2-12 見つけちゃうぞ1号&怖くないもん1号
午前9時。
いつもの時間に会議室に集まった俺たちの前で、陽菜乃ちゃんが誇らしげにタブレットを掲げていた。
「できたよ~! モノリス探知機『今すぐ見つけちゃうぞ1号』!!」
壁のディスプレイには、陽菜乃ちゃんが前に作った地図アプリが映し出され、新しく左上に探知開始ボタンが配置されていた。ボタンのアイコンが『1号』と書かれたアンテナで面白い。
「陽菜乃さん、ちゃんと寝てますか? 無理しすぎないでくださいね」
桐島博士が心配そうに陽菜乃ちゃんの顔を覗き込む。
「えへへ、3時間くらいは寝たよ~。大丈夫!」
陽菜乃ちゃんは桐島博士が大好きだ。いつも注意を受けると、嬉しそうな顔をする。
「3時間じゃ少なすぎます。身長も伸びませんよ」
「はーい! でもその前に説明させて~。このアプリ、うちら用はNFCチップを改造して感度向上させてるの。でねでね、13.56MHzに最適化した外付けアンテナで検出した電磁波を地図アプリに表示させるようにしたんだ~。これで、200メートル以内のモノリスがすぐみつかるはずだよ」
「さすが、陽菜乃ちゃんですね。これがあれば、あの見つけにくいモノリスも、すぐに見つけられそうです」
レオさんが、頷きながらディスプレイを見ている。
「問題はね、掲示板サイトで世界に配信するアプリの方なんだ~。スマホ内蔵のノーマルNFCだと、どんなに頑張っても30メートルが限界なんだよね。もちろん地図とのリアルタイム連動も無理。自分を中心に方角と距離だけがわかる感じ」
陽菜乃ちゃんが、シンプルな円形レーダー表示の画面を映す。
「だから、アンテナを自作してもらわないと、あんま役に立たないかもなんだ~」
「すげぇな、陽菜乃ちゃん。十分だよ。世界中の人を助けることになるぞ」
「そうですね。モノリスの位置が分かれば、計画的に破壊できます。素晴らしい成果です。自作アンテナの作り方も一緒に載せれば問題ありませんよ」
レオさんも田村さんも感心している。
俺は陽菜乃ちゃんのアプリを、すぐに掲示板で公開できるように準備した。
今からアプリを試して、問題なければすぐに公開だ。
『【重要なお知らせ】モノリス探知アプリを配布します。
▼探知範囲
30m(アプリのみ)
100~200m(アンテナ自作)
▼簡単なアンテナ
・短波ラジオの外付けアンテナをスマホに接続
・11mの電線を張ってスマホと接続
・自動車のホイップアンテナを流用
▼上級者向けアンテナ
・アマチュア無線のHFアンテナを13.56MHzに調整
・自作コイルアンテナ(詳細設計図あり)
※ 詳しい作り方や接続方法は技術者板で解説しています。他のアイデアも募集中!
