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一人で生き残るつもりだった。死に戻って最強の離島シェルターを築いたら、仲間と未来を作ることになった。  作者: 雪凪
魔物討伐編

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2-14 進化

 中型魔物が出現して3週間が経った。




 俺たちは7日ローテーションで魔物討伐を続けていた。2日間は朝から晩まで魔物を倒す。次の1日は電気柵の延長や山小屋の要塞化工事、マガジンの塩水弾補充、それぞれの専門分野の工作など。その後、また2日間魔物討伐をして2日は休養というサイクルだ。ワークライフバランスは完璧だ。まぁ、休養と言っても、掲示板の書込みをしたり、好きな実験や工作をしたり、気づいたらみんなで終末ものの映画鑑賞をして討論をしたりと、完全休養ではなかったけれど。




 掲示板サイトでは、世界中からの情報で様々な検証が進んでいた。


【モノリス】

 ・8~12時間に1体のペースで魔物は発生

 ・小型と中型のノーマル種がほぼ半々、レア種は1%程度(統計学者調べ)


【魔物】

 ・中型魔物ノーマル種<10pt>確認

 ・中型魔物レア種<50pt>確認

 ・どの魔物も落とし穴へ誘導し、12時間以上、火か水攻めすると倒せる

 ・魔物は飲み食いしないが、酸素は必要

 ・22.5kHzの高周波音「キーン」は攻撃行動に移る時に発する

 ・24kHzと25kHzの高周波音を繰り返す「キュイキュイ」は仲間を呼ぶ時に発する




 そして、この高周波音の情報を元に、陽菜乃ちゃんは魔物探知アプリを開発した。

 魔物センサー『これで不意打ちは許さないぞ1号』だ。

 威嚇音を検出したら円形レーダーに位置を表示し、仲間を呼ぶ音を検出したら妨害波で仲間呼びを無効化できるという、これまた、世界の救世主となるものだった。

 掲示板サイトでアプリを配布すると、感謝のメッセージが殺到した。

 これには超音波マイクを外付けする必要があったが、害獣除け、美顔器、眼鏡洗浄機などの超音波センサーを改造する方法、色々な部品から自作する方法が、次々と掲示板に書き込まれた。

 俺たちには、監視カメラを使った魔物の位置マップがあるが、スマホ1つで50~100m以内の攻撃態勢に入った魔物を発見できるアプリで助かった命は多かったようだった。




 中型魔物のレア種には、少し苦戦した。


 ノーマル種と同じ2m超えの人型で、長い手の先には30cmの爪があり麻痺毒を分泌する。しかも、体表のシルバーの鱗が分厚い鋼鉄のように硬く、全ての攻撃を弾き返す。そして、いかにも「弱点ですよ」と主張する緑色の発光点が、体表を不規則に移動する厄介な相手だった。胸から肩、肩から背中と移動する5cmほどの発光点の動きが追えず、3人で短機関銃UZIの一斉掃射を試みた。だが、運よく発光点に当たっても弾き返されてしまったため、一度目は煙幕を張って撤退した。AIアリスが移動パターンを解析し、8割の確率で次の位置を予測できるようになってからは、陽菜乃ちゃんのアサルトライフル迎撃システム3台体制で再戦し、あっさりと仕留められるようになった。




 安地化のためのモノリス破壊は中型魔物が湧き始めた3日後には中止した。


 何故なら、掲示板で「小型レア種を10体倒したら、物質化容量が10㎥に増えた」という報告があったからだ。大激論が巻き起こったが、3人目の達成者が1辺2mちょっとの立方体の水を空中に物質化する動画をアップしたので、確定事項となった。

 他の人たちは、毎日1㎥あれば十分だが、俺のエネルギーは本土拠点への移動も考えると10㎥にしておきたかった。それで、レア種を湧かせるために、モノリスは放置することになった。その小型レア種も9体まで倒し、あと1体の発生を待つだけの状態だった。


 そんな順調な日々に、俺たちはすっかり慣れきっていた。

 俺の物質化を10㎥に増やせたら、すぐに本土の状況確認を始める予定でいた。






「北東の方向、距離250m、中型ノーマル1体!」


 俺がゴーグルに浮かんだ地図を見ながら告げる。

 レオさんがドローンを操縦して魔物を誘導する。ドローンには、アンモニアを染み込ませた布がぶら下がっていて、魔物はそれに釣られて、こちらへ向かってくる。

 

「『怖くないもん1号』、自動照準開始~!」


 車の荷台に固定されたアサルトライフルが、滑らかに動き始める。


 バスン!


