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一人で生き残るつもりだった。死に戻って最強の離島シェルターを築いたら、仲間と未来を作ることになった。  作者: 雪凪
魔物準備編

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2-3 誰も犠牲にしない魔物対策会議

 山小屋の見学を終えて、事務棟に戻る途中、面白い光景に出くわした。

 道路を自動で動く火山灰アッシュスイーパーの後ろを、昼間は放し飼いに変えた3頭の山羊がトコトコとついて歩いている。


「あ! シロちゃんとクロちゃんと白黒ちゃんだ~!」


 莉子ちゃんが嬉しそうに叫ぶ。


「何故、スイーパーの後ろを……群れのボスだと勘違いしているのでしょうか?」


 桐島博士が不思議そうに見ている。


「スイーパーが通った後は、火山灰が除去されて草がきれいになるからですかね」


 レオさんが、写真を撮りながら答える。

 確かに、山羊たちはスイーパーが通過した場所で立ち止まり、道路脇の草を美味しそうに食べている。


「平和でいいね~」


 陽菜乃ちゃんまでスマホで動画を撮り始めた。


「掲示板サイトのアイデアに使えそう~ 文明と野生の共生! とかね、あはは」


「山羊のためにも、スイーパーの稼働範囲を道路脇まで広げた方がいいかもしれませんね」


 俺は山羊たちの健康を考えて、火山灰清掃計画の見直しをしようと決めた。






 事務棟に戻ると、ちょうど昼時だったため、一旦解散にした。


 昼食を各自で食べる。俺は手抜きのカップ麺だったが、レオさんの作った本格パスタの香りに後悔した。ニンニクとオリーブオイルの組み合わせは暴力だ。

 作り過ぎたからどうぞと、小皿にわけてくれるとこまで、本当にイケメンだ。


 それぞれ、作業をしたり、シャワーを浴びたり、お昼寝したりと自由時間を過ごした。

 陽菜乃ちゃんに、拠点関係の測量データを渡すと、すぐに猛烈なスピードでカタカタ始めていたけれど。





 14時過ぎ、会議室に再び集合した。


「では、今度こそ、魔物対策会議を始めます」


 俺が切り出すと、陽菜乃ちゃんが両手を挙げた。


「はい、はーい! 魔物討伐にも便利な地図アプリでーす!」


 大型ディスプレイにスマホ画面が映し出される。


「盛りだくさんな機能は5つ! みんなの現在地表示、緊急SOS、天気予報、監視カメラ連動、魔物の位置情報だよ~」


 画面をタップしながら説明を続ける。


「まず、現在地表示ね。アイコンで表示されるから、誰がどこにいるか一目でわかるようになってるの。もちろん、オフにもできるよ~」


 画面に島全体の地図が表示され、拡大すると事務棟の形が見えてくる。そしてさらに拡大すると会議室のあたりに集まっている全員のアイコンが重なって表示されている。


「まぁ、助かるわ。莉子と悠真にも持たせるようにします」


 桐島博士が、嬉しそうに言った。


「下に並んでいる4つのアイコンの一番左がSOSね。全員に緊急通知が行くの。場所も自動で共有されるから、すぐに助けに行けるはず。誤作動防止の設定もあるよ~」


「場所の自動共有か。すごいな、これ」


 田村さんが感心する。

 魔物討伐中に、一人だけはぐれた時なんかに便利そうな機能だ。


「左から2つ目が天気予報ね。アリスが気象衛星の生データを解析できるようになったから、雨雲レーダーと風向きと風速、気温、湿度の情報が出るようになってるんだよ~」


「陽菜乃ちゃん、本当に気象衛星もハッキングしたんだ……」


 今日は朝から陽菜乃ちゃんの能力の高さに驚いてばかりだ。


「左から3つ目は監視カメラの映像確認用ね。ここをタップすると、地図上に出てくる青い四角が監視カメラの位置だよ。その四角をタップしたら、そこの監視カメラの映像が見られるの」


「すごい数ですね。いったい、この島にいくつの監視カメラがあるのですか?」


「えっと、港と道沿いに合わせて50か所、各施設は四隅と玄関の5か所、森林内の小規模山小屋には1か所ずつ、中規模と拠点山小屋には5か所ずつ、アンテナ塔から四方の海上監視に高性能タイプを4か所だったかな? 合わせて200弱くらいですかね」


