第66話 バロッサの復讐、過去の清算
## 【フェリシア視点】8-6 バロッサの復讐、過去の清算
振動から30分後。
調査隊は最下層の大坑道へ降下していた。魔導灯の光が岩壁に掘られた採掘跡を照らしている。
「気をつけてください」トーリン技師長が先導しながら警告した。「ここから先は、行方不明者が最も多く出た区域です」
フェリシアは聖なる光を手のひらに集めていた。いつでも戦えるように準備している。
ヴァルブルガが警戒しながら周囲を見回した。
「何か...おかしな気配がするのじゃ」
坑道は狭く、天井も低い。ヴァルブルガが竜化するには窮屈すぎる空間だった。
巨大な空洞に出た時、それは起こった。
ゴゴゴゴゴ...
地面が揺れ、巨大な人型の影が立ち上がった。
全身が青白く発光する、歪な巨人。その体は鉱石と金属の破片で構成され、無数の鉱夫の魂が封じ込められているかのように、青白い光が明滅している。
そして——その声には、聞き覚えがあった。
「ククク...久しいな、影の魔王ドラーゲン」
フェリシアではなく、ドラーゲンに向けられた声だった。
ドラーゲンの表情が珍しく険しくなる。
「その声...バロッサか。まだ生きていたとはな」
「生きている?いや、死んだぞ!貴様のせいでな!」
ルミナイト残骸ゴーレムと化したバロッサが、狂気じみた笑いを響かせた。
フェリシアが驚いた。
「バロッサ!?でも、あなたは自爆したはず」
「そうとも!」バロッサの声が空洞に響く。「私は死んだ!しかし...」
1年前、マルテ鉱山での爆発の瞬間——肉体は完全に消滅した。しかし、バロッサの執念と強欲、そして何より復讐心だけは消えなかった。高純度ルミナイト・コアの爆発エネルギーと融合し、意識だけが地下の鉱脈を伝って流れていった。
そして、このゴルン=アンヴィルの地下深くに辿り着いた。
「半年かけて周囲の鉱石と金属を取り込み、新たな体を構築した!行方不明の鉱夫たち?彼らの生命力も、この体の一部さ!」
ヴァルブルガが嫌悪感を露わにした。
「死んでなお他者を利用するとは、救いようがない」
バロッサ・ゴーレムが巨大な腕をドラーゲンに向けた。
「貴様だ!貴様が私を自爆させた!私の野望を、全てを奪ったのは!」
ドラーゲンが静かに答えた。
「お前が自分で選んだ道だ。強欲に溺れた末路だ」
「黙れえええ!今度こそ、貴様を殺して、全てを手に入れる!」
巨大な腕が振り下ろされる——ドラーゲンに向かって。
フェリシアが即座に判断した。
「皆さん、上層へ避難を!」
しかしバリンが前に出た。
「我々の街を守るため、戦います!」
ドワーフの鉱夫たちが武器を手に取る。彼らの目には、故郷を守る決意が宿っていた。
フェリシアが避難誘導を指揮した。
「戦闘員以外は避難!子供と老人を優先に!」
ノーラが若い鉱夫たちを誘導し始める。トーリンが装置の準備を指示した。
「遮断装置を持ってこい!残留ルミナイトエネルギーを遮断する!」
「私、取りに行きます!」ノーラが駆け出す。
カルロも「商人として、物資の運搬を!」と奔走した。
ヴァルブルガが前に出ようとしたが、坑道の天井を見上げて舌打ちした。
「狭すぎて竜化できぬ...!」
ドラーゲンがバロッサの攻撃を影魔法で受け流しながら、余裕のある声で言った。
「坑道が狭くて助かったな。お前のゴーレムも動きが制限される」
「黙れ!」
バロッサの巨大な拳がドラーゲンに迫る。ドラーゲンは影で短距離転移し、軽やかに回避した。
「そんなに私を恨んでいたのか。光栄だな」
「貴様あああ!煽るな!」
バロッサが激昂し、攻撃が激しくなる——しかし完全にドラーゲンに意識が集中している。
フェリシアは気づいた。
(ドラーゲンさん、わざと煽って注意を引いている...!)
ドラーゲンが影の触手でバロッサの足を絡め取る。
「お前の強欲は、一度死んでも治らなかったか。哀れだな」
「ぐぬぬぬ!貴様だけは!貴様だけは許さん!」
バロッサが完全にドラーゲンに執着している。フェリシアとヴァルブルガへの警戒が疎かになっていた。
ドラーゲンがさらに挑発した。
「かつてのお前は狡猾だったが、今は怒りに任せて攻撃するだけか。劣化したな」
「黙れ黙れ黙れ!私は進化した!このルミナイトの体で、貴様を!」
バロッサの体が不安定に明滅し始めた。怒りで制御が乱れている。
トーリンが叫んだ。
「遮断装置が作動した!残留ルミナイトエネルギーの供給を断っています!」
バロッサの動きが鈍くなる。
「な、なんだ...?体が...」
ドラーゲンが冷静に分析した。
「お前の体はルミナイトのエネルギーで維持されている。それを遮断されれば...」
その瞬間、ドラーゲンがフェリシアとヴァルブルガに視線を送った。
(今だ——)
フェリシアはヴァルブルガと目を合わせた。
二人の心が通じ合う。
ドラーゲンさんが隙を作ってくれた。今なら——
「ヴァルちゃん、一緒に」
「分かったのじゃ、お姉さま」
二人が手を繋ぐ。
バリンが驚嘆の声を上げる。
「あれは...」
ドワーフの市民たちが目を見張った。
「まるで本当の姉妹だ」
「こんな絆、見たことがない」
しかし、フェリシアは思い出していた。
以前、ドラーゲンと共にルミナイトゴーレムと戦った時のこと。あの時、ドラーゲンに止められた——「強力な魔法を当てると大爆発する。関節を破壊して機能不全にさせ、コアを抜き取るしかない」と。
(今回も同じ...でも、あの時とは状況が違う)
フェリシアは光の障壁を展開し、落盤から避難する人々を守った。
ヴァルブルガが叫んだ。
「皆、さらに離れるのじゃ!」
バロッサが苦しげに叫ぶ。
「ぐああ...体が...崩れる...!」
鉱石と金属の破片がバラバラと剥がれ落ち始める。青白い光が激しく明滅していた。
ドラーゲンが冷静に分析した。
「遮断装置でエネルギー供給を断たれて不安定になっている。このまま暴走すれば...」
「爆発する、ですね」フェリシアが言った。
「ああ。前回のように関節を破壊してコアを抜けば止められるが...」ドラーゲンが続けた。「暴走し始めた今、物理的に触れるのは危険だ」
バロッサの体が激しく膨張し始めた。青白い光がさらに強くなる。
「時間がない...!」
その言葉を聞いて、フェリシアは決断した。
破壊でもなく、物理的な制御でもなく——
「ヴァルちゃん、私たちで...何かできないかな」
「お姉さま?」
(前回は関節を壊してコアを抜いた。でも今回は、もっと優しい方法で...)
フェリシアとヴァルブルガの手が、さらに強く握られた。
二人の魔力が、自然に共鳴し始めていた。