明後日から中型魔物が出現します。早めに避難所周辺のモノリスを倒してください。
【重要】モノリスに衝撃を与える場合は、十分に注意してください。物理的な力を加えると、大量の魔物が湧きます。複数人で備えてから実行してください』
俺たちは、早速、島内のモノリス探索に出かけることにした。
「アリスにドローンやスイーパーも含めた監視カメラの映像の解析をしてもらいました。データが増えたので、魔物の動線から推測される発生源がいくつか特定できました」
レオさんがタブレットで地図を表示する。陽菜乃ちゃんが開発に集中している間は、レオさんがアリスとやりとりしていたのだ。
赤い点がいくつか島の各所に表示されていた。
「まずは、安地に近いところから……よし、山羊小屋の裏から調べてみようぜ」
田村さんの提案で、2台の車に分乗して、全員で山羊小屋へ向かった。銃器もしっかり携帯する。もちろんレア種に備えて短機関銃も車に積んでいく。
山羊小屋の裏は、膝丈ほどの草が生い茂っていた。陽菜乃ちゃんが探知機を起動する。
「反応あり! あっちの方向、30mくらい先だよ~」
草をかき分けながら進むと、薄青色の透明な石柱が地面から50cmほど突き出ているのが見つかった。表面は滑らかで、まるで黒曜石のような質感だが、周囲の景色に溶け込むような不思議な色で見つけにくい。レーダーが無いと苦戦するだろう。
陽菜乃ちゃんが1000ポイントになるまで、モノリスを撃ってから、湧いた魔物を撃つ事を繰り返す。
陽菜乃ちゃんが終わると、桐島博士だ。
途中で、山羊小屋裏のモノリスが倒れてしまったので、新しいモノリスを探し出して続ける。グロックで撃つと約30回で倒れてしまうので、450ポイントしか稼げない。更に、インフラ施設近くのモノリスを使って、やっと桐島博士も1000ポイント溜まった。
「じゃあ、私たちは先に帰るね~。アサルトライフルの迎撃システムも、もうすぐ完成だから~!」
陽菜乃ちゃんと桐島博士は先に帰り、モノリス探知アプリの公開をすることになった。
「よし、俺たちはモノリスの検証をしようぜ。まずはこいつで魔物が湧くかどうかやってみよう」
田村さんが、いそいそとBB弾のエアガンを取り出す。
「モノリスからできるだけ何度も魔物を湧かせて、効率よくポイントを稼ぐ方法を探るんだ」
パスッ、パスッ、パスッ。
田村さんが一定間隔でBB弾を撃ち込む。50発、100発、150発......
250発を超えたあたりで、モノリスの根元の地面が盛り上がり始めた。
「来るぞ!」
魔物が地面から這い出てきた瞬間、レオさんがグロックで仕留める。
もう一度、BB弾を撃つと、同じく約250発で魔物が湧いた。
「やはり、累積ダメージがある値を超えたら湧くってことか。BB弾じゃ時間がかかって効率悪いな」
「じゃあ次は、石を投げてみます。これなら、世界中で使える方法だし」
俺は3cmほどの石をモノリスに向かって投げた。
疲れはしないが、かなり面倒な気分になってきた約150回目で魔物が湧いた。
その後、様々な方法を試した。3cmの石をスリングショットを使って投げると約15回で魔物が湧く。ロープをモノリスに巻き付けて引っ張る方法では、割と本気の気合を入れた綱引きレベルで引っ張る必要があった。
「やっぱり一番簡単なのは、車を使う方法だな」
この前もやっていたように、クリープ現象でゆっくりと繋いだロープにテンションをかけ、魔物が湧いた瞬間にブレーキを踏む。
グロックで撃つと、約30回でモノリスが倒れてしまうが、魔物が湧くギリギリまでしか力を加えなければ、約50回は魔物が湧くことがわかった。つまり、上手くやれば1つのモノリスで750ポイントを稼ぐことができるのだ。
他にも、拳銃を連射してみたりした。1発で地面が盛り上がり始めるが、構わずにモノリスを撃ち続けると、やはり30発でモノリスは倒れた。その場合は、魔物は最初の5体が沸いただけだった。
熱湯をかけたり、スタンガンを押し付けても反応はなかった。刺激ではなく、物理的な力がモノリスを倒す条件のようだ。
前世の山崩れのように、周りの地面を掘ると、魔物を湧かせずにモノリスを倒すことができた。ただし、シャベルが強めにモノリスに当たり続けると魔物が湧くので注意だ。
「あとは電気柵で囲んで、明日まで放置してみましょう」
レオさんの提案で、3m四方の電気柵で囲んだモノリス、10m四方の電気柵で囲んだモノリス、そのままのモノリスいくつかに監視カメラを設置して、しばらく様子を見ることにした。自然発生だと、どのくらいの間隔で湧くのか、テリトリーはあるのか、閉じ込められた魔物同士で争うのか、中型魔物も同じように湧くのか、疑問は尽きない。
