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一人で生き残るつもりだった。死に戻って最強の離島シェルターを築いたら、仲間と未来を作ることになった。  作者: 雪凪
第1回本土進出編

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3-11 帰島

 本土拠点での6日目の朝。今日は嶺守島へ帰る日だ。

 砂浜から出港できる今日の満潮時間は13時40分。

 それまでに、本土拠点の最終確認を済ませなければならない。


「神崎君、本土拠点をまた留守にする間、設備の管理はどうすんだ?」


 工場エリアの機械の点検をしながら、田村さんが聞いてくる。


「アリスに計算してもらって、火山灰スイーパーと監視ドローンは動かしっぱなしにできるように、全体の省電力設定を調整してもらいました。島からこの本土拠点のほとんどの装置を操作できるようになったので、燃料が減ってきたら停止することもできます。俺の物質化で燃料を60kL補給できたし3か月くらいは問題ないはずです」


「そりゃ便利だ。次は何週間後になるかわかんねぇしな」


「田村さん、結局、工場の機械は使う時間なかったね~高性能サプレッサー欲しかったなぁ」


 陽菜乃ちゃんが言う通り、昼間はコミュニティ周りをし、夜は対策会議などをしていたため、今回はあまり本土拠点の施設を使う時間が無かったのだ。


「この金属溶解炉なんて、立ち上げに3日はかかるんだ。今回は軽い調整だけだったな」


 田村さんが大型の炉を確認している。


「大型乾燥炉も同様ですね。次に来た時、すぐに使えるようにするには……」


 レオさんが操作盤を見ながら考え込む。


「この旋盤の原点設定、また最初からやり直すのは面倒だ。データを保存しておくか」


「この精密加工機も、ゼロ点出しに時間がかかりそうです。設定値を記録しておけば、次回の時間短縮になるでしょう」


 陽菜乃ちゃんが二人の手伝いをしながら、タブレットに記録していく。


「機械の型番と設定値、全部撮影しとくね~」


 今回は、機械の調整だけで終わってしまった。本格稼働は、やはり俺たちの拠点をここに移してからになるのだろう。島の工房レベルの機械に比べて、やはりここの本格的な町工場レベルの機械はスイッチを押せば即使用可能とはいかなかった。


 続けて、レオさんが遠隔で桐島博士の指示を聞きながら、医療系の施設内の設備を動かしてみたり在庫の確認をしたりしている。


 俺も各エリアの発電設備、水処理設備、空調システムの状態を確認する。全て正常だ。




 みんなで早めの昼食をとっていた時、レオさんが少し控えめに提案する。


「皆さん、島に戻る前に、もう一度この施設を回りませんか?」


「どうした。なんかやり残しがあったか?」


 田村さんが聞く。


「私は、今後、物質化能力のルールが変更される可能性があると考えています。もしかすると、新しく物質化できるものが増えるかもしれません」


「え? でも、もう物質化の選択は終わったんじゃ……増えるのは容量だけですよね?」


 俺が疑問を口にすると、レオさんが穏やかに説明する。


「ですが、神崎君の前世の記憶と違うことも起こっていますよね? 魔物討伐でのポイント獲得や容量増加も、前世にはなかったルールでした。ということは、まだ他にもルール変更があるかもしれません」


