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一人で生き残るつもりだった。死に戻って最強の離島シェルターを築いたら、仲間と未来を作ることになった。  作者: 雪凪
物質化能力の光と闇

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1-28 実弾射撃

※銃の説明は、ご存じの方は読み飛ばしていただいて問題ないです。




 無事に全員の物質化を終えて、事務棟に戻り、桐島親子が作ったキノコパスタと、キッシュのお昼ご飯をみんなで食べた。


「あのね、パスタのシイタケと、キッシュの卵と牛乳とキャベツは莉子がさっき出したのよ? 美味しいでしょ~」


「周りのサクサクのところは、僕の小麦粉と砂糖と塩を使ったんだよ~いっぱい食べてね」


 子供たちがすごく嬉しそうにアピールしているのがかわいい。

 二人がケンカにならないキッシュというチョイスも、さすが桐島博士という感じだ。

 キッシュを一口食べると、確かに普段の冷凍食品とは違う、フレッシュな味がした。子供たちに食品を物質化させたのは、色々な意味で成功だったようだ。


「それにしても、本当に何もないところから出てくるんですね。ここで物質化された分、地球上のどこかで減っているのかしら」


 桐島博士がパスタを食べながら、研究者らしい疑問をつぶやく。


「前世でも、理学部の教授たちが 『質量保存の法則』 について討論していましたよ。まぁ、結論はでなかったみたいですが、ははは」


 俺の答えに、桐島博士が興味深そうに頷く。


「エネルギー保存の法則も破綻していますものね。まったく新しい物理現象なのかもしれません」


「地球上の法則を無視してるよな。あの金属音は宇宙人なのか?」


 田村さんが、素朴な疑問を口にする。


「わかりませんね。宇宙人説、異世界からの侵略説、神様説、未来からのタイムトラベラー説。いろんな想像が出ていたけど、確かめようがないですから」


「だよなぁ」


 田村さんは3杯目のパスタをお替りしながら、何か考え込んでいる。彼の素朴で率直な疑問が、かえってこの現象の不可解さを浮き彫りにしていた。


「でも、本当に助かりますね。これがあれば世界中で食料の心配はなくなりそうです」


 桐島博士が安堵したように言う。


「だが、これから魔物が出てくるなら食料だけじゃ生き残れない」


 田村さんが現実的な意見を口にする。


「そういえば、戦闘訓練の話をしていましたね」


「あぁ、午後からやる予定だ。みんな、昼飯が終わったら準備してくれ」


「えぇぇ、もう~? お腹いっぱいで動きたくない~」


 陽菜乃ちゃんが椅子にもたれかかって不満そうな声を上げる。


「戦闘訓練って、具体的にはどんなことをするんですか?」


 俺が質問すると、田村さんがニヤリと笑った。


「とりあえず撃ってみねぇか? 神崎君と桐島博士は、全く経験がないんだろ? 陽菜乃ちゃんとレオ君も射撃場でやっただけだよな?」


「え? いきなり撃つのですか?」


 レオさんが少し驚いた表情を見せる。


「あぁ、本来はちゃんと座学で、武器の仕組みや安全規則を学んで、ドライファイヤ練習で引き金引く練習してって順番にやるべきなんだけど、時間もねぇし、規則も何も関係ねぇしな。装備なしで、シンプルに撃ってみるんだ」


「えぇぇ、イヤーマフ無しなの?」


 陽菜乃ちゃんが目を丸くする。


「あぁ、無しだ。実際に魔物と戦う時に、大きなイヤーマフなんて付けられねぇだろ。ゲームじゃあるまいし。それに、この島には、安全に試し撃ちできる環境があるからな」


「森林ですか? 確かに開けた場所もいくつかあるけど……」


「違う、海に向かって撃つんだよ」


 田村さんが窓の外を指さした。

 確かに海に向かって撃てば、弾がどこかに飛んでいく心配はない。


「ほら、みんな長袖、長ズボンに着替えてこい。薬莢が飛んでくると火傷するぞ」






 みんなで南の海に向かって開けた広い展望デッキに車で移動する。子供たちはさすがにお留守番だ。

 射撃用ゴーグルだけは付けているが、非常時想定と言うことで、みんな普段着だ。プールの授業で、最初に普段着で飛び込んで、おぼれた時の対処を学ぶ授業みたいなものだろうか。