 乾いた銃声が一発。

 150mの距離にいた中型ノーマルが、額の第三の目を撃ち抜かれて霧のように消えていくのが、木々の向こうに見えた。


 レオさんが考案したアンモニア誘導作戦。陽菜乃ちゃんの自動狙撃システム。この二つの組み合わせで、魔物討伐は驚くほど順調に進んでいる。中型でも、9割は150メートルの距離から一発で仕留められる。残りの1割も、2発目か3発目には必ず倒せた。50メートル以内に魔物が近づいたことは、一度もない。


「次は、ちょい遠いけど北北西380m地点に小型ノーマル、東北東430mに中型ノーマルです!」


「俺が小型ノーマルを誘導するよ」


 田村さんもドローンを操縦し始めた。今日もいい天気で、魔物討伐は順調だった。この2体を倒したら、ちょうどお昼だ。


 


 お昼ご飯を食べるために、俺たちは中規模山小屋拠点に戻った。簡易除染ブースで装備を清拭してから室内に入り、念入りに顔や手を洗う。

 昼食は、レンチンだ。だが、このレンチンは休みの日にレオさんと桐島博士が調理して小分け冷凍してくれた料理で、かなり美味しい。今日は、豚キムチがメインだが、レオさんがチーズを乗せてトーチバーナーで炙ってくれる。目の前でみるみる焦げ目がついていくチーズの香ばしい匂いにヨダレが出そうだ。戦闘後の体には染みる。

 デザートは、みんなで温室の果樹園でとったサクランボだ。甘酸っぱくてすごく美味しい。

 葉物野菜も水耕栽培で収穫できるようになったので、最近は食卓に緑色が増えた。

 俺はカップ麺三昧になる休みの日より、魔物討伐の日の方が、健康的な食生活になっている。





「早く、小型レアが1体でてこないかな」


 俺が食後に、牛になるべくゴロンとソファに転がりながら呟くと、隣のソファに寝そべっている田村さんも同意する。


「あぁ、そうだな。早く全部のモノリスを倒して、島中を安地化してぇな」


「それはそれとして、そろそろドローンの本土ルートを決定しませんか?」


 レオさんも、優雅に食後のコーヒーを飲みながら話しかけてきた。


「そうだな、港の破損状況の確認と、生存者コミュニティが居そうな場所を──」


 その時、全員のスマホやタブレットから警告音が鳴った。


 ピピッピピッ!


「えっ、何これ......」


 陽菜乃ちゃんが画面を見て固まる。

 地図アプリに、今まで見たことのない大きな「!」マークが表示されていた。


「それ、何のマークだ?」


 田村さんが覗き込む。


「これは......『未確認魔物』の印。今まで見たことがない種類の魔物だよ」


 全員に緊張が走る。


「陽菜乃ちゃん、監視カメラの映像を出して」


 俺の要請で、陽菜乃ちゃんがすぐに該当エリアの映像を壁のディスプレイに映し出した。

 画面に映ったのは、今まで見たことのない魔物だった。


 形は小型魔物と一緒だが2回り大きく、虹色に輝く体毛が、動くたびにふわふわと変化している。瞳は燃えるようなオレンジ色。そして何より異様なのは、9本の尻尾が孔雀の羽のように扇状に広がっていることだった。


「キレイだ......」


 誰かが呟いた。

 確かに、恐ろしいというより神秘的な雰囲気を纏っている。だが、その動きは尋常ではなかった。


「速いぜ! しかもジャンプしやがった」


 魔物は瞬間移動のような速度で移動し、1.2メートルの電気柵を軽々と飛び越えていく。安地化したはずの道路部分を、まるで散歩でもするかのように横切っていた。 監視カメラが追いきれていない。