「うーん、確かに。そもそもの大災害の発生日から前世とは変わっています。ルール変更が無いとは言い切れませんね」


「なので念のために、できるだけ様々な設備や部品に触れておくのもいいのではないかと」


「なるほどな。備えておいて損はねぇな」


 田村さんが納得する。


「えぇ~夢があるね! 私、自分専用の大容量サーバーとか、軍用通信機器とか欲しいんだよ! あ、電動キックボードもいいなぁ~、気軽に移動できるし」


 陽菜乃ちゃんが目を輝かせる。


「陽菜乃ちゃん、ここの倉庫にある電動キックボードを持って帰ってもいいよ? 200台は備蓄してたはずだから」


「ん-、今はいいかな。莉子ちゃんと悠真君には、まだ危ないし。ってか、200台ってさすが神崎さんだね~あはは」


「では、時間もありますし、できるだけたくさんの物に触れておきましょう」


 レオさんの提案に、全員が賛成した。


 俺たちは本土拠点内を回り、できるだけ多くの設備や物資に触れていく。

 確かに、今後、どんなルール変更があるかわからない。自分の大分類に限らず、できるだけ多くの物に触れるようにした。こういった地道な備えも、また大切なことだろう。


「よし、これで準備は完了だ。島に戻るぞ」


 田村さんの号令で、4WD車に乗り込み、俺たちは本土拠点を後にした。






 来た時と逆の作業をして、砂浜から出港して30分。

 嶺守島に近づくにつれて、懐かしい島全体の姿が見えてきた。


 俺はクルーザーのブリッジから島を見渡しながら、ホッと息を吐いた。

 火山灰スイーパーが今日も自動で巡回し、フレコンバッグの山がスイーパー充電器基地の近くに整然と積まれている。風力発電機が規則正しく回転し、太陽光パネルにあいかわらずの曇り空が映っている。監視ドローンが定期巡回ルートを飛んでいるのも見える。

 島は変わりなく、今日も平和なようだ。


「6日間、警戒レベル1の警報もなくてよかったよ。それにしても、火山灰の袋が貯まってんなぁ。すぐに片付けるか」


 田村さんも、本土にいる時よりリラックスした笑顔だ。


「ほら、かわいいお出迎えが待っているようですよ」


 レオさんが、港のクリートに結ぶロープの準備をしながら、手を振っていた。




 クルーザーが港に接岸すると、莉子ちゃんと悠真君が手を振りながら駆け寄ってきた。


「おかえりー!」


「おかえりなさい~!」


 莉子ちゃんと悠真君の元気な声が響く。その後ろから、桐島博士が穏やかな笑顔で歩いてくる。


「ただいま~! 会いたかったよ~!」


 陽菜乃ちゃんがクルーザーから飛び降りて、双子を抱きしめる。


「おかえりなさい。無事で何よりです」


 桐島博士が俺たちに微笑みかける。


「ただいま戻りました。博士、島に異常はありませんでしたか?」


「ええ、アリスが全て管理してくれていました。子供たちも、私も、とても静かな6日間でした」


 田村さんが双子の頭を撫でる。


「莉子ちゃん、悠真君、いい子にしてたか?」


「うん! ママのお手伝いしたよ!」


「僕も算数の勉強したんだよ~」


「ねぇ、お土産は? お土産は?」


 莉子ちゃんが目をキラキラさせて聞いてくる。


「もちろんあるよ~! 後でね」


「僕の方が、算数プリントいっぱいやったんだから、お土産もいっぱいもらう~!」


「私の方がママのお手伝いをいっぱいしたもん。悠真のパンツだって私が洗濯したんだからね!」


「洗濯って、洗濯機に入れてスイッチ押しただけでしょ!」


「洗剤も入れましたー! 柔軟剤も入れましたー!」


 懐かしい二人のじゃれ合いを聞いて、みんなは声を上げて笑った。

 6日ぶりの島は、変わらず温かい場所だった。本土での緊張が、島に帰るとスッと溶けていく。


「さて、荷物を降ろしたら、各自の作業だな」


 田村さんは、すぐに作業に取り掛かりたいようだ。確かに、日が暮れる前に、できることはやっておきたい。


「俺は、火山灰が入ったフレコンバッグを廃棄に行く。127袋も貯まっているようだ。今日中に片付けたいからな」


「俺もインフラ施設と温室を確認をしてきます。6日間のログをチェックして、異常がないか見ておきたいので。ついでに水質の検査もしてきますよ」


 俺もやるべきことを宣言する。


「私は桐島博士と、本土で採取したサンプルの予備分析を始めます」


 レオさんが小型クーラーボックスを抱えて言う。

 桐島博士は、さっきからレオさんのクーラーボックスに手を伸ばしかけては引っ込めてと繰り返していて、ちょっと面白い。


「そうですね! 小学校で採取したサンプル、すぐに始めましょう」


 桐島博士が、はずんだ声を上げる。いつも冷静で理性的な博士が、こんなに目をキラキラさせているのは、本当に珍しい。レオさんが博士に連れられて、早足で事務棟奥の医療棟へ向かっていった。


