第62話 海賊との戦い、姉妹の連携
## 【フェリシア視点】8-2 海賊との戦い、姉妹の連携
警鐘から15分後。港は完全な戦闘態勢に入っていた。
タラッサの海軍艦が次々と港を出て、防衛陣形を組む。甲板に整列した海兵たちが、武器を構えて黒帆の艦隊を迎え撃つ準備をしていた。
フェリシアは港の防衛陣地から、海を見つめていた。
30隻のノルディアのロングシップが波を切って接近してくる。黒い帆には赤い斧のマークが描かれ、甲板には武装した戦士たちがひしめいている。船首には白い髭を蓄えた祈祷師たちが立ち、神々への祈りを唱えているのが見えた。船体が淡い青白い光に包まれている——あれが北の神々の加護か。
「来るぞ!」アストリッドが叫んだ。
最も大きな旗艦から、巨大な男の咆哮が響いた。
「タラッサの犬どもめ!新しい友人ごと海の藻屑にしてやる!」
ラグナル戦団長——その名前は、北海で最も恐れられている海賊だった。
アストリッドが大剣を掲げて応戦した。
「来い、蛮族ども!」
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**【視点切り替え:フェリシア → ヴァルブルガ】**
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ヴァルブルガは竜化していた。
体長15メートルの紅竜が空を舞い、海戦全体を俯瞰している。高度200メートルから見下ろすと、黒帆の船団の動きが手に取るように分かる。
「お姉さま、左翼に隠れ船が3隻じゃ!」
ヴァルブルガが空から警告を発した。フェリシアの声が即座に返ってきた。
「ありがとう!」
フェリシアが光の弓を構える。聖なる光が矢の形を取り、連射で敵船に向かって放たれた。
光の矢が正確に隠れ船のマストを貫き、3隻とも帆が使えなくなる。
「お姉さま、次は右じゃ!」
「了解!そっちは任せる!」
ヴァルブルガが急降下した。竜の爪で敵船のマストを薙ぎ払おうとするが——
ガキィン!
青白い光の障壁が竜の爪を弾いた。神々の加護だ。
「むぅ、硬いのじゃ!」
だが、ヴァルブルガは諦めない。炎のブレスを連続で吐き続ける。加護の光が揺らぎ、祈祷師が苦悶の表情で祈りを強める。
この連携——何度も訓練で磨いてきた、完璧な息の合い方だった。
旗艦の甲板では、ラグナル戦団長が信じられない光景を目の当たりにしていた。
「竜だと!?だが神々の加護がある!恐れるな!」
空を舞う紅竜の攻撃を、祈祷師の加護が防いでいる。そして地上からは光の矢が正確に敵船を狙い撃つが、こちらも加護が防ぐ。
船首の祈祷師が必死に祈りを唱え、神々の加護が船体全体を守っている。
「提督!神々の加護が持ちこたえています!」副官が報告する。
「よし!櫂を出せ!突撃だ!」
ロングシップの側面から一斉に櫂が出され、戦士たちが力強く漕ぎ始める。神々の加護があれば沈まぬ。数で押せば——
しかし、その時さらに恐ろしいことが起こった。
海面が突然暗くなったのだ。
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**【視点切り替え:ヴァルブルガ → ドラーゲン】**
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ドラーゲンは港の岸壁に静かに立っていた。
「海戦は久しぶりだが...神々の加護か。勇者の光も防ぐとは、なかなか強力だ」
そう呟きながら、海面に手を触れる。
影魔法が水中に広がった。海中に巨大な影の触手が展開され、敵船の船底に向かって伸びていく。
「影蝕・船魂侵食」
ドラーゲンの声と共に、魔王の影が神々の加護と激しくぶつかり合った。
青白い光と漆黒の影が火花を散らし、海面が激しく波立つ。
「ぐっ...!」祈祷師たちが血を吐く。魔王の魔力は神々の加護を侵食し始めていた。
5隻の敵船の加護が揺らぎ、船が操舵不能になり始める。だが完全には破れない。
「魔王の力だと!?祈りを強めろ!戦神フェンヴォルフよ、我らに力を!」
祈祷師たちが必死に抵抗する。神々の加護が再び強まり、影の侵食を押し返した。
ドラーゲンは感心したように頷いた。
「ほう...神々の加護も侮れんな」
だが、魔王はそれで終わらなかった。さらに影で巨大な海獣の姿を作り出す。長い触手を持つ、伝説上の怪物の形だ。
「うわああああ!海魔だ!」
ノルディア戦士たちが動揺した。祈祷師が加護を維持しているが、戦士たちの士気が揺らぎ始める。
指揮艦の甲板からアストリッドが驚嘆の声を上げた。
「すごい...魔王の力が神々の加護と拮抗している!」
空のヴァルブルガ、地上のフェリシア、そして海中のドラーゲン。三者が完璧に役割分担して、ノルディア艦隊を圧倒しようとしているが、神々の加護が強固だ。
ベルント士官が緊迫した声で報告した。
「提督!敵は加護に守られて健在です!魔王の魔法でも完全には破れません!」
「神々の加護がこれほどとは...」アストリッドが唸った。
だが、その時——
「よし、畳みかけるぞ!全艦、突撃!」
タラッサ艦隊が一斉に前進を開始した。魔王が敵の加護を削っている今が好機だ。
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**【視点切り替え:ドラーゲン → フェリシア】**
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フェリシアはヴァルブルガと目を合わせた。空と地上、離れていてもお互いの考えが分かる。
神々の加護が魔王の魔法と拮抗している。ならば——
「ヴァルちゃん、一緒に!」
「分かったのじゃ、お姉さま!」
二人が同時に敵旗艦に狙いを定めた。
フェリシアの聖なる光が輝きを増す。ヴァルブルガの竜の炎が渦を巻く。そして——
「せーのっ!」
「じゃああ!」
勇者の光と魔王の炎が、完璧に同期して旗艦を挟撃した。
ドォォォン!
