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追放された最強おっさん魔族、女勇者を鍛えていたら国が分裂! 最終課題「魔王にセクハラしてこい」でどうしてこうなった!?  作者: よん


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第57話 千景の銀森襲来、大騒動 の公開

## 【千景視点】7-5 千景の銀森襲来、大騒動



使節団が嘆きの森を去って2時間後、夕暮れ時。


千景は狐耳をピクピクと動かしながら、銀森の結界前に到着した。三本の尻尾が興奮で揺れている。


「西じゃと思ったら北じゃった...まあよい、ドラーゲンはどこじゃ!」


銀色の葉が夕日に輝く神秘的な森を前にして、千景の心は躍っていた。ドラーゲンの匂いが確実に濃くなっている。今度こそ捕まえられるかもしれない。


結界の前に立っていたのは、見慣れた女性エルフの姿だった。シルヴィア国境守備隊長である。


「また短命種か...今度は獣人?」シルヴィアが訝しげに眉をひそめた。


千景は遠慮なく詰め寄った。


「ドラーゲンという影使いを知らぬか!」


「ドラーゲン?」シルヴィアが記憶を辿る。「つい先程、勇者と魔王の使節団に同行していた男なら...」


その瞬間、千景の狐耳がピンと立った。


「やはりおったか!」


興奮のあまり、千景の尻尾が一本、また一本と増えていく。四本、五本、六本...


「どこじゃ!どこにおる!」


しかし千景の興奮は収まらず、遂に本来の姿である巨大な九尾の狐に変身してしまった。体高20メートルの巨大な狐が、結界前に出現する。


「40年も逃げおって!どこじゃ!」


千景の咆哮が銀森全体に響き渡った。鳥たちが一斉に飛び立ち、小動物たちが慌てて隠れる。


---


**【視点切り替え:千景 → エルドリック】**


---


エルドリックは試練を終えて千年樹の広場で休息していた時、その咆哮を聞いた。


「何事だ!千年の静寂を破るとは!」


杖を手に現場へ駆けつけると、そこには見たこともない巨大な九尾の狐がいた。銀色の毛並みに九本の美しい尻尾、しかしその威圧感は並大抵ではない。


エルドリックは杖を構えて対峙した。


「何者だ!この聖域で暴れるとは許さん!」


九尾の狐がゆっくりと人型に戻る。現れたのは美しい女性だったが、その瞳には千年以上の歳月が宿っていた。


「ほう、1200年程度のエルフか。まだ若いのう」


千景の言葉にエルドリックは気色ばんだ。


「私を若いだと?貴様は何者だ」


「わらわは千景じゃ。そうじゃな...千年以上は生きておる。いつからか数えるのをやめた」


その言葉にエルドリックは衝撃を受けた。自分より遥かに古い存在がこの世に存在していたとは。


千景は無造作に続けた。


「昔、東方の交易路でお主の祖父のアランディルに会ったことがある」


「祖父の名を...!」エルドリックの目が見開かれた。


アランディルは銀森の創設者である。祖父がまだ若かりし頃に東方へ旅をしていたのは、少なくとも2000年以上前のことだ。その時代を知る者がこの世にいたとは。


(2000年以上前の記憶を持つ存在......わしより遥かに長く生きておられるのか)


「東方へ修行の旅をしておった若いエルフじゃった。あの頃のエルフは今ほど高慢ではなかったがのう。お主の祖父は茶目っ気があった」


千景が懐かしそうに語る。エルドリックの価値観が大きく揺らぎ始めた。


---


**【視点切り替え:エルドリック → 千景】**


---


千景は感傷に浸っている場合ではないことを思い出した。


鼻をひくひくさせながら周囲の匂いを嗅ぐ。


「それよりドラーゲンじゃ!どこへ行った?」


エルドリックが呆然としながら答えた。


「南東のファウレンヘイムへ...」


千景の目が輝いた。


「南東か!」


千景は勢いよく指を差した。しかし、その方向は明らかに北西だった。


「今度こそ捕まえる!」


エルドリックが慌てて叫ぶ。


「待て!それは逆...」


しかし千景は既に疾走を開始していた。巨大な九尾の狐の姿で森を駆け抜け、北西の方角へ向かっていく。


見送りながらトリスタン賢者が呟いた。


「大公様、あれは一体...」


エルドリックは初めて見せる困惑の表情で答えた。


「私より遥かに古い存在が...東方にいたとは」


1200年の人生で培った誇りが、またしても大きく揺らいでいた。


---


**【視点切り替え:千景 → シルヴィア】**


---


シルヴィアは呆然と千景の去った方向を見つめていた。


先ほどまで目の前にいた存在は、明らかに規格外だった。大公様でさえ困惑するほどの古い存在。


自分の900年という年齢が、急に取るに足らないものに思えてきた。


部下のエルフが震え声で報告してくる。


「隊長、あの方向は...」


「北西ね」シルヴィアが溜息をついた。「全く逆よ」


「追いかけて正してあげるべきでは?」


シルヴィアは首を振った。


「関わらない方が賢明よ。あの方は私たちの常識が通用する相手じゃない」


実際、千景の方向音痴は筋金入りだった。いくら説明しても信じないし、むしろ逆に行ってしまうのが常だった。


「でも、ドラーゲン殿が可哀想ですね」部下が同情した。


「ええ、本当に」シルヴィアが深いため息をついた。


---


**【視点切り替え:シルヴィア → ガラドリエル】**


---


ガラドリエル賢者は古文書の間で千景について調べていた。


「東方の九尾の狐...確かに記録がある」


古い書物には、遥か東方に強大な妖狐が住むという記述があった。しかし、それがこれほど古い存在だとは思わなかった。


メリエル賢者が心配そうに尋ねた。


「大丈夫でしょうか?あのような強大な存在が自由に動き回って」


「案外大丈夫かもしれん」ガラドリエルが微笑んだ。「方向音痴なら、意図しない場所に行き続けるだろう」


「それはそれで問題では?」


「ドラーゲン殿にとっては、むしろ幸いかもしれん。永遠に追いつかれずに済む」


賢者たちの間に、妙な安心感が広がった。最強の妖狐が方向音痴というのは、ある意味で世界の平和に貢献していると言えるかもしれない。


---


**【視点切り替り:ガラドリエル → エルドリック】**


---


エルドリックは一人、千年樹の下で考え込んでいた。


この一日で、自分の価値観は完全に覆された。勇者と魔王の協力、千年の怨念の浄化、そして自分より遥かに古い存在の出現。


(長命であることの意味とは何なのだ)


千景の存在は、エルフの誇りである長命という概念すら相対化してしまった。1200年など、彼女の前では本当に若者に過ぎない。


しかし、それと同時に、年齢ではない別の価値があることも理解し始めていた。


フェリシアとヴァルブルガの絆、ドラーゲンの知恵、そして千景の...方向音痴まで含めた個性。


「時代は変わったのかもしれん」


エルドリックが呟いた言葉は、夕暮れの風に運ばれて銀森全体に響いた。


その頃、千景は既に森の外へ出て、全く見当違いの方向へ向かって疾走していた。40年続く追いかけっこは、まだしばらく続きそうだった。

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