「博士、あんなに興奮するなんて珍しいですね」


「掲示板で世界各地のサンプルデータは見ていたはずだから、比較したいのかもしれねぇな」


 田村さんと俺は顔を見合わせて苦笑する。


「陽菜乃ちゃん、二人を頼みますね」


「はーい! 莉子ちゃん、悠真君、お土産見せてあげるよ~!」


 陽菜乃ちゃんが双子を連れて、ラウンジへ向かった。


「本屋で面白そうなものを買ってきたんだ~! 付録付きの月刊誌とー、間違い探しの本とー、恐竜を作る工作キットとー」


「わぁ~! その本の付録、いっつも面白いんだよ~」


「恐竜を作れるの? 僕、大好きなんだ~!!」


 双子の嬉しそうなはしゃいだ声が遠ざかっていく。


 俺は1階の管理室へ向かい、インフラの確認作業を始めた。発電システム、上水システム、下水処理システム、通信システム……全て正常だ。ログを確認すると、小さなトラブルはアリスが調整してくれていた。陽菜乃ちゃんが作ったAIは、本当に優秀だ。

 さらに、本土拠点と連携した設備の確認をする。ちゃんと島から監視カメラの角度やズームを操作できるようになっていたし、燃料の残量も確認できるようになっていた。これで、本土へ渡る今後の日程も、慌てずに決められるだろう。


「島も本土拠点も問題なし、か」


 俺は安堵のため息をついた。






「さて、本土訪問の振り返りをしましょうか」


 俺たちが帰ってきてから、ずっとはしゃいでいた双子は、7人で賑やかに夕食を食べた後、部屋に戻ってすぐに寝てしまったそうだ。

 久しぶりに5人で大会議室に集まり、レオさんのコーヒーを飲みながら会議を始める。


「それぞれのコミュニティから学んだことを踏まえて、今後の支援方針を決めたいと思います」


 壁のディスプレイには、それぞれのコミュニティの動画や、データのグラフが映されている。


 ──老人ホーム

 ──小学校

 ──天露里あまつゆのさと



「俺の考える基本方針は、『最低限の物資、最大限の情報』です。物資をバラまくんじゃなくて、自立を支援したいと考えています」


「賛成だ。食料を大量に支援してしまうと、せっかく始めようとしていた畑の野菜作りをやめてしまうかもしれねぇ。あの小学校に農具や種を支援したのは、正解だったよ」


 田村さんの言葉に、レオさんも頷く。


「えぇ、人間は案外と逞しい生き物だと感じました。老人ホームは電気が使えなくても、楽しそうに暮らしてらっしゃいましたよね。必要なものが無くても工夫で乗り越えたり、潔く諦めたりする知恵を持っています。そこを潰すような真似はしたくありませんね」


「小学校の女性たちはお風呂に入りたいって言っててさ、その気持ちはめっちゃわかるんだ~。でもさ、神崎さんの備蓄にある軍用の野外入浴セットや大型テントを1つのコミュニティだけに渡すのは違うかなって思っちゃったよ」


「木で簡単な枠を作ってブルーシートを利用したら簡易な風呂なんかすぐに作れるぜ。今度、顔を出す時にそういった情報を教えてあげるといいかもな」


 それなら、そういった情報を配布するのもいいかもしれない。俺はすぐに提案した。


「そういった情報を集めた小冊子を作りましょうか。植物油と灰汁あくで石鹸を作る方法とか、雨水を貯めて飲み水にする方法とか、掲示板で人気の情報を集めたら便利ですね」


「ありだよ! 今はググることもできないし、情報って一番価値があるんだよね~!」


 陽菜乃ちゃんが少し声を落として続ける。


「実はさ、ダークウェブの一部が生き残ってるの。衛星通信できる人たちだけが集まってる秘密の情報交換所みたいになってるんだよ。そこでは情報が通貨なんだよ。東欧の武器庫情報と北米のソーラー施設の位置情報が交換されてたりとかね。まぁ、日本の情報はほとんど出てないけどさ」