 レオさんの質問に、俺が答えたら、みんなが黙り込んだ。

 段々と、みんなの反応が、俺の会社の社員に似てきた気がしなくもない。


 陽菜乃ちゃんがカメラ映像を切り替えていく。山小屋から見える森の様子や、コテージ群を見下ろす映像などが次々と映し出される。


「こんな感じ。監視カメラのズームはここを長押しで、前の時間の映像を見たい場合は、ここのスライダーを左に移動させたら24時間前までは戻るよ」


「ほぅ、ラグも感じねぇし滑らかだな。魔物対策にも使えそうだ」


 田村さんが呟く。


「一番右が魔物用! ここをタップすると、地図上に赤いバツ印が出るの。監視カメラが、動体検知で自動追尾するめっちゃ高性能なやつなんだ~。だから、アリスにその画像を常時解析してもらって、リアルタイム表示になる予定~」


「つまり、ここにいながら、島中の魔物の位置が把握できるってことか? しかも24時間?」


「でも死角が多いから過信は禁物だよ? あとね、さっき、隠しページを作ったんだ~! この右上の鍵マークをタップして、生体認証で解除すると、拠点山小屋への最短アクセスルートが地図に表示されるようにしたの。それと、リモコンの周波数解析もできたから、スマホから進入口の開閉をできるようにしといた~」


「え、それって30分くらいでできることなんだ……」


 すごく便利で嬉しいけど、何か腑に落ちない複雑な気持ちだった。


「管理プログラムから一括でみんなのスマホに配信するね~」


 数秒後、全員のスマホに通知が届き、アプリがインストールされた。


「使い方は触ってればすぐわかると思う~」


 みんなが早速アプリを起動して、機能を確認し始めた。






「では、本題に入ります。皆さんに送った魔物の詳細データを見てください」


 ディスプレイに魔物のイラストと説明が表示される。


「まず小型魔物。犬くらいの大きさで、全身が黒い硬い体毛で覆われています。鞭のような尻尾が特徴で、これで攻撃してきます」


 みんなが真剣なデータとディスプレイの画像を見比べている。


「習性は単独か2-3匹の小集団。首筋を狙って飛びかかってくるので、防護は必須です。独特の腐敗臭がするので、接近に気づきやすいですね」


「弱点は塩で間違いねぇか?」


 田村さんが聞く。


「はい。前世では、日本刀を塩水に浸けて乾かしたもので切っていました」


「それなら、海水に囲まれた離島は、比較的安全なんですね」


 レオさんが納得する。目の付け所がさすがだ。


「それもあって、離島を避難先に選びました。島内の魔物さえ殲滅できたら、安全地帯になるはずです。前世では、裏山が山脈に続いていて、際限なくそこから魔物が降りてきましたから」


「目標が明確なのはやりやすいな。駆逐した場所から安地あんちを広げていけばいい」


 田村さんは、戦術を考え始めたようだ。


「次に中型魔物です。人間のような形をしていますが2m以上の高さがあります。皮膚は黒い鱗に覆われていてかなり固いです。異常に長い腕が特徴で、地面に届くほど。爪から麻痺毒を分泌します」


 桐島博士が顔をしかめる。


「麻痺毒……厄介ですね。できればサンプルが欲しいわ」


「額に青く光る第三の目のような器官があって、ここが弱点です。前世では、囮を使って倉庫に誘い込み、6~7人で動けないように毛布で抑え込んでから、この青い部分を塩水に浸けた日本刀で刺していました。身体に傷をつけると、すぐに仲間を呼ぶので厄介です」


