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一人で生き残るつもりだった。死に戻って最強の離島シェルターを築いたら、仲間と未来を作ることになった。  作者: 雪凪
第1回本土進出編

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3-1 雨の日の警報

 大災害から1か月半。虹色の小型魔物の超レア種を倒した次の日。

 俺は窓を開けて外を見ると、今日はいつにも増してどんよりとした灰色の雲が低く垂れ込めていた。

 火山灰で霞む空から、ポツポツと雨が降り始める。ガラスを叩く音が、久しぶりのまとまった雨の訪れを告げていた。




 朝の定例会議で、俺たちは会議室のディスプレイに映し出された気象データを見ていた。陽菜乃ちゃんがハッキングした気象衛星のデータをAIアリスが解析し、離島周辺のローカルな天気予報を映し出している。特に分刻みで雨雲の動きがわかるのは便利だ。

 今、この世界で天気予報を活用できるのは、俺たちだけだろう。あらゆる電子データを集めたサーバー、そこで成長させているAIアリス、陽菜乃ちゃんのハッキング技術があってのことだ。




「今日は一日中雨が続きそうです。災害後に、これだけ降るのは初めてですね」


 朝から爽やかイケメンなレオさんが、みんなにコーヒーを配りながら話す。


「火山灰の影響で今年は冷夏になるだろうな。地球全体の温度バランスが変わったせいか、まだ台風も発生してねぇのは助かるが」


 今日も朝イチで凄まじい筋トレをしていた田村さんが、コーヒーを飲みながら言う。


「でもこの雨、酸性雨だよ? 火山灰とか、崩壊した工場から出た化学物質とか、全部混ざってるんだよね~」


 AIアリスを駆使する陽菜乃ちゃんがタブレットで確認したデータを映し出す。pH値は4.2。かなりの酸性だ。


「今日は事務棟から一歩も出ないようにしなさいね。トマトジュースくらい酸っぱい雨なのよ」


 桐島博士が子供たちに向かってわかりやすい説明をしている。


「えぇ~、つまんない~。傘さしてもダメなの~?」


 いつも元気な莉子ちゃんがぷーっと頬を膨らませる。


「雨の音、好きなのに~トマトはいらないけど」


 マイペースな悠真君も残念そうだ。


「この雨は酸っぱいだけじゃなくて、砂やガラスの小さなとげが混じってるんだ。外に出たらチクチクして危ないぞ? 我慢したら今度はライフルのVR訓練をさせてやるよ」


「「わーい! 我慢する~」」


 二人は、会議室から出て行った。アリス先生とお勉強の時間だ。




「酸性雨は金属にも、植物にも有害ですね。あまり続くようだと問題です」


 顔をしかめるレオさんに、俺が説明する。


「この島の施設は塩害対策と酸性雨対策はバッチリです。すべてのRC構造物には撥水コーティングを施してあります。アンテナや金属シャッターなど、外部に露出している金属部分は全て耐食塗料を使っています」


「へぇ、神崎君は本当に準備がいいな」


 田村さんが感心したように頷く。


「水は深層地下水だから大丈夫だとは思いますが、雨が止んだら汲み上げ施設に水質検査に行ってきますね。建設重機やスイーパーは、全部、昨日のうちに膜テント倉庫に片付けてあります。天気がわかるのは助かりますね」


「陽菜乃ちゃんの気象衛星解析のおかげだよ」


「えへへ、でも完璧じゃないけどね。雲の動きは読めても、局地的な変化までは難しいんだ~」


 陽菜乃ちゃんが謙遜する。

 桐島博士が、掲示板の書き込みを見て、心配そうな表情を浮かべる。


「うちは温室だから大丈夫ですが、土壌を酸性化して農地をダメにするという報告が各地から上がっていますね」


「サツマイモなんかは酸性土壌でも強いらしいが」


「でも、種芋を届ける方法がないですよね」


 田村さんの言葉に、レオさんが現実的な問題点を指摘する。これからの世界で、農業の取り組みは世界的な課題になるだろう。






 その後、陽菜乃ちゃんが衛星写真の解析結果を発表した。気象衛星データと商用高解像度衛星データを組み合わせて、曇天が続く中でも、わずかな雲の切れ目や赤外線データから、アリスが詳細な地表の状態を解析したものだ。


