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追放された最強おっさん魔族、女勇者を鍛えていたら国が分裂! 最終課題「魔王にセクハラしてこい」でどうしてこうなった!?  作者: よん


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第19話 影の網、集められる情報と反撃の序章

第19話 影の網、集められる情報と反撃の序章


ガスパールの名が王国に響き渡り始めてから三日が経過していた。ラゴマジョレの街で日増しに強まる「偽勇者ガスパール」への称賛と、それに反比例して囁かれる自身への悪評に、フェリシアは焦りと憤りを隠せずにいた。


フェリシアは先日ドラーゲンから教わった「周囲に溶け込む技術」を実践しながら、中央広場の市場を歩いていた。忍装束事件の反省を活かし、今日は街娘らしい落ち着いた色合いの服装を選んでいる。


「昨日の新聞にも載っていましたね、ガスパール様の活躍」


肉屋の主人が客の婦人に話しかけている。フェリシアは自然な足取りで近づき、商品を眺めるふりをしながら会話に耳を傾けた。


「聖女様も一緒で、それはそれは神々しかったとか。やはり王都から来る方は格が違いますね」


「そうですね…それに比べて…」


婦人の視線が一瞬フェリシアの方に向かいかけたが、すぐに逸らされた。しかし、その意味は明らかだった。


フェリシアの胸に重い不安が広がった。噂は確実に根を張り、フェリシアの立場を蝕み始めている。街の人々の視線や態度の微妙な変化を、フェリシアは敏感に感じ取っていた。


街の外れにある宿屋。フェリシアは重い足取りで階段を上がり、ドラーゲンが滞在している2階の部屋を訪れた。


「師匠…」


フェリシアの声には、これまでにない疲労と焦燥が滲んでいた。


「おや、お嬢ちゃん。顔色が悪いな」


ドラーゲンは茶を淹れながら、フェリシアの様子を見て眉をひそめた。


「最初は半信半疑だった人たちも、教会の説教や新聞の記事を見て、だんだん信じ始めています。私に対する見方も、確実に変わってきています」


フェリシアは椅子に座り込み、深いため息をついた。


「このままでは、本当に私が偽物だと思われてしまいます!何とかしなければ!」


フェリシアの声に焦りが滲んだ。


ドラーゲンの表情が変わった。いつもの飄々とした様子から、冷徹な策略家の顔になる。


「連中の狙いは、お前さんの社会的信用を完全に失墜させることだ。力でねじ伏せても、一度広まった噂はそう簡単には消えん」


ドラーゲンは立ち上がり、窓の外を見つめながら続けた。


「ここは相手の土俵に乗るのではなく、相手の足元を掬う必要がある。それには、確かな情報と巧妙な策が不可欠だ」


フェリシアの表情にわずかに希望の光が戻った。


「でも、どこから始めれば…?」


「安心しろ。私たちには頼りになる仲間がいる」


ドラーゲンは机の上の便箋を取り、素早く何かを書き始めた。


「カルロとアルマン伯爵に便りを送る。彼らなら、この手の情報戦には慣れているからな」


その日の夕刻。ラゴマジョレの商店街にある「ヴェンティ商会」の奥の部屋に、四人が集まっていた。


「ドラーゲンの旦那、お久しぶりで」


カルロ・ヴェンティは相変わらずの人懐っこい笑顔で迎えた。隣には、質素な商人の服装に身を包んだアルマン伯爵の姿もある。


「こんな格好で失礼いたします」


アルマン伯爵は苦笑いを浮かべながら頭を下げた。


「貴族の正装では目立ちすぎますからね。ヴェンティ商会との商談ということで来させていただきました」


ドラーゲンは二人に軽く頭を下げると、本題に入った。


「実は、至急頼みたいことがある。例の『偽勇者ガスパール』の件だ」


カルロとアルマンの表情が同時に引き締まった。


「やはり、あの噂は…」


「ああ、間違いなく仕組まれたものだ。アンドレアス宰相の仕業だろう」


ドラーゲンは簡潔に状況を説明し、それぞれに具体的な依頼を告げた。


「カルロ、お前には商人の情報網を使って、この噂の広まり方を調べてもらいたい。特に、誰がどのタイミングでこの情報を流しているか。資金の流れも追えるなら頼む」


「承知いたしました。商売仲間には顔が利きますからね」


カルロは力強く頷いた。


「アルマン伯爵、あなたには貴族社会からのアプローチをお願いしたい。アンドレアス宰相の最近の動向、そして可能なら『偽勇者計画』の証拠となるような情報を」


「…危険な依頼ですね」


アルマン伯爵は眉をひそめ、慎重に検討した。しばらく沈黙が続いた後、ゆっくりと口を開いた。


「リスクは高いですが、このまま放置すれば被害はより甚大になるでしょう。やらせていただきます。ただし、慎重に進めさせていただく」


ドラーゲンは満足そうに頷くと、最後にフェリシアの方を向いた。


「そして、お嬢ちゃん。お前さんには最も重要で危険な任務を頼む」


フェリシアの背筋が伸びる。


「お前さん自身も、ただ待っているだけでは芸がない。先日教えた『忍びの術』、早速実践してみるか」


その夜。月明かりもない暗闇の中、フェリシアは街の宿屋街に潜んでいた。


今度は忍装束ではなく、夜でも目立たない暗い色の普通の服装を選んでいる。「王都からの使者」が滞在する宿屋の裏手に回り、慎重に建物の影に身を潜める。先日ドラーゲンに教わった隠密技術を実践していたが、まだ完全ではない。


