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追放された最強おっさん魔族、女勇者を鍛えていたら国が分裂! 最終課題「魔王にセクハラしてこい」でどうしてこうなった!?  作者: よん


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第60話 すれ違いの連続、東奔西走

## 【千景視点】7-8 すれ違いの連続、東奔西走



使節団が出発して1時間後、昼前。


千景が狐の姿(体長5メートル)でファウレンヘイムの森に駆け込んできた。


「はぁはぁ...ここじゃ!ドラーゲンの匂いが濃い!」


鼻をひくひくさせながら、千景は興奮していた。銀森での方向ミスから数日、ようやく正しい場所に辿り着いたのだ。


静けさを取り戻した森の集落で、獣人の子供たちが千景の姿を見つけて駆け寄ってきた。


「また大きな狐さんだ!」


「前の狐さんとは違うね」


無邪気に近寄る子供たちに、千景は人型に戻った。


「ドラーゲンという男を知らぬか!影魔法を使う不埒者じゃ」


若き狼戦士リコルが振り返った。


「ああ、さっきまでいましたよ。使節団の方ですよね」


その瞬間、千景の狐耳がピンと立った。


「さっき!?どこじゃ、今どこにおる!」


千景の声が裏返った。まさか、またすれ違ったのか。


グウィン老狼が現れて、状況を理解した様子で言った。


「落ち着かれよ。彼らなら1時間前に出発した」


千景が地団駄を踏む。


「また逃げられた!10年追いかけて、いつもこうじゃ!」


リコルが同情した表情で「えーと、どちらへ向かわれたかは聞いているんですが...」と言いかけた。


グウィンが正確に教える。


「次はタラッサへ向かった。北東の港湾都市だ」


千景が疑いの目を向けた。


「本当に北東か?嘘ではないか?」


「なぜ嘘をつく必要が?地図を見せようか?」


グウィンが苦笑いを浮かべながら地図を取り出した。千景は地図を受け取ったが、またしても逆さまに持っている。


「ふむ...北東というのは...」


そして、千景が独自の理論を展開し始めた。


「お主らの言う北東は、本当の北東ではないかもしれぬ」


リコルが首を傾げる。


「え?どういうことですか?」


「東方では、北東と言えば実は南西を指すこともある」


千景が大嘘をついた。実際には、単純に方向音痴なだけなのだが、それを認めたくないのだろう。


リコルが素直に「え?そうなんですか?」と信じそうになる。


グウィンが「いや、それは...」と訂正しようとしたが、千景は既に確信を深めていた。


「わかった!本当は南西じゃな!」


千景が得意げに宣言する。


「今度こそ捕まえてくれる!」


狐の姿に変身して、勢いよく南西へ疾走し始める。


「待て!タラッサは北東...」


グウィンが叫んだが、既に森を出て行ってしまった。


梟の獣人ホーティスが困ったような表情で呟いた。


「あの方は...大丈夫でしょうか?」


グウィンが深いため息をついた。


「ドラーゲン殿も、面倒な相手に追われているようだ」


リコルが純粋な疑問を口にした。


「でもあんなに長く生きてるのに、なんでそんなに方向音痴なんでしょう?」


グウィンが哲学的に答えた。


「長生きと方向感覚は、関係ないということだな」


千景の去った方向を見つめながら、グウィンは考えていた。あの妖狐の執念は並大抵ではない。10年も追いかけ続けているということは、よほど深い事情があるのだろう。しかし、その方向音痴ぶりを見る限り、ドラーゲンと再会できる日は遠そうだった。


「可哀想に」リコルが呟いた。「あれほど長く生きているのに、一人の男性を捕まえられないなんて」


「いや、むしろドラーゲン殿が可哀想かもしれん」グウィンが苦笑した。「永遠に追いかけられ続けるのだからな」


ホーティスが記録用の羊皮紙に何かを書き込んでいる。


「何を書いているんだ?」とグウィン。


「『古の妖狐、再び方角を間違え南西へ向かう』と」


グウィンが笑った。


「それは後世の歴史家が困るぞ」


---


**【視点切り替え:千景 → グウィン】**


---


その頃、千景は森を駆け抜けながら内心で焦っていた。


(今度こそ、今度こそ捕まえるのじゃ)


しかし、方向については全く自信がなかった。何度も道を間違え、何度も見当違いの場所に向かってしまった経験がある。それでも、ドラーゲンを諦めることはできなかった。40年前の約束を果たすまでは、絶対に諦めない。


(南西...いや、やっぱり北東か?いや、南西が正しいはずじゃ)


千景の頭の中で、方角がぐるぐると回っていた。結局、感覚に任せて走り続けることにした。嗅覚だけは間違いない。ドラーゲンの匂いを辿っていけば、いつかは追いつけるはずだ。しかし、風向きや時間の経過で匂いは薄れていく。千景の追跡は、また振り出しに戻ってしまった。


一方、グウィンは一行を見送った後、静かに考えていた。


今日一日で、実に多くの出来事があった。使節団の統合への可能性、そして古の妖狐の珍道中。


「面白い時代になったものだ」


リコルが横に立った。


「グウィン様、本当にお二人は統合するのでしょうか?」


「さあな」グウィンが微笑んだ。「だが、種は確実に蒔かれた。後は時が決めることだ」


ホーティスが記録を閉じながら呟いた。


「今日の記録は、後世の人々が読んだら信じないかもしれませんね」


「勇者と魔王の統合検討と、千年級妖狐の方向音痴か」グウィンが笑った。「確かに荒唐無稽だな」


しかし、それがこの時代の現実だった。


常識を覆す出来事が、次々と起こっている。きっと、まだまだ驚くべきことが待っているだろう。


グウィンは空を見上げた。千景が向かった南西の方角には、何もない荒野が広がっている。彼女が目的地に辿り着くのは、まだまだ先のことになりそうだった。


「ドラーゲン殿には、もうしばらく平穏な時間があるということだな」


その呟きが、風に乗って森に響いた。


40年続く追いかけっこは、今日も決着がつかずに終わった。しかし、それもまた、この世界の魅力の一部なのかもしれない。


森に夕日が差し込み、一日の終わりを告げている。使節団は次の目的地へ向かい、千景は見当違いの方向へ向かい、ファウレンヘイムには再び平和が訪れた。


明日もまた、新しい物語が始まるだろう。

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