「じゃーん! 大災害のビフォーアフターの比較写真ができたよ~」


 ディスプレイに日本地図が映し出される。


「これが津波直後の関東の衛星写真」


 陽菜乃ちゃんが画面を拡大する。


「隕石は東京湾の入り口近くに落ちたみたいね。川を遡上して、内陸50kmくらいまで津波が到達してる」


 画面には、茶色い泥水に覆われた関東平野が広がっていた。


「ひどいとしか言いようがないな......」


 田村さんが顔をしかめる。


「こっちが次の日の水が引いた後」


 次の画像に切り替わる。あちこちの拡大画像が並んでいる。


「都心の高層ビルの上階は残ったみたい。だけど、津波に呑まれた高さは全部、外壁やガラスが無くなって鉄骨だけになってる」


「ビルの屋上にSOSの文字が見えるな。かなりの精度の画像だ」


「この辺が渋谷ですか?」


 俺が画面を指差す。


「元が谷底の地形だから、水が全く引いてないみたい。完全に泥水の中に水没してる」


「スカイツリーは、外装部は剥がれてるけど芯は残ってるんだな」


 田村さんが、建設関係者らしく興味深そうに建物を見つめる。


「直後のデータを見ると、国会議事堂から霞が関にかけても、市ヶ谷の防衛省も、全て完全に水没していますね。やはり、政府関係者はほぼ残っていないでしょう」


 レオさんの指摘に、一瞬、重い沈黙が流れる。


「この次の日の写真だと、千葉や川崎の湾岸部が特に燃えているな。石油コンビナートのあたりってことか」


 田村さんが別の場所を指差す。


「それでいったら、この嶺守島だって少しズレてたらヤバかったみたいだよ~。福井と新潟の石油基地は今も燃えてるもん。海にも流出してそう!」


 俺は一瞬、冷や汗をかいた。津波や魔物のことを考えてこの島を選択したが、前世で石油基地や原発のことは噂になっていなかったため、完全にリスクを見落としていた。結果的に問題なさそうだが、これからはもっと慎重に行動しなければならないと気持ちを引き締めた。





「原発はどうなんだ? 福井に多いだろう」


 田村さんが心配そうに聞く。


「うーん、言っても信じないと思うけど......」


 何故か、陽菜乃ちゃんが困った顔をする。


「やはり、爆発したのか?」


「これ、見て......」


 新しい画像が表示される。世界地図上に赤い点が無数に打たれていた。別の画像には、底が見えないほど深い大きな穴がポッカリと開き、周囲にいくつかの施設が取り残されている非現実的な景色が映っていた。


「世界中の稼働原発があった場所は、全部、深い穴が開いて原発が消えてるの」


「これ、直径1km近くありそうだな......マジかよ」


 田村さんが驚愕する。


「でもさ~、この国のここの穴が謎なんだよね。火力発電所のはずなんだけど」


 陽菜乃ちゃんが中東のある地点を指す。


「あー、そこは核兵器製造施設かもって噂されてたとこだな」


 田村さんが説明する。


「黒い穴があるってことは、本当だったってことか。つまり、深刻な放射能汚染が起こりうる施設が穴に吸い込まれた感じかもしれねぇな」


「大国のあちこちにありそうですね。災害前なら、この情報だけで世界中が大震撼だったはずですよ」


 レオさんが画面を見ながら言う。


「いったい、何の意思が働いているんだ? ありえない災害で、狙いすましたように世界中の大都市が消滅したんだ。たくさんの人類を殺しておいて、放射能汚染からは守られただと? まるで何者かに遊ばれているかのようだぜ」