 田村さんが真剣な表情で全員を見回す。


「これだけは守ってくれ! 弾をこめてなくても、銃は、人にも、自分にも、絶対に向けるな。それから、引き金に指をかけるのは、俺が声をかけてからだ」


 田村さんの言葉に、みんなが緊張した顔で頷く。


「まずは俺がお手本を見せる。拳銃のグロック19からだ。みんなは離れた位置から見ていてくれ」


 田村さんが拳銃を手に取って、海に向かって構える。


「基本姿勢はこうだ。右手でグリップを握って、左手は右手に重ねる。両足は肩幅で、少し前傾」


 田村さんの構えは、さすがにとても安定していてる。


「安全装置を解除して……よし、撃つぞ」


 パン!


 銃声が響く。俺たちの耳にもキーンという音が響いた。


「まぁ、思ったより大きな音ですね」


 桐島博士が驚き、陽菜乃ちゃんは耳を押さえている。


「実際の銃声はこういうもんだ。慣れるしかない」


 田村さんが説明する。


「神崎君から行こうか。他のみんなは合図をしたらイヤーマフを付けてくれ」


 田村さんが俺に拳銃を手渡してきた。


「まず、構えてみろ。そう、左手をしっかり重ねて」


 田村さんが俺の後ろに立って、手の位置を調整してくれる。

 俺は指導された通りに構える。確かに、両手で握ると安定感が増した。


「次に安全装置だ。グロックにはトリガーセーフティがある。引き金の中央部分を指で押し込んでから引くんだ」


 言われて見ると、確かに引き金の中央にある小さな金属片が指に引っかかる。


「照準は、今は海に向かって撃つだけだから、適当でいい。よし、準備はいいか? 落ち着いて、ゆっくり引き金を引け」


 田村さんがみんなに合図を出したのを確認して、引き金を引く。


 パン!


 さっきより近い分、耳がキーンと鳴って、音が少しこもって聞こえるようになった。手首にズシンと反動が伝わってくる。


「おつかれさん。どうだった?」


 田村さんが聞く。


「思ったより反動がありますね。でも慣れれば大丈夫そうです」


 俺はイヤーマフを手にしてみんなのところまで下がる。なぜかみんながハイタッチしてくれた。



 桐島博士が次に挑戦する番だ。


「治療する立場として、銃器の知識も必要ですからね」


 博士は意外にも冷静で、俺よりも上手に撃てているようだった。


「扱いが丁寧で、動作が安定してますね。さすが研究者ってところですか」


 田村さんが感心している。



 次は陽菜乃ちゃんだ。

 最初は少し緊張していたが、撃った後は耳を押さえながらも笑顔だった。


「この拳銃、使いやすい! でも、音はやっぱり辛いかも~」


「実戦では、神崎君が備蓄している高性能両耳通信ヘッドセットを使う予定だよ。銃声はキャンセルされるが、通信と環境音は聞こえる軍事レベルの高級品だ。今日は緊急時の感覚を覚えるために生音なんだよ」



 レオさんはいつものように冷静で、サクッと簡単に撃っていた。


「レオ君は、指導はいらねぇな」


 田村さんも感心している。素人目には、田村さんと変わらないくらいの安定感に見えた。刑事ドラマの俳優さんみたいだ。




「よし、次はショットガンだ」


 田村さんが今度はレミントンM870を手に取る。


「こいつは全然違うからな。銃声は覚悟してくれ。そうだな、あの木のあたりまで、みんな後退してくれ」


 100メートルは離れたところで、イヤーマフ無しで待機する。

 イヤーマフを付けた田村さんがショットガンを構える。さっきのグロックよりもずっと大きくて重そうだ。


 ドンッ!