昼食前、俺たちは午前中の検証結果を掲示板に投稿した。
『【報告】モノリス検証結果
▼魔物が湧く最低の力加減(目安)
・BB弾:約250発
・3cmの石(素手):約150回
・3cmの石(スリングショット):約15回
・ロープで引っ張る:本気の綱引きレベル
・拳銃:1発
ポイント稼ぎの場合、効率重視なら車が最適です。無い場合は簡易スリングショットがお勧めです。滑車を使ったロープ引きも有効です。
ポイントが不要の場合、素早く倒すには、拳銃で30発以上連射するか、車にロープをつけてアクセルを踏み続けてください。(最初の魔物5体は湧くので注意)』
投稿するとすぐに反応があった。
『ありがとう! 早速試してみる』(アメリカ)
『ガソリンがないから、スリングショット作ってみます』(インド)
『モノリス探知アプリは助かる』(ドイツ)
『1000ポイントのハードルが下がった!』(メキシコ)
『Android端末にアプリを移植して、探知機を増やしました』(スイス)
『どなたか、iOS版も作成していただけませんか?』(滋賀)
『私がiOS版を作ります。少々、お待ちを』(アメリカ)
「アプリも2時間で5000回以上、ダウンロードされてますね」
俺はサイトのアクセス解析を確認した。
「なるほど。アプリを移せば、ステラネット端末以外のスマホやタブレットも探知機にできるってわけか。台数が増えれば、多少、検出範囲が狭かろうがローラー作戦がとれるしな」
「それだけ、みんな必死ということですね。外付けアンテナの情報も、増え続けています。針金ハンガー、空き缶、段ボール、アルミホイル、廃材を使った興味深いアイデアが次々と書き込まれていますよ」
俺の作った掲示板サイトが、人類VS魔物の情報交換に使われている。俺たちが学ぶことも多い。その事が、俺はとても嬉しかった。
お昼、みんなが食堂でご飯を食べていると、陽菜乃ちゃんが興奮した様子で工作室から降りてきた。
ちなみに、工房群はまだ安地化できていないので、陽菜乃ちゃんは事務棟3階の2LDKを自分の工作室として追加で使っている。本人いわく『ゴスロリマッドサイエンティスト風工作室』ということだが、莉子ちゃん以外に褒めてくれる人はいないらしい。電気工具や医療器具が、黒レースフリルが付いた棚に並んでいるが、陽菜乃ちゃんが電気工作のどこでメスや鉗子といった手術器具を使うのかは謎だ。
「できたよ~! アサルトライフル迎撃システム『中型魔物なんて怖くないもん1号』完成!」
M4カービンを、自動迎撃装置が組み込まれた三脚に固定し、それを台車に乗せて運んできた。三脚には、小型カメラとサーボモーターと小型タブレットが取り付けられている。食堂に非常に不似合いだ。
「あのね、ここについてるカメラの映像をアリスが解析して、魔物の眉間を自動で狙ってライフルが動くようにしたの。手動で狙う場合は、ここのタブレットに映る画像をタップね。精度は今のところ90%くらいかな~」
「マジか! 自動狙撃かよ。ロマンの一つだな!! 小型魔物で試して見ようぜ!」
興奮しだした田村さんは、「陽菜乃さんもお昼ご飯を食べてからにしてください」という桐島博士の冷静な声に撃沈されていた。
俺たちは外に出て、小型魔物相手に新システムのテストを行った。
まず俺がUZIのバースト射撃で地面を狙い、魔物の足止めを試みる。
ドドドッ、ドドドッ。
3発ずつのバーストのつもりが、緊張で5発も撃ってしまう。しかも素早く動く小型魔物の足止めにならない。
「あー、7回で弾切れだ……」
俺は、ガッカリしてマガジンを交換する。その間に、田村さんが小型魔物を瞬殺する。
「落ち着けよ、神崎君。指の力を抜いて、軽く引くだけだ」
田村さんがアドバイスしてくれる。
小型魔物は、ドローンで釣ってきている。以前、レオさんが言ったように、アンモニアを染み込ませた布をドローンに吊り下げると、魔物は興奮してドローンを追ってくるのだ。アンモニア無しのドローンには見向きもしないのに。
レオさんがドローンを操作。
俺がドローンを追ってきた魔物を足止め。
陽菜乃ちゃんが止まった魔物を迎撃。
危ない時は、即座に田村さんがフォローという体制だ。
中型魔物と違って、一発でも当ててしまうと小型魔物は消滅してしまうので、当てないように足止めするのが難しい。
「2体目、前方100メートルまで誘導」
レオさんの声が、ヘッドホン越しに聞こえる。
「足止め無しでいけるかやってみるー!」
陽菜乃ちゃんが迎撃システムを起動した。
「自動追尾、開始~!」
カメラが魔物を捉えたようで、銃身が滑らかに動く。
パン!