 田村さんが、両手を強く握りしめている。


「考えても答えはでないけどね~。アナウンスで『全人類ヨ』って語りかけてるんだから、人類以外じゃないかって意見が掲示板に出てたよ」


「まぁ、人間を対象にしてるよな。動物は物質化能力を持ってねぇみたいだし」


「生かさず殺さずじゃないけど、数は減らすけど絶滅はしないようにって感じですね」


 俺も同意する。作為性は最初から強く感じていた。


「宇宙人の実験場って意見があったけど、そんな感じなのかもしれませんね」


「何十もの隕石を落として、地形崩壊させる力がある宇宙人に勝てるとは思えねぇよ」


 レオさんが苦笑いしながら話す言葉に、田村さんがボソッと呟いた。




「じゃあ、続きね!」


 画面が切り替わり、日本の詳細地図が表示される。


「えーっと、ここがフォッサマグナの大裂開だね」


 陽菜乃ちゃんが中部地方を指す。


「糸魚川-静岡構造線で西日本と東日本がきれいに分断されたのね」


 桐島博士が、ため息をつきながら画面を眺めている。


「あ! ここ、枝分かれした亀裂が黒部ダムを直撃してますね。黒部川沿いに大洪水が起こったみたいです」


 俺が気づいて指差した場所を、レオさんが拡大して確認している。


「海外のニュースでは聞いたことがありますが、日本でダム決壊が起こるとは」


「海外も同じ感じだよ~。首都は崩壊して、ダムの決壊や火山の土石流で広範囲に被害が出てる。あれから1カ月半たつけど、まだ火事が続いている場所もあるよ」


 陽菜乃ちゃんが世界地図に戻して説明する。


「とにかく、日本政府は機能していないし、これだけあちこちで被害が大きかったのなら、自治体を頼るのも無理だな。警察も、自分の管内すら把握できていないだろう」


 田村さんが現実的な結論を出す。


「海外からの救助もありませんね。私が掴んだ情報でも、ほとんどの国の政府は壊滅しています。特に先進国は徹底的に潰されています」


 レオさんが、独自のソースで調べてきた情報を話す。


「世界中で、今後は中世ぐらいまで生活が後退するかもしれんな」


「物質化能力が、新しく生まれる子供たちに与えられ続けなければそうなるでしょうね」


「逆に、新しく付与されるとわかったら、一大ベビーブームがくるかもしれねぇがな」


 田村さんが苦笑いする。


「今回以外のタイミングで物質化能力を得たという情報が入ったら、大分類で10種になると言うのを明かしましょう」


 俺は、気になっていたことを提案した。


「そうですね。今、明かすと、複数選択者に現れている手の甲の文様で差別や人間狩りが起こる可能性がありますから。今後の希望を持てるようになってからがいいと思います」


 桐島博士も同意する。今後の文明再クラフトは、ゲームのように単純ではないだろうが、物質化能力があるだけマシなのかもしれない。




 続いて、自衛隊についての話が始まった。


「北海道の駐屯地からの公式な連絡は止まったままだが、個人的なやりとりは続けてるぜ。魔物探知アプリやモノリス探知アプリが役に立っているようだが、相変わらず向こうの状況は話してくれねぇな」


 田村さんは、北海道の自衛隊駐屯地からきたDMの対応を続けてくれている。顔出しビデオチャットはできていないが、ほぼ自衛隊員で間違いないらしい。相手の人は、顔出しして情報交換を詳しく進めたいらしいが、組織として、なかなかこちらと交流する結論が出せないらしく、もどかしいところだ。まぁ、確かに俺たちは怪しい組織だろうから、気持ちはかわるけど。


 俺は、最近、ずっと続けている無線傍受で聞いた話をした。


「アマチュア無線で本土の人たちが話していましたが、一部の基地では組織的な活動を維持しているようですね。と言っても、近所の民間人を受け入れている程度で、組織だって魔物の殲滅ができているわけではないようですが」