 さっきのグロックとは比較にならない轟音。


「うわあああ!」


 陽菜乃ちゃんの叫び声だけが微かに聞こえるが、他のみんなが何を言っているのかほとんど聞こえない。5分以上たって、やっと聞こえるようになってきた。


「こんなに大きな音なんて……聴覚保護は必須ですね」


 桐島博士も驚いている。


「ははは、映画では脚色されてますからね。でも威力は抜群ですよ」


 イヤーマフを外した田村さんが、笑いながら戻ってきて構え方を教えてくれた。


「ここ、ストックをしっかり肩に当てる。頬もストックに密着させる。これをやらないと、反動で顔を打つんだ。足の位置は、右足を少し後ろに引いて。反動に負けないように踏ん張る。グロックの10倍は覚悟してくれ」


 そして、安全装置を見せてくれる。


「安全装置はトリガーガードの前にあるこの赤いボタンだ。押し込むと解除される。今日は俺が操作するから触らないでくれ。俺が肩を叩いたら撃つんだ。じゃあ、神崎君からいくぞ。今回は、みんなイヤーマフを付けておいてくれ」



 俺は改めてショットガンの重量を感じながら言われた通りに構える。

 拳銃とは全く違う感覚だ。田村さんが俺の姿勢を細かく調整してくれる。

 そして、俺のイヤーマフを少しずらして、アドバイスをくれる。


「いいか、しっかり構えて、息を吸って、半分吐いて止める。そのタイミングで引き金を引くんだ。準備はいいか?」


「はい」


 田村さんが、俺のイヤーマフを直す。それから銃の安全装置を外し、俺の肩をポンッと叩いた。

 俺は緊張しながら呼吸に集中して、息を止めて引き金を引く。


 ドンッ!


 微かな音と共に、肩に強烈な衝撃が走る。拳銃とは比較にならない威力だ。俺は後ろによろけそうになったが、なんとか持ちこたえた。

 田村さんに銃を取り上げられて、イヤーマフを外す。


「……これはすごいですね」


「どうだ? 肩は大丈夫か?」


「正直、痛いです」


「ショットガンの反動に慣れておけば、拳銃なんて子供の玩具みたいに感じるぞ」


「確かに……魔物相手だと、この威力は頼もしいですね」


「だろ?」


 田村さんがニカッと笑った。




 桐島博士は見学し、陽菜乃ちゃん、レオさんは順番にショットガンを撃った。


「私、腕がプルプルしちゃった~。実戦では無理っぽいなぁ」


 陽菜乃ちゃんが腕を振って見せる。

 レオさんは、問題なく涼しい顔でサクッとこなしていた。





「最後はクロスボウだ。これは音が静かだから、イヤーマフは必要ないぞ」


 田村さんが今度はクロスボウを手に取ってお手本を見せる。


「クロスボウは銃とは全然違うからな」


 これまでの火薬を使う武器とは全く異なる、機械的な美しさがある。


「安全装置はこのレバーだ。『セーフ』の位置から『ファイア』に回す。弦が張ってある時は絶対に安全装置を解除するなよ」


 カチッとレバーが動く音がした。


「矢の装填は、こうやって弦に矢の末端を引っ掛ける。ちゃんと溝に沿って真っ直ぐ置くんだ。最初は俺がセットするから、撃つことに集中してくれ。慣れたら自分でやってもらう。見本はいらんだろうから、神崎から撃つぞ」


 田村さんが手際よく矢をセットして俺に渡してくれた。


「構え方はショットガンと似てるが、前が重いからバランスに注意してくれ。照準がちょっと違う。スコープが付いてるから、覗いてみろ」


 俺はスコープを覗いてみた。十字の照準線がはっきりと見える。


「クロスボウは弾道が放物線を描くから、距離によって狙点を調整する必要がある。例えば、50メートルぐらいだと、少し上を狙う感じだ」


「撃ち方は?」


「銃と同じだ。トリガーをゆっくり引く。ただし、引き金が軽いから注意しろ」


 俺は構えを整える。ショットガンよりも気持ち軽くて扱いやすい感じがする。


「準備はいいか? よし、撃て」


 パシュン!