「小型魔物の......超レア種だ」


 レオさんが呟く。


「掲示板でも、まだ一度も報告されてねぇやつだぞ。なんで、ここに」


 田村さんと陽菜乃ちゃんは、すぐに銃器の準備を始め、レオさんはドローンを抱えて屋上デッキへ向かった。俺は、すぐに事務棟に連絡した。


「桐島博士!  森林部で未確認の超レア種が発生しました。子供たちを事務棟内に避難させて、全てのシャッターを降ろしてください」


『子供たちは2階のラウンジにいます。すぐにシャッターを降ろします。気をつけてくださいね』


 いつも落ち着いている桐島博士の声が、僅かに緊張していた。





 屋上デッキへ銃器を運び、装備を身につける。

 準備が整い、それぞれが配置につく。


 この山小屋拠点は要塞化しているので、自動迎撃システムを組み込んだ機関銃M240が四隅に設置できる。リロードと銃身交換だけを俺と田村さんでやることになった。

 陽菜乃ちゃんはアサルトライフル3挺をタブレットから操作する。こちらは、陽菜乃ちゃんと田村さんが作った自動ローダーが付けられているので、リロードいらずで陽菜乃ちゃんはタブレット操作だけだ。


「アンモニアドローンで誘導できるか試してみます。事務棟に向かわないようにしないと」


 レオさんが、みんなの準備を確認してドローンを飛ばす。


 画面を見ていると、超レア種がドローンに反応した。あの高速移動を見せながら、確実にこちらへ向かってくる。 たまにジャンプしてドローンを落とそうとするが、のらりくらりとレオさんが躱している。


「誘導成功」


 肉眼で見える位置に超レア種が来た。


「よし、ここには銃器も塩水弾も十分だ。超レア種が1000発必要でも余裕だぜ。倒れるまでぶちかまそうぜ!」


 田村さんの言葉に、みんな、少し安心した表情になる。


 超レア種はドローンを追って山小屋に近づいてきたが、 2mは飛び越えられないようで、30m先の電気柵の向こう側でウロウロしながら、屋上テラスにいる俺たちを見上げている。9本の尻尾が興奮したように波打ち、時折、苛立たしげに地面を叩く。

 聴覚がいいのか、機関銃の安全装置を解除するカチリという音に反応し、耳をピクピクさせる。


「知能が高そうですね......」


 レオさんが呟く。


 その時、森の奥から小型のノーマル種が3体やってきた。

 そういえば、レア種は必ず群れを作っていた。もしかしたら、これから超レア種の元に他の魔物が集まってくるのかもしれない。そうなったら面倒だ。


「まずいな、群れになる前に——」


 田村さんが機関銃の架台のタブレットに手をかけた瞬間、予想外のことが起きた。

 ノーマル種が超レア種を見つけると、唸り始めたのだ。大きく口を開けて、牙を剥き出しにしている。

 すると、超レア種が突然動きを止めて、じっとノーマル種たちを見つめている。


「なんだ? 睨み合ってるのか?」


 田村さんが首を傾げる。


「いえ、超レア種の方が一方的に動きを止めているような......」


 レオさんも困惑している。


 約10秒が経過した。


 突然、超レア種が動き出した。

 瞬間移動のような速度でノーマル種に飛びかかり、その喉元を食いちぎったのだ。ノーマル種は反撃する間もなく、霧のように消えていく。 残り2体は、その隙に森の中へと走り去っていった。


「えっ、今の何? なんで仲間を殺すの??」


 陽菜乃ちゃんが驚いている。

 俺も理解できなかった。超レア種は縄張り意識が強いのか?


「群れる前にやるぞ! 一斉射撃開始!」


 田村さんの号令で、俺たちは一斉に撃ち始めた。


 ダダダダダダ!


 M240機関銃の連続音が響く。


「神崎!」


 田村さんが叫びながら、200発のベルト給弾を15秒で撃ち尽くす。


「リロード2回に1回は銃身交換だ!」


 素早くベルトを交換し、予備の銃身を手元に置く。熱で赤くなった銃身は、耐熱グローブをしていても熱さを感じる。 外した銃身を、陽菜乃ちゃんが作った空冷銃身置き場に突っ込めば、早く安全に冷えるので4本を交代で使う。銃身が熱くなったま使い続けると、命中精度が落ちるだけでなく、最悪、暴発するらしい。


 その間、レオさんはUZIをフルオートで撃ち続けた。


「レオ! 5回撃ったら銃本体ごと交換!」


 田村さんの指示通り、32発を3.2秒で撃ち切り、すぐにマガジン交換。5回目のマガジンを撃ち終えると、銃身が白く煙を吹き始める。レオさんは落ち着いて、スチールワゴンに並べた装填済みのUZIに取り替える。


