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追放された最強おっさん魔族、女勇者を鍛えていたら国が分裂! 最終課題「魔王にセクハラしてこい」でどうしてこうなった!?  作者: よん


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第20話 英雄気取りの道化師、破滅へと続く喝采

第20話 英雄気取りの道化師、破滅へと続く喝采


ドラーゲンたちが反撃の策を練り上げた翌日から。ラゴマジョレの街では、偽勇者ガスパール・ロレンスの「活躍」が連日話題となっていた。


「はっはっは!見たか、これが真の勇者の力よ!」


街の中央にある『金の麦亭』酒場で、ガスパールの豪快な笑い声が響いていた。筋骨隆々の威圧的な体躯を誇示するように胸を張り、傷だらけの顔に満足げな笑みを浮かべている。


「あの小娘フェリシアとは格が違うのだ!俺様こそが真の勇者なのだからな!」


ガスパールの前には、空になった酒瓶が山のように積まれている。豪遊のツケは既に相当な額に上っているが、「勇者様のお代は後日精算」という名目で、店主は渋々ながら酒を提供し続けている。


「さすがガスパール様!」「真の勇者はお違いになります!」


酒場の客の中に混じったサクラたちが、タイミング良く称賛の声を上げた。


(当然だ。俺の真の力を見せつけているのだからな)


しかし、地元の住民たちの反応は微妙に異なっていた。最初こそ物珍しさで盛り上がったものの、日を追うごとにガスパールの威勢に圧倒されて引いているようだ。


「ガスパール様、勇者たるもの豪胆でなくてはなりませんからね」


ガスパールの隣に座るノワールが、知的ぶった笑みを浮かべながら煽るように言った。黒ずくめの痩身な体型、冷たい印象の顔立ちに浮かぶ皮肉めいた表情。ノワールの自信過剰な態度は、ガスパール以上に周囲の反感を買いつつあった。


「そうだそうだ!民衆は強い指導者を求めているのだ!」


ガスパールは勢いよく立ち上がり、酒場の客たちを見回した。


「貴様ら、感謝するがいい!この俺様が、魔族どもからお前たちを守ってやっているのだからな!」


酒場の空気が微妙に凍りついた。地元の客たちは複雑な表情を浮かべ、視線を逸らしたり、小さくため息をついたりしている。


そんな中、一人の少女が静かに立っていた。セラフィナ。15歳とは思えない儚げな美貌を持ちながら、その瞳は完全に感情を失ったように虚ろだった。セラフィナはただ無表情でガスパールを見つめ、時折小さく頷くだけ。その異様さが、かえって周囲の人々に不気味な印象を与えていた。


一方、ガスパールの隣に座る黒ずくめの痩身な男、ノワールは、この状況を冷静に観察していた。知的ぶった表情を浮かべるノワールは意図的にサクラたちの声にのみ注意を向け、地元住民の微妙な反応は無視していた。


「民衆の熱狂ぶりをご覧ください、ガスパール様」


ノワールは満足げに呟いた。


(自分の知略によってこの状況を完璧に作り出している。すべては俺の計算通りに進んでいるのだ)


「当然だ!俺様の真の実力を見れば、愚民どもでも理解できるというものよ!」


ガスパールの単純な反応に、ノワールは内心で薄笑いを浮かべた。


(実に操りやすい男だ)


その日の午後、『金の麦亭』にみすぼらしい格好をした情報屋風の男が現れた。実はドラーゲンが影魔法で容姿を変化させた変装だったが、自信過剰なノワールはそれに全く気づいていない。


「ノワール様でいらっしゃいますか?」


「ほう、私の名声もずいぶん広まったものだな」


ノワールは得意気に胸を張った。


「実は、とある筋からの情報でして…最近の街の様子を見ていると、少々気になることがありまして」


「何だ?」


ノワールの表情が僅かに引き締まった。


「率直に申し上げますと、ガスパール様への街の印象が…あまり良くないようなのです」


「何だと?」


男は続けて住民の声を説明した。


「街の外では、このような会話が聞こえてきます…『最近のガスパール様って…なんだか…』『ああ。最初は頼もしく見えたんだけどねぇ』『あの黒い服の男も嫌な感じだし、あの聖女様とやらも…なんか怖いのよ』『でも、魔族と戦ってくれてるのは事実でしょう?』『そうなんだけど…でも、フェリシア様の方が好感持てたなぁ』」