「アマチュア無線は独自のネットワークがあるからな。リアルな情報を知るにはいいかもしれねぇな」


「確かに、関東の人が 『沖合に護衛艦らしき船影を見た』 とか 『ヘリの音が聞こえた』とかしゃべっていたようです。ただ真偽を確かめられないのが難点ですね。噂は大袈裟になりがちですし」


 陽菜乃ちゃんがタブレットで情報を確認しながら続ける。


「自衛隊の衛星通信の一部を傍受できたけど、暗号化されてて内容まではわからないんだよね。ただ、通信パターンから見て、組織的な指揮系統は崩壊してるっぽいかな。内容の解析はアリスに任せてるから、そのうちわかるかも~!」


「おいおい、自衛隊の通信を傍受って……」


 引いている田村さんに、質問してみた。


「航空自衛隊はどうなんでしょう? 生き残っているなら長距離移動できそうですけど」


 田村さんが、ディスプレイに画像を映す。


「これが陽菜乃ちゃんに頼んでいた、入間と百里と那覇の衛星写真なんだ。滑走路が全部やられてるから、ヘリくらいしか飛ばせないだろう。航空燃料を物質化しても、1日1立方メートルじゃ、救難ヘリUH-60Jで2~3時間の飛行が限界だな」


「じゃあ、海上自衛隊は? 津波にやられたんですかね?」


「外洋に出てた船は生き残ってるだろうが、燃料切れで漂流してるだろうな。護衛艦の重油消費量は1日数十トンだから、物質化じゃ到底賄えない」


 レオさんが補足する。


「潜水艦は、浮上してハッチから脱出するか、ゴムボートで上陸ですね。通常動力型だと、港湾施設なしでの長期運用は無理でしょう。港湾施設は、漏れなく壊れていますから二度と潜れないかと」


「結局、自衛隊も機能していないってわけか。レオ君、海外の軍の情報はないのか?」


「海外でも混乱状態ですね。指揮系統が崩壊して、各地で独立した活動をしているようです。ただ、どこかの国の軍部が暴走していると言った情報が無いのは幸いですね」


「衛星写真でも、軍の大規模な動きは確認できてないよ~」


 前世では、役所も警察も自衛隊も助けに来なかった。世界政府という言葉は聞いたが、あれは1年後だ。やはり、これからも自分の身は自分で守るしかないということだろう。薄々わかっていたが、現実は厳しい。





「現状確認はこんなとこですかね。では、本土上陸に向けての話し合いを始めましょう」


「私が気になってるコミュニティは、ここの老人ホームなんだ~。衛星写真ってアリスの解析でリアルの30cmメッシュくらいまで高画質化できるんだけど、干してある洗濯物が、日に日に減っていってるから心配なの~」


「老人ホームか。痴呆になったら、物質化は難しいかもしれねぇ。食料が足りてないのかもしれん」


「そういうところは、ドローンで物資を落としてもいいですよね。雨がやんだら偵察ドローンを飛ばしましょうか」


 陽菜乃ちゃんがタブレットを操作して、近隣の地図を映す。


 その時、突然、全員のスマホが一斉にバイブレーションを始めた。画面が真っ赤に染まり、スマホ画面も壁の全てのディスプレイも 『警戒レベル3! 緊急事態発生!』 の文字が点滅している。


 同時に、かすかに聞こえていた空調の音が止まった。


「え?! レベル3?」


 俺はスマホを見つめながら立ち上がった。今まで、レベル2までしか経験したことがない。

 陽菜乃ちゃんがタブレットを素早く操作している。


「アリス、完全偽装モード開始。全電力系統を最小限に切り替えて、音が出る装置はできる限り電源オフにして!」





 ──それは、この島に近づく船舶が確認された警報だった。



第3章のスタートです。

よろしくお願いいたします。

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朝起きたら、何故かこの作品が表示されてて、並列してたなろうページが全部閉じられ、寝落ち前にプレイしてたゲームが無関係のフォルダに移動してた。 運命と思って読み始めたら、とても好きなジャンルだったので一…
島の防衛かな、、今後スパイとかもきたりするのかな。
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