微笑んだ。
多くの者はオークを見て、力仕事しか想像しない。だが自分は違う。美しいものを愛し、創造する心を持っている。
「我々オークは力仕事だけではありません。美しいものを愛する心もあります。それを理解していただけて嬉しく思います」
ゴーンがテーブルに数枚のスケッチを広げた。
「国旗は国の魂です。実用性と象徴性の両立が必要で、それぞれの案にはコンセプトがあります」
最初の案が提示された。剣と杖を交差させたデザインだった。
ヴァルブルガが首を傾げた。
「武器じゃ物騒じゃな」
フェリシアも同意した。
「平和を象徴したいのに、これじゃ戦争みたいね」
やはりか、とゴーンは思った。武力を前面に出すのは時代遅れだ。
ゴーンが頷いて、二番目の案を見せた。握手する手のシルエットだった。
フェリシアが考え込んだ。
「友好的だけど、少し普通すぎるかも」
カルロも商人の視点で言った。
「ありふれていて、印象に残りにくいですね。商品としての魅力に欠けます」
予想通りだ。ゴーンは内心で頷いた。これも没だろう。
ゴーンが三番目の案を広げた。太陽と月の融合デザインだった。
グルカが即座に首を振った。
「昼夜で分かれているようで不吉だ」
アルマン伯爵も同意した。
「分断を連想させます。統合を目指す国には不向きですね」
ゴーンが最後の案をゆっくりと広げた。これこそが本命だ。
「これはどうでしょう」
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**【視点切り替え:ゴーン → フェリシア】**
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フェリシアは息を呑んだ。
紺色の夜空に、二つの星が寄り添うように輝いている。
一つは金色、もう一つは銀色。
星の光が互いに混ざり合い、虹色の帯を作っていた。
「きれい...」
ヴァルブルガも同じ言葉を呟いた。
「きれい...」
二人が顔を見合わせて微笑んだ。
アルマン伯爵が感嘆した。
「『ノヴァ・ステラ』の名にぴったりです」
ドラーゲンが興味深そうに星を見つめた。
「双子星か。天文学的にも興味深い。実際の双子星は、互いの重力で結びつき、永遠に離れない」
フェリシアとヴァルブルガが再び顔を見合わせた。
「私たちみたい」
二人が同時に言って、笑い合った。
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**【視点切り替え:フェリシア → グルカ】**
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グルカは腕組みをして、デザインを吟味していた。
姉妹愛による統治——前例はない。だが、だからこそ新しい。この双子星のデザインは、その象徴として完璧だ。
「姉妹愛による統治か。前例はないが、だからこそ良い」
カルロが商人らしく言った。
「覚えやすく、再現しやすい。商品にも使えますね。旗や紋章、装飾品にも展開できます」
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**【視点切り替え:グルカ → フェリシア】**
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ゴーンが嬉しそうに細部を説明した。
「星の配置は水平です。上下関係ではなく対等を表現しました。背景の紺色は、フェリシア様の衣装から。そして虹色の帯は、多様性と調和を表現しています」
フェリシアは感動していた。一つ一つの要素に、深い意味が込められている。
ヴァルブルガが少し寂しそうに言った。
「でも、わらわたちだけじゃなく、皆の国じゃ」
フェリシアがハッとした。
そうだ——これは私たちだけの国じゃない。国民みんなの国なのだ。
「なら、周りに小さな星も散りばめては?国民一人一人を表す星として」
ゴーンが目を輝かせた。
「素晴らしい!こうですな」
ゴーンが即座にスケッチを始めた。驚くべき速さで、双子星の周りに無数の小さな星が描かれていく。
完成したデザインを見て、一同が沈黙した。
紺色の夜空に、二つの大きな星——金色と銀色——が寄り添っている。
その周りを、無数の小さな星が輝いている。
虹色の帯が、すべての星を優しく包み込んでいた。
グルカが計算を始めた。
「製造コストも妥当。大量生産可能だ」
アルマンが実務的に言った。
「法的には、両国議会の承認が必要ですが、このデザインなら、反対する者はいないでしょう」
オーガス書記官が記録した。
「国旗:双子星デザイン、全会一致で仮決定」
ヴァルブルガが嬉しそうに尻尾を揺らした。
「早く、この旗の下で暮らしたいのじゃ」
フェリシアが頷いた。
「皆が一つになれる、素敵な象徴ね」
ドラーゲンが締めくくった。
「象徴は決まった。あとは実現するだけだ」
フェリシアはデザインをじっと見つめた。
金色の星——それは自分。
銀色の星——それはヴァルブルガ。
周りの小さな星——それは国民みんな。
虹色の帯——それは多様性と調和。
すべてが一つになって、美しい夜空を作り出している。
「ゴーンさん」フェリシアが言った。
「はい」
「素晴らしいデザインをありがとうございます。この旗を誇りに思える国を作ります」
ゴーンが深くお辞儀をした。
「私も光栄です。この作品が、国の象徴になるなんて」
ヴァルブルガがフェリシアの手を握った。
「お姉さま、わらわたち、頑張るのじゃ。この旗に恥じない国を作る」
フェリシアが強く握り返した。
「ええ、必ず」
グルカが実務的に言った。
「明日は交易路の視察だ。早めに休め」
一同が工房を出た。
フェリシアは振り返って、テーブルの上の国旗デザインを見た。
紺色の夜空に輝く、双子星。
それは希望の象徴だった。
新しい国——ノヴァ・ステラ。
その誕生が、もうすぐそこまで来ている。
フェリシアは確信していた。