男は声を潜めて続けた。


「住民たちの会話は慎重で、声を潜めて行われています。表立ってガスパール様を批判するのは憚られているようですが、違和感や不信感は確実に広がりつつあるようで…」


ノワールの顔色が変わった。


(自分の完璧な計画に疑念を抱かれるなど、考えもしなかった)


「住民たちの間で、『本当にあの方々が勇者なのか』といった疑問の声が…決して大きな声ではありませんが、確実に広がっております」


男は慎重に言葉を選びながら、ノワールの不安を煽った。


「馬鹿な…我々の活躍を見れば、誰でも分かるはずだ」


「確かにその通りです。しかし、民衆というのは愚かなもので、より直接的で分かりやすい証明を求めるのです」


「…で、何か良い案があるというのか?」


ノワールの声には、明らかに焦りが混じっていた。


「はい。街の人々の眼前で、魔族の襲撃を撃退するのです。それも、街そのものを狙った大規模な襲撃を。そうすれば、ガスパール様たちを勇者と疑う者は誰もいなくなるでしょう」


ドラーゲンの提案に、ノワールの目が鋭く光った。自信過剰なノワールにとって、この提案は何の疑問も生まなかった。むしろ、自分の完璧な計画を理解できる者が現れたという満足感すら覚えていた。ノワールの知略への絶対的な自信は、外部の人間がこれほど具体的で危険な提案をしてくることへの警戒心を完全に麻痺させていた。


「なるほど…確かに、街を守る英雄の姿を見せつければ、愚民どもも黙るだろう」


「その通りです。これまでの郊外での活動とは違い、街の住民全員が目撃者となる。決定的な証明になります」


ノワールは深く考え込んだ。そして、ついに決断を下す。


「分かった。その提案、採用させてもらおう。宰相閣下に、街への魔族襲撃を手配してもらう」


ドラーゲンの唇に、見えない微笑が浮かんだ。


「素晴らしい判断です、ノワール様。きっと街の人々は、ガスパール様の真の勇者ぶりに感動することでしょう」


   *   *   *

その夜、ノワールはセラフィナに新たな指示を与えていた。


「明日からは、もっと派手にやるぞ。ガスパール様の登場時に『聖なる光よ、勇者に加護を』、戦闘中には『悪しき者よ、神の裁きを受けよ』、そして勝利の瞬間には『神の栄光をここに』だ」


「はい…」


セラフィナは機械的に答えた。しかし、その虚ろな瞳の奥で、わずかに苦痛の色が浮かんだ。マリーネによる調整が完璧でも、魂の奥底ではまだ何かが抵抗しているのかもしれない。


「いいか、民衆の視線を集めることが重要だ。ガスパール様を最高の英雄に見せるために、お前の役割は不可欠なのだ」


ノワールの声には、人を道具として扱う冷酷さが滲んでいた。自分の完璧な計画に酔いしれるノワールにとって、セラフィナは単なる演出道具でしかない。


   *   *   *

それから数日が過ぎた。


ノワールは、ドラーゲンからの提案を受けて、密かにアンドレアス宰相へと通信魔法による連絡を取っていた。街への魔族襲撃を演出する計画は、周到な準備が必要だったからだ。


宰相からの返事は、三日後の夜に届いた。


「『興味深い提案だ。確かに、街を守る英雄の姿を民衆に見せつける必要がある。傭兵団の手配と移動に一週間を要する。来週の今頃には、ラゴマジョレへの襲撃を開始させよう。勇者フェリシアは別任務で遠方に派遣する手筈を整えた。邪魔は入らぬ』」


