第59話 統合の種、自然な発想
## 【フェリシア視点】7-7 統合の種、自然な発想
翌朝、フェリシアとヴァルブルガはグウィンの私邸に招かれた。
大樹の洞の中に設けられた住居は、自然の温かみに満ちていた。木漏れ日が優しく差し込み、森の香りが心地よく漂っている。獣人らしい素朴で実用的な調度品が、落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
「朝茶をどうぞ」
グウィンが自ら淹れてくれた茶は、森の薬草をブレンドした独特の香りがした。体の芯から温まる、優しい味だった。
若き狼戦士リコルも同席し、昨夜の宴について談笑していた。
「昨夜の踊りは見事でしたね」リコルが言った。「特にヴァルブルガ様の炎の舞は美しかった」
「照れるのじゃ」ヴァルブルガが嬉しそうに尻尾を揺らした。
フェリシアも微笑んだ。
「ヴァルちゃんは踊りが上手なのよ。いつも一緒に練習しているの」
「お姉さまの光の舞と合わせると、もっと綺麗になるのじゃ」
その自然な会話を聞きながら、グウィンが茶を一口飲んで静かに口を開いた。
「昨夜考えたのだが...」
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**【視点切り替え:フェリシア → グウィン】**
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グウィンは長年の経験から、二人の関係を観察していた。
外交使節として来た二人だが、その協調性は単なる政治的パートナーシップを遥かに超えている。まるで一心同体のように自然に連携し、お互いを深く思いやっている。
「君たちを見ていると、なぜ二つの国である必要があるのか分からなくなる」
グウィンの言葉に、リコルが素朴に同意した。
「確かに、いつも一緒にいるし」
フェリシアがカップを置いて、真剣に考え込んだ。
「それは...」
確かに、実務上も一緒に決定することが多かった。重要な政策について相談し、お互いの意見を尊重して結論を出す。まるで一つの国の共同統治者のようだった。
グウィンが何気なく、しかし重要な提案を口にした。
「いっそ二つの国を一つにしては?」
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**【視点切り替え:グウィン → ヴァルブルガ】**
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ヴァルブルガの目が輝いた。
お姉さまとずっと一緒に国を治められるなんて、こんなに素敵なことはない。
「フェリシアお姉さまとずっと一緒に国を治められるなら素敵じゃ!」
尻尾が嬉しそうに揺れている。
「朝も夜も、ずっと一緒に相談できる!」
ヴァルブルガにとって、政治的な意味での統合よりも、フェリシアと離れずに済むということの方が重要だった。
カルロが商人の視点で実務的な意見を述べた。
「経済的には確かに効率的です。関税もなくなりますし、共通の通貨制度も導入できます」
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**【視点切り替え:ヴァルブルガ → ドラーゲン】**
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ドラーゲンは現実的な課題を考えていた。
「面白い案だが、時期尚早だ」
その表情は慎重だった。
「両国の民の理解、法制度の統合、権力構造の再編...課題は山積みだ」
確かに、統合は口で言うほど簡単ではない。二つの国の歴史、文化、制度を一つにまとめるには、膨大な準備と時間が必要だった。
しかし、ドラーゲンの内心では、その可能性に興味を抱いていた。
(これは面白いことになりそうだ)
フェリシアとヴァルブルガの絆を見てきた身として、彼女たちなら不可能を可能にするかもしれない。
フェリシアが小さく呟いた。
「でも...不可能ではないわよね?」
その声には、希望が込められていた。
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**【視点切り替え:ドラーゲン → フェリシア】**
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フェリシアは心の奥で、その可能性にときめいていた。
ヴァルブルガと正式に一つの国を治めることができれば、どんなに素晴らしいだろう。お互いの長所を活かし、短所を補い合って、理想の国を作ることができるかもしれない。
「共同統治でしょう?対等なパートナーよ」
ヴァルブルガが「わらわは賛成じゃ!お姉さまが女王で、わらわは...えーと」と言いかけた時、フェリシアが自然に答えた。
その言葉にヴァルブルガの顔が輝いた。
「対等なパートナー!それがいいのじゃ!」
グウィンが満足げに微笑んだ。
「種は蒔かれた。芽吹くかどうかは君たち次第だ」
部屋の隅で、梟の獣人ホーティスが族長会議の書記として、この会話を記録していた。ペンを持つ手が僅かに震えている。
「一応、議事録には...どう記載しましょう?」ホーティスが控えめに尋ねた。
グウィンが慎重に答える。
「非公式な雑談、とでもしておけ。だが、忘れるなよ」
ホーティスは頷いて、記録に「非公式雑談:両国統合の可能性について言及」と記載した。この日の記録が、後の歴史家たちによって「統合への第一歩」として注目されることになるとは、この時はまだ誰も知らなかった。
フェリシアは、リコルが静かに微笑んでいるのに気づいた。若き狼戦士は二人の反応を見て、心から嬉しそうだった。
グウィンが穏やかに語りかけた。
「君たちなら、必ず良い道を見つけるだろう」
その言葉には、長年の経験に裏打ちされた確信があった。
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**【視点切り替え:リコル → ヴァルブルガ】**
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ヴァルブルガは興奮を抑えきれなかった。
フェリシアお姉さまと一緒に国を治める。それも対等なパートナーとして。こんなに素敵な未来があるなんて思ってもみなかった。
「お姉さま、本当にできるかのう?」
フェリシアが優しく手を握ってくれた。
「一緒になら、何でもできるわ」
その確信に満ちた声に、ヴァルブルガの不安は消えた。
ドラーゲンが現実的なアドバイスをした。
「まずは両国の民の反応を見る必要がある。急がず、段階的に進めることが重要だ」
「はい、師匠の言う通りです」フェリシアが頷いた。
しかし、その瞳には既に未来への希望が宿っていた。
グウィンが最後に言った。
「良い種を蒔いた。きっと美しい花が咲くだろう」
朝の木漏れ日が二人を照らす中、新しい時代への第一歩が、静かに踏み出されていた。