神々の加護が激しく揺らいだ。聖なる光と竜の炎、そして影の侵食——三方向からの同時攻撃に、祈祷師の加護が耐えきれない。
「ぐあああああ!」祈祷師が倒れる。
青白い光の障壁が砕け散り、フェリシアの光の矢が旗艦のマストを貫き、ヴァルブルガの炎が帆を焼き尽くした。
「ば、馬鹿な!神々の加護が...破られた!?」
ラグナルが信じられない表情で叫んだ。
帆とマストを失っても、ロングシップは櫂で漕げる。だが、祈祷師が倒れては神々の加護が失われる。このままでは魔王の影に飲まれてしまう。
「撤退だ!全軍撤退!祈祷師を守れ!」
ラグナルが悔しそうに叫んだ。
「覚えていろ!勇者と魔王が手を組むとは...卑怯な!北の戦神フェンヴォルフの怒りを思い知らせてやる!」
黒帆の艦隊が散り散りに逃走を開始する。櫂を必死に漕ぎ、魔王の影から逃れようとする。タラッサ艦隊が追撃し、加護を失った数隻を拿捕した。
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**【視点切り替え:フェリシア → ヴァルブルガ】**
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ヴァルブルガが人型に戻り、フェリシアの元へ駆け寄った。
「お姉さま、やったのじゃ!」
「ヴァルちゃん、お疲れ様」
二人が自然に抱き合う。戦闘の興奮がまだ冷めやらない中、お互いの無事を確認し合った。
アストリッドが近づいてきて、豪快に笑った。
「素晴らしい戦いぶりだった!タラッサの被害は軽微だ」
「お役に立てて良かったです」フェリシアが微笑んだ。
アストリッドが二人を見回した。
「君たちの連携は...本物だな。あれは一朝一夕でできるものじゃない」
「わらわたちは、ずっと一緒じゃからな」ヴァルブルガが誇らしげに言った。
岸壁では、ドラーゲンが海を眺めながら満足げに微笑んでいた。
二人の成長を見るのは、師匠としての何よりの喜びだった。フェリシアの的確な判断力、ヴァルブルガの信頼に基づいた行動力。そして何より、互いを思いやる心。
「立派になったものだ」
カルロが安堵の表情で近づいてきた。
「ドラーゲン様、本当に助かりました。あの影魔法は...」
「裏方の仕事さ」ドラーゲンが肩をすくめた。「主役は彼女たちだ」
実際、海兵たちは空の紅竜と光の勇者の活躍を讃えて歓声を上げている。影で戦況を左右したドラーゲンの貢献に気づいている者は少ない。
それで良いのだ。ドラーゲンはそう思った。
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**【視点切り替え:ヴァルブルガ → アストリッド】**
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夕暮れ時、港に平和が戻っていた。
アストリッドは修理中の艦を見回りながら、今日の戦いを振り返っていた。
ノルディア戦団を撃退できたのは、使節団の協力があってこそだった。特に、勇者と魔王の完璧な連携は驚異的だった。
「あの二人...」アストリッドが呟く。
ベルント士官が尋ねた。
「何かございますか、提督?」
「あの二人は、本当に別々の国の代表なのか?戦闘中の連携を見る限り、一心同体のようだった」
ベルント士官も同じ疑問を抱いていたようで、頷いた。
「確かに...まるで長年共に戦ってきた仲間のようでした」
アストリッドが頷いた。
「今夜の宴で、もっと彼女たちのことを知りたいな」
海の向こうで太陽が沈み、ポルト・アズールに夜の帳が下りようとしていた。今夜は盛大な勝利の祝宴が開かれることだろう。
そして、アストリッドの心に一つの考えが浮かび始めていた。