「ダークウェブ……」


 田村さんの眉間にしわが寄る。


「ロムってるだけだよ~! 私は一切、書込みしてないからね」


 陽菜乃ちゃんの言葉に、田村さんがため息をついた。


「だが、そこで武装勢力の情報も手に入るなら、見張っておくべきだろうな。神崎君の前世の記憶では、この辺にも現れたんだよな? 今後、対人戦の準備も必要になるかもしれねぇ」


「対人戦……ですか」


 桐島博士が少し不安そうな表情を見せる。


「魔物との戦いとは、また違う覚悟が必要になりますね」


 レオさんが静かに言う。

 俺も気になったことを話した。


「俺は、子供の疎開計画を、できるだけ早く開始したいと思っています。小学校でも天露里でも子供たちをどうにかしたいという意見を聞きました」


 全員が真剣な表情で俺を見つめる。

 桐島博士が手を上げて、静かに発言を始めた。


「私も賛成です。カメラを通して見た子供たちの表情は、やはり不安や怯えがうかがえました。逆境的養育体験を幼少期に受けた子どもは、成人してから不安障害やうつ病、PTSDなどを発症するリスクが高まる、という大規模メタアナリシスの報告があります。子供たちには、出来るだけ早く、心身ともに安心できる環境を与えてあげたいです」


 博士の気持ちはよくわかる。小学校でみかけた子供たちの笑顔は、さっきの莉子ちゃんや悠真君の笑顔と比べると、やはりどこか控えめだったと思う。


「ですが、場合によっては、親と引き離してこの島に連れてくることがストレスになる可能性もあります。集団生活が向かない子もいますし、その辺の判断が難しいですね」


「俺たちが、今すぐできることは、いつでも受け入れられるように島内の準備を進めることだな。まだ、この島に教育者として来てくれる大人も決まってねぇんだ」


 確かに、教育のことを何もわかっていない俺が、気持ちだけ焦って疎開計画を作ってもうまくいかないだろう。教育は、国によってスタンスが違うから掲示板サイトで相談するのも難しい。そもそも、元の日本の教育制度を復活させても、今の世の中では無駄な部分も多そうだ。やはり経験豊富な教育者に相談しながら決めたいところではある。


 俺が今できること。

 施設や備蓄を見直して、島に収容できる人数と期間を計算すること。

 事務棟の備蓄に子供向けの品を増やすこと。

 そういった地道な準備から始めるしかない。




「もう23時になりますよ。とにかく、今日はゆっくり休んで、明日からまた頑張りましょう」


 レオさんが声をかけると、みんなハッとして顔を上げた。

 周りが目に入らないくらい集中していたので、みんな照れ笑いをしている。


 田村さんは対人戦闘のプログラムを考えているのか、急に立ち上がって構えをとり、コーヒーをこぼしそうになって慌てていた。


 陽菜乃ちゃんは何か新しい装置を思いついたようで、「チィちゃんには負けない……」と呟きながら猛烈な勢いでキーボードを叩いていた。


 桐島博士は、掲示板サイトの魔物ウイルス情報を精査しているようで、目は画面を見たまま手は凄まじい速度でメモをとっていた。まばたきをしないのが怖かった。


 レオさんは、タブレット3台とノートPC2台を並べて、優雅に色々な情報を集めていた。さっき『過疎地における教育機会のケーススタディ』というレポートが送られてきた。俺がアリスに頼んで調べてもらった情報より詳しくて、情報源はあいかわらず謎だ。




 みんなが、それぞれにできることを頑張っている。

 やるべきことは山積みだ。

 でも、準備と仲間がいれば、どんな困難も乗り越えられる。俺はそう信じている。



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