 矢が海に向かって美しい弧を描いて飛んでいく。


「音が小さいね~!」


「そうだ。それがクロスボウの最大の利点だ」


「反動も全然ないし、扱いやすいです」


「ただし、連射ができない。一発撃ったら、また手動で矢を装填する必要がある。緊急時には時間がかかるのが難点だな。弦を引いて固定するコッキングは、補助具を使っても力がいるしな。夜間や静音偵察のような特殊任務用って感じだ」




 桐島博士、陽菜乃ちゃん、レオさんも順番にクロスボウを撃った。音が静かなので、みんなリラックスして撃てているようだった。


「これなら私でも使えそうです」


 桐島博士が安心したような表情を見せる。


「クロスボウ、楽しい~! もっと撃ちたい!」


 陽菜乃ちゃんは興奮しているが、田村さんに触ってはいけない場所を厳しく注意されていた。




「お疲れさま!みんな、思った以上に形になってたな」


 田村さんが満足そうに頷く。


「明日からは本格的な訓練を始めるぞ」


 田村さんが詳しく説明を始める。


「まずは、基礎射撃訓練。5メートル先の的を狙って命中率を上げる練習だ。慣れてきたら距離を増やす。目標は10発中8発以上の命中率だ」


「それから、動的射撃訓練。VRシステムを使って、動きながら魔物を撃つ訓練をする。歩きながら、しゃがみながら、色々な姿勢での射撃を覚えてもらう。陽菜乃ちゃん、コントローラーを本物の拳銃に変えたいから手伝ってくれ」


「わかったー! センサーを銃に取り付けて、トリガーにスイッチ仕込むだけだからすぐできるけど、反動の再現は難しいかも……いや、振動だけなら?」


「おいおい、そこまでは期待してねぇよ。できたら怖えぇだろ」


 思わず、みんなで笑ってしまう。


「メンテナンスはみんなに覚えてもらう。分解清掃の方法、弾詰まりの対処法、簡単な修理技術」


「すごく本格的ですね……」


 レオさんが呟く。


「生き残るためには必要なことだからな。でも段階的に進めるから心配いらねぇよ。最初はゆっくりやって、慣れてきたら徐々にレベルを上げていこう」


 田村さんが笑顔で説明する。


「神崎君が、魔物の弱点をしっかり教えてくれたし、明日からは、射撃訓練と一緒に戦術の打ち合わせも始めよう」


 俺は安心した。前世の日本刀より、銃の方が魔物の弱点を突きやすい。


「物質化能力も獲得できたし、銃の扱いも覚えられそうだし……なんだか素人の俺でも本当に魔物を倒せそうな気がしてきました」


「みんなで協力すれば、絶対に大丈夫だよ~!」


 陽菜乃ちゃんが元気よく拳を上げる。


「弾薬が尽きることもないし、必要な武器をその場で作ることもできる。こんな有利な条件、滅多にないな。よし、今日はここまでだ。明日からも頑張ろうぜ」


 田村さんが締めくくる。




 海風が心地よく、仲間たちの笑い声が響いている。

 魔物との戦いに怯むことなく、みんなの士気は高かった。

 これだけの準備があれば、きっと大丈夫だと、俺も心の底から安心していた。




 ──そんな楽観的な気持ちで事務棟に戻った俺たちを、過酷な現実が待ち受けているとも知らずに。




タイトルの番号を途中から変更しました。内容は、変更ありません。

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― 新着の感想 ―
子どもがいるってだけで雰囲気が和らぐからいいよなぁ 過酷な現実って、何が来るんだ、、
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