「大型は?」


「前世の噂では、体育館サイズの化け物がいるとか……でも、実際に見てないので、都市伝説かもしれません」


 俺は、今までのことを思い出して、慎重に付け加えた。


「ですが、このデータも前世とは違うところがあるかもしれません。物質化能力の仕様も違いましたし。慎重に討伐作戦を立てた方がいいです」




 田村さんが立ち上がって、ホワイトボードに図を描き始めた。

ちなみに、この会議室の壁は全面ホワイトボードだ。


「サバゲーの基本戦術を、いくつか教えるな」


 まず一つ目の図を描く。


「クロスファイア。要は十字砲火だ。複数方向から同時に攻撃して、逃げ場をなくすのが目的だ」


 L字型の配置図を描きながら説明を続ける。


「例えば、神崎君と俺が90度の角度で配置につく。魔物がどちらかに向かっても、必ず横か後ろから攻撃できる」


 次の図を描く。


「ディストラクション戦術。注意を引きつける役と、攻撃する役を分ける」


「それって囮じゃ……」


 陽菜乃ちゃんが不安そうに言う。俺の心臓の鼓動が少しずつ大きくなる。

 だが、田村さんはすぐに首を振った。


「違う。俺は絶対に誰も囮にしねぇ」


 田村さんの声に力がこもる。


「派手に注意を引くだけなら、音響装置やドローンを使う」


「あ、ドローン……備蓄にあります。いくつも。そっか……ドローンか。俺、いつの間にか……誰かが囮になるしかないと思い込んでました……なんでだろ、はは」


 強張っていた身体から力が抜ける。


 前世の囮作戦は、何人もが犠牲になりながら、編み出された討伐方法だった。囮以外は安全だったし、日本刀で近接で戦うにはしょうがなかったのかもしれない。ただ、囮の役割分担が不公平すぎたのだ。


 前世の知識は、とても有用だ。だが、それを意識しすぎると失敗する。

 何回も繰り返していたのに、また同じ失敗をするところだった。


「それだけ、印象が強かったってことじゃん? 気にすることないよ。今は、こーんなに頼れる仲間がいるんだから、みんなで考えればいいんだよ~」


 陽菜乃ちゃんが、珍しくなぐさめてくれた。


「あぁ、神崎君の記憶がなければ、俺たちも危なかった。武器の準備もできずに、やられていたかもしれねぇ。せっかく面白いメンツが揃ってるんだし、柔軟に考えようぜ」


「はい、そうですね。確かに、うん、面白いメンバーが揃ってますよね」


 俺は、落ち着いて返答できるようになった。


「続けるぞ。次はキルゾーン戦術だ。あらかじめ攻撃地点を決めておいて、そこに魔物を誘導する。地の利を最大限に活かす方法だ」


 田村さんが真剣な表情で全員を見回してから、ニヤッと笑った。


「誘導爆破、陽動作戦、待ち伏せ......他にも色々あるが、要は誰も犠牲にしねぇ方法を考えりゃいい」




「私からも提案が」


 レオさんが手を挙げた。


「化学物質を活用した罠や装置です。まず、アンモニアで魔物をおびき寄せる罠が作れるはずです」


「なんでアンモニアなんだ?」


「魔物が腐敗臭を放つなら、アンモニアのような刺激臭が有効かもしれません」


 レオさんが続ける。


「化学物質で発煙装置も作れます。アンモニアと硫酸を反応させれば大量の白煙が出ます。それから、神崎さん、マグネシウムリボンは備蓄にありますか?」


 俺は、慌てて備蓄リストを確認した。


「あります! 浄水設備のメンテナンス用に。水処理タンクの防食用マグネシウム陽極の予備部品として大量に購入しています」


「さすが神崎さん、完璧ですね。過酸化水素を酸化剤にして、マグネシウムを燃焼させれば強烈な閃光が作れます」


 レオさんが化学式を書きながら説明する。桐島博士だけ頷いているが、田村さんや陽菜乃ちゃんの目は泳いでいた。もちろん、俺の目も。


「グリセリンと過酸化水素の反応でも、瞬間的な発熱と光が得られます。組み合わせれば、閃光手榴弾スタングレネードに近い効果が期待できます」


「すげぇな、それは使えるぜ」


 田村さんが目を輝かせる。


「それなら、物質化の6個目以降は、戦術の幅を広げるために、閃光手榴弾スタングレネード発煙手榴弾スモークグレネードを考えてたんだよ。レオ君が作ってくれるなら、機関銃や対戦車砲バズーカなんかの重火器に振れるな。まぁ、触ったことがある武器は限られてるがな」


