第68話 統合への確信、追跡者接近
## 【フェリシア視点】8-8 統合への確信、追跡者接近
バロッサ浄化の翌日、夕刻。
ギルド本部で祝賀会が開かれていた。鉱夫たちが安全に採掘を再開でき、交易構想も順調に進んでいる。
フェリシアは、ドワーフたちの素朴な喜びを見ながら微笑んでいた。
バリンが上機嫌で地図を広げた。
「今日という日を記念して、提案がある」
「何でしょう?」フェリシアが尋ねた。
「君たちの力は一つになった。なら、国も一つにしてはどうだ」
またその話題だ——しかし、今回はフェリシアの心に抵抗がなかった。
カルロも賛同した。
「経済的にも理にかなっています。統合すれば、より効率的な統治が可能です」
バリンが地図上の二つの国の中間地点を指差した。
「二つの国の中間点、ここに新首都を置く」
「新首都...」フェリシアが呟いた。
「そして国名は...『ノヴァ・ステラ』というのはどうだ」
ヴァルブルガの目が輝いた。
「ノヴァ・ステラ...新しい星じゃな」
「素敵な名前ね」フェリシアが微笑んだ。
「わらわたちは新しい星になるのじゃ!」ヴァルブルガが興奮して尻尾を揺らした。
トーリンが実務的に言った。
「国旗のデザインも必要ですな」
バリンが提案した。
「二つの星が寄り添う、双子星のデザインなどは?」
フェリシアとヴァルブルガが顔を見合わせた。
「私たちみたい」二人が同時に言って、笑い合った。
ドラーゲンは冷静に現実を指摘した。
「名前も良いが、実現には相当な準備が必要だ」
「分かってるのじゃ」ヴァルブルガが真剣な顔で答えた。
バリンが励ました。
「だが、不可能ではない。君たちならできる」
カルロが既に計画書を作り始めていた。
「法制度の統合案、通貨統一のスケジュール、新首都の建設計画...やることは山積みです」
フェリシアが決意を固めた。
「時間をかけて、丁寧に進めましょう。急ぐ必要はないわ」
ヴァルブルガが手を握った。
「お姉さまと一緒なら、何でもできるのじゃ」
バリンが大ジョッキを掲げた。
「ノヴァ・ステラの誕生に!」
ドワーフたちが歓声を上げた。
「ノヴァ・ステラ万歳!」
カルロが計画書を広げた。
「詳細は後日詰めますが、大まかなスケジュールは...順調に進めば3年、慎重にやれば5年でしょう」
トーリンが興味津々で覗き込んだ。
「3年後には、新しい国ができるんですね」
バリンが力強く頷いた。
「ああ、我々が歴史の証人になる」
フェリシアは窓の外の星空を見上げた。
ノヴァ・ステラ——新しい星。
ヴァルブルガと一緒に作る、二人の国。
「お姉さま」ヴァルブルガが手を繋いだ。
「何?」
「わらわ、楽しみじゃ。お姉さまとずっと一緒に国を作れる」
「私もよ」フェリシアが微笑んだ。「これから大変なこともたくさんあるでしょうけど」
「でも、一緒なら乗り越えられる」
「そうね。一緒なら」
二人が自然に抱き合った。周囲のドワーフたちが温かい視線を送っている。
カルロが帳簿を閉じて言った。
「では、明日からグルカ領へ向かいましょう。次は緑牙平原共和国の支持を得なければ」
「グルカ領か」ドラーゲンが呟いた。「また面白いことになりそうだ」
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**【視点切り替え:フェリシア → 千景】**
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同じ頃、北海沿岸の小さな漁村。
千景が浜辺に打ち上げられていた。
「はぁ...はぁ...海は広すぎじゃ...」
疲労困憊で、人型の姿も維持するのがやっとだった。狐耳が垂れ、尻尾も元気がない。
親切な漁師の老人が声をかけた。
「大丈夫かね、お嬢さん」
千景が顔を上げた。
「ドラーゲンという男を知らぬか」
老人が考え込んだ。
「ああ、影魔法使いの?つい昨日、交易商人から聞いたぞ」
千景の狐耳がピンと立った。
「本当か!?」
「なんでも、南のグルカ領へ向かったとか」
「南!?」
千景が立ち上がった。疲労が一気に吹き飛ぶ。
「今度こそ正しい方向じゃな!」
老人が地図を見せた。
「ここから南東へ行けば、緑牙平原を通ってグルカ領だ」
千景が地図を受け取る——またしても逆さまに。
「よし、南東じゃな」
しかし、今回は奇跡が起こった。
逆さまに持った地図の南東が、偶然にも本当の南東と一致していたのだ。
老人が目を見張った。
「お嬢さん、その方向で合ってるよ」
千景が驚いた。
「本当か!?わらわが正しい方向を指したのか!?」
「ああ、緑牙平原はそっちだ」
千景が狐の姿に変身した。
「礼を言うぞ、爺!待っておれドラーゲン!今度こそ捕まえてやる!」
巨大な狐が正しい方向へ疾走を開始した。海鳥たちが驚いて飛び立つ。
老人が呟いた。
「あの方向...本当に合ってるな。奇跡だ」
千景は緑牙平原へ向かって疾走していた。
「ドラーゲン、待っておれ!」
40年間の追跡が、ついに実を結ぼうとしていた。
千景は知らなかった。自分が向かう先に、ドラーゲンたちも向かっていることを。
そして、運命の邂逅が近づいていることを。
緑牙平原の広大な草原が、月光に照らされて銀色に輝いている。
新しい星の誕生と、長い追跡の終わり。
二つの物語が、同じ場所で交わろうとしていた。