 陽菜乃ちゃんのM4カービンは、迎撃システムの関係で銃本体を交換できない。 陽菜乃ちゃんは、田村さんに言われる前に自分から申告する。


「私のは熱管理システムが入ってるから大丈夫~! バーストで調整してる~!」


 28発を30秒かけて、3発ずつのバースト射撃。撃っては少し間を空け、また撃つ。 それでも3挺あるので、かなりの弾数だ。


「眉間とか目とか狙いを変えてるけど、どこか効いてる場所あるー?」


 陽菜乃ちゃんが叫ぶ。


「全然だ! まるで効いてねぇ!」


 田村さんが怒鳴り返す。


『陽菜乃さん、首筋や心臓、横腹、足の付け根や関節、鼻、耳も狙ってみてください』


 ヘッドセットから、桐島博士の声が聞こえた。


「ダメ! どこも吸い込まれて終わり~!」


 信じられない光景だった。

 確かに最初は、超レア種の高速な動きについていけずに弾は外れがちだった。だが、迎撃システムはすぐに学習して、かなりの弾丸が確実に超レア種の体に当たっている。だが、貫通することもなく、跳ね返ることもなく、吸い込まれるように体内に消えていく。

 体表に傷ができても、すぐに癒えてしまうのだ。


 5分が経過した。


 全員でひたすら弾丸を撃ち込んだが、超レア種は倒れる気配すらない。


「ヤバいぞ……塩分増量の新しい銃弾5000発でも倒れねぇ」


 俺たちの甘い考えは完全に打ち砕かれていた。機関銃があれば余裕だと思っていた。だが、薬莢だけがコンクリートタイルの上に山を作っていく。


「田村さん……塩分が弱点じゃないのかもしれません」


「ちっ、そうかもしれねぇな。とりあえず、準備した分は撃ち尽してみよう」


「はい!」


 その時、陽菜乃ちゃんの弾丸が偶然、超レア種の左目に命中した。


「グギャアアアアッ!」


 初めて超レア種が苦痛の叫び声を上げた。

 9本の尻尾を振り回しながら、瞬間移動のような速度で森の奥へ逃げていく。

 あっという間に、姿が見えなくなった。

 俺たちは、消えていった方向を見ながら、ただ立ち尽くしていた。


「弾丸が......ブラックホールみたいに吸い込まれました......」


 俺は呟いた。


「何なんだ、あいつはよぉ」


 田村さんが、頭を振っている。


「ドローン2台で追跡させます」


 俺は急いで一階に降り、PCからドローンのセッティングをした。






 その夜。

 桐島博士と子供たちは事務棟に留まり、俺たち4人は中規模山小屋に泊まることになった。初めて、二か所に分かれて過ごす不安な夜だ。

 子供たちが不安にならないように、カメラを繋いで、全員でおしゃべりしながら夕食を食べる。


「それにしても、あのノーマル種と超レア種の対峙、変でしたよね」


 レオさんが口を開く。

 その時、莉子ちゃんの大きな声が聞こえた。


『あのね、黒マモノが大きく口を開けた時、きっと「キーン」って音がしたんだと思う』


 続いて悠真君の声。


『そうそう! あれ、うるさいもん。虹ワンチャンも耳が痛くなったんじゃない?』


「耳が痛い......?」


 レオさんが何かに気づいたような表情になる。


「陽菜乃ちゃん、録画映像をもう一度見せてください」


 陽菜乃ちゃんがタブレットで映像をリプレイする。

 ノーマル種が口を開いた瞬間の超レア種を、スロー再生で確認する。


「本当だ! よく見ると、超レア種が耳を伏せてる!」


 田村さんが画面を指差す。


『高周波音で動きを止められる可能性がありますね』


 桐島博士の声が聞こえた。


「超レア種と、ノーマル種は敵対関係……ノーマル種の高周波音は超レア種から身を守るために身につけたということか?」


 田村さんが腕を組んで、考え込んでいる。


 もしかしたら、動きは止められるかもしれない。だが、塩水弾でいくら攻撃しても無駄だろう。




 今夜は全員が疲れ切っていた。

 窓の外では、風が不気味に鳴いていた。


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