 田村さんは苦笑しているが、本物の対戦車砲バズーカに触れた事があるって、ミリオタのレベルを超えてないか? いや、助かるんだけど。




「麻酔銃での捕獲も検討してもらえませんか」


 桐島博士が控えめに手を挙げる。


「ウイルス研究のためにサンプル採取したいんです」


「麻酔銃か……検討する価値はあるな。戦闘に慣れたらチャレンジしますよ」


 田村さんが請け負った。


 その後、具体的な作戦をいくつか決め、これからの訓練のスケジュールが田村さんから発表された。早速、この後、武器庫に行って防具の試着をするらしい。拳銃の実弾射撃も短時間だが防具を着た状態でやってみることになった。確かに、マスクやゴーグルをした状態と、普通の恰好では、動きも疲労度も何もかも違うだろう。




「最後に、世界への情報発信についてなんですが」


 俺が掲示板サイトの画面を表示する。


「魔物の情報を特別ページで公開しようと思います」


 画面には陽菜乃ちゃんに作ってもらった投稿内容が表示されている。大きく赤文字で注意書きがある。


『これは特殊な情報源からの情報であり、実際と異なる可能性もあります。しかし、万が一に備えて準備することを強く推奨します』


「魔物が現れるということ、噛まれると場所によっては即死、そうでなくてもウイルス感染で死亡する可能性があることも明記しています」


 レオさんが付け加える。


「信じない人も多いでしょうが、準備する人が少しでもいれば、それだけ命が救われます」


「そうですね。各地のコミュニティが自衛手段を検討するきっかけになればいいと思います。塩の弱点だって、前世では気づくまでに3カ月以上かかりましたから」


 俺は投稿ボタンにカーソルを合わせた。


「では、公開します」


 クリックすると、情報は瞬時に世界中へ発信された。




 会議室に静寂が訪れる。全員がディスプレイの掲示板の反応を待った。


『またフェイクニュースか』

『でも詳細すぎて怖い』

『塩を物質化で推していたのはこのためか』

『信じる信じないは別として、備えはしておく』

『うちは12人のうち5人が子供なんだ。有効な戦闘方法を教えてほしい』

『塩も武器も潤沢にある。前回の物質化の教示に感謝する』

『正確な魔物発生時間がわかれば教えてほしい』


 様々な反応が流れていく。


 陽菜乃ちゃんが、突然「あ!」と大きな声を上げた。


「来ちゃったよ、とうとう! 北海道の自衛隊の駐屯地からのDM。どうする?」


 陽菜乃ちゃんがDMのページをディスプレイに映す。


「友好的な文章だ。公式じゃ無さそうだが、魔物の情報が欲しいみてぇだな」


 田村さんが内容を確認する。


「魔物の詳細データと、向こうが知っている自衛隊や政府の情報とを、バーターでもいいかもしれませんね。これからは、情報の価値はお金以上に高くなるでしょうから」


 冷静なレオさんの意見に、俺はチラッとダークウェブのことを思い出した。あそこなら、情報に高額な値がつきそうだが、今はどうなっているのだろうか。陽菜乃ちゃんに後で相談してみよう。


「私の地図アプリも、北海道なら作れるなぁ……必要かな?」


「陽菜乃ちゃんのアプリの気象情報だけでも、計り知れない価値がありますよ。農業でも、火山灰の降灰でも、あらゆることに役立ちますからね」


「今、世界中で気象予報ができるのは陽菜乃ちゃんだけだからな。大災害前の金銭換算なら100億払ってもおかしくねぇぜ?」


「100億円!!! 買えるものがないー! 悔しいーっ!!」


 会議室が、しばらくみんなの爆笑で包まれた。

 珍しく声をあげて笑っていた桐島博士が、気を取り直して発言する。


「それはそうと、ここは民間人も抱えているようですし、できるだけ協力してあげたいですね」


「とりあえず、発信元の位置情報を確認して、向こうだけ顔出しのビデオチャットに応えてもらってからだな。これから、こういったDMも増えるかもしれない。今までみたいな定型文AI返答じゃなくて、なんらかの対応を考えねぇとな」


 魔物討伐だけではなく、少しずつ俺たちの世界も変わりそうだ。




 窓の外では、今日もスモーキーな夕日が海を染めている。この平和な光景が、あとどれくらい続くのか。

 それにしても、情報過多な、長い一日だったな。あ、まだこれから防具の試着か!


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― 新着の感想 ―
 白装束を着て頭にろうそく2本を立ててお経を唱えながら塩を投げつける時には「キエエエエッ!」と叫びながらするのが効果的な戦闘手段です!そして常に運動をして汗まみれになることでただの白装束も最強の防具と…
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