(気配を消して…呼吸を浅く…先日教わった光の魔法で影を作って…)


フェリシアは先日の訓練を思い出しながら、慎重に宿屋の周りを探った。幸い、彼らは民間人を装った宿屋に滞在しており、厳重な警備は敷いていなかった。それでも、フェリシアは一階の窓から漏れる会話を聞き取るのが精一杯だった。


中から漏れ聞こえる会話に、フェリシアは息を呑んだ。


「明日、ソレント村での件はどうだ?」


低く抑えた男の声。ノワールのようだった。


「問題ない。例の連中への手配は済んでいる」


ガスパールの声も、普段より小さく抑えられている。


フェリシアは緊張した。断片的だが、明らかに何かの計画について話している。


「セラフィナは?」


「…『聖なる光よ』で…詠唱…」


途切れ途切れに聞こえる少女の声。機械的で感情がこもっていない。


「キーワード通りに…余計なことは…」


会話の詳細は聞き取れなかったが、何らかの指示と確認が行われているのは明らかだった。フェリシアは慎重に位置を変え、より多くの情報を得ようとした。


翌日、フェリシアはソレント村まで移動し、ガスパールたちの「魔族討伐」を遠くから観察した。相手は明らかに手を抜いている雇われた傭兵たち。ガスパールの実力も、思っていたほど高くはないようだった。


ノワールの術は派手な演出効果はあるが、実質的な威力は疑わしい。むしろ見た目を重視した演出のための魔法のようだった。


セラフィナは特定のキーワードに反応して機械的に魔法を発動するが、想定外の状況への対応は全く出来ない。フェリシアは彼女の行動が極めてパターン化されていることを観察していた。


(これなら…対策は立てられるかもしれない)


フェリシアは重要な情報を得た手応えを感じていた。


二日後、カルロとアルマン伯爵からも慎重に集めた重要な知見が届いた。


カルロは商人の人脈を駆使し、噂の伝播ルートと不自然な資金の流れを発見。組織的に行われている宣伝活動の一端を明らかにした。


アルマン伯爵は貴族社会から、宮廷内部での不穏な動きについての証言を慎重に収集していた。


そして、調査開始から五日後。宿屋の2階、ドラーゲンの部屋に、カルロ、アルマン伯爵、そしてフェリシアが再び集まった。


「さて、皆の調査結果を聞こう」


ドラーゲンは三人を見回しながら言った。


「まずはカルロから」


「はい。噂の伝播ルートと不自然な資金の流れを発見しました。明らかに組織的な宣伝活動が行われています」


「アルマン伯爵はどうだ?」


「宮廷内部での不穏な動きについて、いくつかの証言を慎重に収集できました。しかし、決定的な証拠はまだ…」


「そして、お嬢ちゃん」


「ガスパールたちの『魔族討伐』には不自然な点が多々ありました。ノワールの術は見た目重視で実質的威力に疑問があり、セラフィナは特定のキーワードに機械的に反応するだけのようです」


フェリシアの報告は、最も具体的で戦術的価値の高い知見だった。


ドラーゲンは全ての情報を聞き終えると、満足そうに頷いた。


「なるほど…これで敵の正体と弱点の一端が見えてきたな」


ドラーゲンは立ち上がり、窓の外を見つめながら続けた。


「アンドレアス宰相は政治と資金で世論操作を行い、ガスパールは純粋に自分が勇者だと信じ込んでいる、セラフィナは特定のキーワードに反応する人形、ノワールは見た目重視で実質が伴わない演出家…」


フェリシアが口を挟んだ。


「師匠、率直に申し上げますと、この3人が束になったとしても、ザガトほどの戦闘力はないと思います。私が森で戦ったザガトは、『不敗の軍団長』と呼ばれていた伝説的な武人でした。数多の戦場で名を轟かせた、あの手強い敵に比べれば…」


ドラーゲンは興味深そうに頷いた。


「ほう、それは興味深い観察だ。確かに、ザガトは魔王軍でも指折りの歴戦の猛者。その武勇伝は魔王領のみならず、王国内でも恐れられていた。それに比べて連中は…」


ドラーゲンの口元に、いつもの飄々とした笑みが戻ってきた。しかし、その奥には確実な勝算を掴んだ者の余裕が宿っている。


「さて、お嬢ちゃん。役者は揃い、奴らの弱点も見えてきた。そろそろ、ガスパール君を華々しく『貶める』ための芝居の脚本を書き始めるとしようか」


フェリシアは背筋を伸ばし、決意を固めた。


「はい!今度は、こちらから仕掛ける番ですね」


フェリシアの瞳に、これまでにない強い光が宿っていた。受け身で耐えるだけの戦いは終わった。今度は、影から敵を追い詰める新たな戦いの始まりだった。


ドラーゲンは協力者に向き直ると、深く頭を下げた。


「カルロ、アルマン伯爵、今回は危険を冒して協力してくれて感謝している。おかげで、完璧な反撃の準備が整った」


「何を仰います。これからが本番でしょう?」


カルロが人懐っこい笑顔を浮かべる。


「私たちも最後まで協力させていただきます」


アルマン伯爵も力強く頷いた。


夜が更けていく中、四人は具体的な反撃計画の検討を始めた。情報収集の段階は終わり、いよいよ実行の時が近づいている。


偽勇者の罠を仕掛けた者たちは、まだ自分たちが逆に罠にかけられようとしていることに気づいていない。ドラーゲンが仕掛ける「影の網」は、確実に獲物を捕らえる準備を整えていた。

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