一発で小型魔物の眉間に命中。魔物は霧のように消えた。
「やったー! 大成功~!」
陽菜乃ちゃんが飛び跳ねて喜ぶ。
初っ端から成功している。すごすぎる……
その後、30回ほど練習を続けた。俺のバースト射撃も少しずつ上達し、10回まで撃てるようになった。陽菜乃ちゃんが100メートルの距離で狙撃できるなら、俺の足止めは不要な気もするが、練習しておいても無駄にはならないだろう。
陽菜乃ちゃんは練習の合間にシステムを微調整し、命中率を93%まで向上させた。田村さんが、「1%上げるために、みんな必死で苦労してんのに」と苦笑していた。
「あとは、中型魔物の生データが揃えば対応できそう~。3体分の映像が集まればすぐ解析できるようになるはず!」
いつもながら、陽菜乃ちゃんはなんでもない事のようにサラりと、とんでもない事をやってしまう。
夕食後のミーティングで、世界からの反響を確認した。
「見て見て! すごい数の感謝メッセージが来てるよ~」
陽菜乃ちゃんが画面をスクロールする。
『モノリスを3つ破壊しました。避難所周辺の魔物が明らかに減りました』(フランス)
『子供たちが庭で遊べるようになった。本当にありがとう』(ブラジル)
『この前はフェイクニュースと言って悪かった。命を救われた』(ロシア)
『大人4人が1000ポイントになった。2種も物質化できる恩恵がありがたい』(ノルウェー)
しかし、もちろんネガティブな反応もあった。
『そんなに次から次へと情報を出せるのはおかしい。お前らがこの大災害を起こしたんだろう』(アメリカ)
『便利すぎる。裏があるはずだ。みんな、騙されるな』(中国)
批判的な書き込みを見て、場の空気が少し重くなる。
「とうとう、俺らが悪の親玉にされ始めたか。まあ、疑われるのも無理はねぇけどな。魔王軍団だしな」
田村さんが苦笑する。
俺は画面から目を離さずに言った。
「でも、俺たちの方針は変わりません。できることをやる。俺たちの情報を待ってる人が、画面の向こうにたくさんいるはずだから」
みんなが静かに頷いた。
桐島博士が静かに立ち上がった。
「あの......皆さんにお願いがあります」
深く頭を下げながら、言葉を続ける。
「莉子と悠真にも、モノリスを使った魔物討伐をさせてください」
俺もみんなも、かなり驚く。桐島博士は、子供たちがゲーム感覚でVR戦闘をするのすら、複雑そうな表情をしていたはずだ。見せるアニメや映画も、暴力シーンや戦闘シーンをかなり厳選していることを、全員が知っている。
6歳の子供たちに魔物討伐。
確かに掲示板では、子供も魔物討伐に参加しているという書き込みはたまにある。だが、それは元々、銃社会の国で経験があったり、人手が足りなくて止むを得ずという感じだ。
陽菜乃ちゃんが慌てて手を挙げる。
「あ! じゃあVRみたいにタブレット操作で自動発砲する仕組み作ろうか? アサルトライフルで自動狙撃を作ったから、安全に──」
「俺は反対だ」
田村さんの低い声が、会議室に響いた。
子供たちに、最初にVR訓練をさせたのは田村さんだったのに、何故、反対するのか。
全員の視線が田村さんに集中し、会議室は、再び張り詰めた沈黙に包まれた。
いつも、誤字脱字報告、本当にありがとうございます。
割といい感じのシーンでのやらかしが多くて、「私が読者ならイラつくやつ……涙」と打ちのめされてます。
申し訳ございません。
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。