ガスパールは、その内容を聞いて満足げに頷いた。


「一週間か…十分な準備期間だな。俺様の真の力を見せつけるには、盛大な舞台が必要だからな」


「その通りです、ガスパール様」


ノワールは計画的に微笑んだ。


「この一週間で、街の人々にガスパール様への期待をさらに高めさせましょう。そうすれば、襲撃を撃退した時の感動もひとしおです」


そしてその間、ガスパールは連日のように街で「小さな魔族退治」の演技を続け、ノワールは住民たちの間で「来週、大きな脅威が迫っている」という噂を巧妙に流布していた。


   *   *   *

約束の日の夕方、ラゴマジョレの街に突然の急報が駆け巡った。


「魔族襲来!街に向かって魔族の精鋭部隊が進軍中!」


街の鐘が鳴り響き、住民たちは恐怖に包まれた。子供たちは泣き出し、大人たちは家に篭もろうとする。


しかし、この絶好のタイミングで、ガスパールが街の中央広場に現れた。


「民よ、恐れるな!」


ガスパールの大音声が広場に響く。ガスパールは大きく手を広げ、民衆の注意を引いた。


「この真の勇者ガスパール様が、貴様ら魔族どもを一匹残らず駆逐してくれるわ!」


その瞬間、セラフィナが詠唱を始めた。


「聖なる光よ、勇者に加護を」


美しい神聖な光がガスパールを包み込む。その神々しさは確かに人々の目を奪った。


続いて、ノワールが用意した煙幕が広場に立ち込める。演出効果は確かに派手で印象的だった。


「見よ!神の加護を受けた真の勇者の姿を!」


煙の中からガスパールが勇ましく姿を現す。その瞬間は確かに英雄的に見えた。


しかし、集まった住民たちの表情は複雑だった。恐怖と不安、そして僅かな期待と、どこか冷めた視線が入り混じっている。


「本当に大丈夫なんでしょうか…」


「派手だけど、なんか…」


「でも、他に頼る人もいないし…」


住民たちの呟きは、決して全幅の信頼を表すものではなかった。しかし、ガスパールとノワールはそんな微妙な空気に気づくことはない。


「行くぞ!魔族どもに真の恐怖を教えてやる!」


ガスパールは意気揚々と街門に向かって歩いていく。ノワールとセラフィナがそれに続く。


多くの住民がガスパールたちの後姿を見送ったが、その表情には手放しの賞賛はなかった。不安と複雑な期待、そして微かな疑念が混じり合った、曖昧な視線だった。


   *   *   *

ラゴマジョレの街門前の広場。しかし、ガスパールたちの前に現れたのは、宰相アンドレアスが約束していた「雇われ傭兵の一団」ではなかった。


夕暮れの薄明かりの中、ただ一人の魔族が静かに立っていた。禍々しい鎧に身を包み、巨大な剣を背負った、圧倒的な威圧感を放つ存在。その姿は、これまで相手にしてきた演技がかった偽物とは明らかに異なっていた。


「おお、これは見事な相手ではないか!」


ガスパールは興奮気味に手を叩いた。


(一人対多数よりも、一騎打ちの方が英雄らしく見える)


「さすがはアンドレアス宰相だ!こういう演出こそ真の勇者に相応しい!」


しかし、ノワールの表情は明らかに困惑していた。ノワールの手には、アンドレアスからの密書がまだ握られている。そこには確かに「魔族の精鋭部隊」と書かれていたはずだ。


(おかしい…話と違う。なぜ一人なのだ?それに、あの威圧感は…)


ノワールは額に冷や汗を浮かべながら、目の前の魔族を見つめた。その存在感は、これまで相手にしてきた演技派の傭兵たちとは次元が違っていた。


しかし、ガスパールたちは知らなかった。


この茶番の背後で、ドラーゲンが密かに手を回していることを。


そして、まもなく起こることが、ガスパールたちの予想を遥かに超えた展開になることを。


「さあ、始めるとしようか」


ガスパールは剣を抜き、不敵に笑った。


(圧倒的勝利と民衆の称賛が待っている)


セラフィナは相変わらず無表情で、ただ静かに戦闘の開始を待っている。


ノワールは自分の完璧な計画に酔いしれながら、ガスパールの「英雄的な活躍」を演出する準備を整えていた。

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