第67話 新たな力、調和の魔法
## 【ドラーゲン視点】8-7 新たな力、調和の魔法
ドラーゲンは二人の様子を観察していた。
フェリシアとヴァルブルガが手を繋ぎ、互いを見つめ合っている。その魔力が自然に共鳴し始めていた。
(来るか...)
ドラーゲンは二人の成長を見守ってきた。そして、この瞬間を待っていた。
バロッサ・ゴーレムが暴走し始めた。制御不能な攻撃を乱発している。
「力が...制御できない!だが構わん!全て破壊すれば...ドラーゲンを殺せれば...!」
ドラーゲンが二人に近づき、静かに言った。
「お嬢ちゃん、ヴァルブルガ、よく聞け」
二人がドラーゲンを見た。
「お前たちの力は対極のようで、実は補完関係にある」
「補完...?」フェリシアが首を傾げた。
ドラーゲンが説明を続ける。
「フェリシアの聖なる光は『浄化』の力。ヴァルブルガの炎は『再生』の力だ」
「再生...?」ヴァルブルガが不思議そうに尋ねた。
「竜の炎は破壊だけではない。灰から新しいものが生まれる。それが再生だ」
ドラーゲンが二人の手を見た。
「二つを螺旋状に絡ませれば、『調和』の魔法が生まれる。破壊せず、浄化して再生する——敵を殺さず、無力化する魔法だ」
フェリシアの目が輝いた。
「殺さずに...」
「できるのか、そんなこと?」ヴァルブルガが尋ねた。
ドラーゲンが頷いた。
「お前たちならできる。互いを信じて、力を合わせろ」
---
**【視点切り替え:ドラーゲン → フェリシア】**
---
フェリシアはヴァルブルガの手を握り直した。
「お姉さま、一緒に」
「うん、ヴァルちゃんと一緒なら」
二人の魔力が融合し始めた。
フェリシアの聖なる光——金色に輝く、温かな力。
ヴァルブルガの竜の炎——紅色に燃える、生命の力。
二つが絡み合い、螺旋を描いて混ざり合っていく。
金色と紅色が混ざった、虹色の光が発生した。
「これは...」
フェリシアは初めて感じる魔力の流れに驚いた。自分だけの力でも、ヴァルブルガだけの力でもない——二人で一つの力。
ヴァルブルガも同じ感覚を共有していた。
「お姉さま、わらわたちの力が...一つになっておる」
「うん、感じる...」
バリンが驚嘆の声を上げた。
「あれは...新しい魔法か!」
トーリンが目を見張る。
「二つの魔力が完全に調和している!」
カルロが呟いた。
「あの二人は...本当に一つなんだ」
ドワーフの市民たちが固唾を呑んで見守っている。
フェリシアとヴァルブルガが同時に叫んだ。
「《調和の螺旋》(ハルモニア・スピラーレ)!」
虹色の螺旋光がバロッサを包み込んだ。
「ぐああああ!や、やめろ!私の野望が...執念が...」
バロッサが苦悶の声を上げる。しかし、その声は次第に変化していった。
螺旋の光は攻撃ではなく、歪んだ意識を優しく解きほぐしていく。
強欲の記憶が薄れていく。
復讐心が溶けていく。
憎しみが消えていく。
バロッサの声が変わった。
「あれ?私は...何を求めていたんだ?」
怒りと狂気が消え、単純な疑問だけが残った。
「ドラーゲン...誰だ?なぜ私は怒っていた?」
フェリシアが驚いた。
「記憶が...消えている?」
ドラーゲンが説明した。
「執念と強欲を浄化した。残ったのは、純粋な思考だけだ」
バロッサの声がさらに変化していく。
「ルミナイト...綺麗...」
「掘る...楽しい...」
ゴーレムの体から邪悪な気配が完全に消えた。
青白い光が穏やかになり、鉱石と金属の体が安定する。純粋な労働ゴーレムに変化していた。
トーリンが驚愕した。
「信じられない!あの凶暴なゴーレムが...」
バリンが興奮気味に言った。
「これは素晴らしい!最高の労働力じゃないか!」
バロッサ・ゴーレムが無邪気に尋ねた。
「仕事...ある?掘る...得意」
ノーラが恐る恐る近づいて言った。
「じゃあ、あっちの硬い岩盤を...」
ゴーレムが嬉々として採掘を始めた。
「掘る!楽しい!もっと掘る!」
巨大な腕が岩盤を易々と砕いていく。ドワーフの鉱夫が10人がかりでも時間がかかる作業を、あっという間にこなしていた。
カルロが複雑な表情で呟いた。
「あの強欲なバロッサが、まさかこんな...」
ドラーゲンが皮肉に笑った。
「ある意味、望み通り毎日ルミナイトに囲まれているな」
バロッサ・ゴーレムが無邪気に岩を砕き続けている。
「綺麗な石!楽しい!もっと掘る!」
鉱夫たちが「新入りゴーレム」を歓迎し始めた。
「よし、一緒に掘ろうぜ!」
「こっちの鉱脈も頼む!」
バロッサ・ゴーレムが嬉しそうに答える。
「仲間!嬉しい!もっと掘る!」
トーリンが困惑した表情で帳簿を取り出した。
「労働契約書を...って、ゴーレムに必要か?」
バリンが笑って言った。
「一応、最低賃金は保証してやろう。使い道はないがな」
フェリシアはヴァルブルガと手を繋いだまま、バロッサの姿を見ていた。
敵を倒すのではなく、救う——新しい形の解決。
「ヴァルちゃん、私たち...」
「うむ、お姉さま。わらわたち、新しい力を手に入れたのじゃ」
二人が顔を見合わせて微笑んだ。
バリンが感心した表情で二人を見つめた。
「君たちの力は既に一つだ。別々ではなく、一体となっている」
ドラーゲンが静かに付け加えた。
「二人で一つの魔法を使える。それは、心が完全に通じ合っている証だ」
フェリシアとヴァルブルガが顔を見合わせて照れ笑いした。
坑道に平和が戻った。バロッサは純粋な労働ゴーレムとして、ドワーフたちと共に働き始めている。
そして、フェリシアとヴァルブルガは新たな力——調和の魔法を手に入れた。
二人の絆が、魔法として具現化した瞬間だった。




