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一人で生き残るつもりだった。死に戻って最強の離島シェルターを築いたら、仲間と未来を作ることになった。  作者: 雪凪
本土脱出と避難生活の始まり編

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1-18 島内見学ツアー(後半)

 続いて、工房群を案内した。


「こちらは陶芸工房、ガラス工房、木製品工房、彫金工房……」


「本格的な設備だな。旋盤もフライス盤もあるのか。お、あれは高温窯か?」


 田村さんが、工房の窓から覗き込んで、ウキウキしている。


「将来的に、様々な物の製造ができるよう準備しました。リゾート施設の長期滞在者向けのアクティビティを作るという説明で」


「神崎君は、22歳だっけ? 恐るべき用意周到さだな」


「前世も入れたら25歳ですよ。 『長期滞在客用』 と言えば、だいたいの誤魔化しが効くので便利なフレーズでしたよ、ははは」


「なるほど、考えたな」


「この工房も、『VIP向け特別体験』『職人による本格指導』『他では体験できない贅沢』という風に、豪華パンフレットでアピールしてたんですよ」


 島の準備も、本土拠点の準備も、誰にも本当の目的は話せなかった。今、何も気にせず本当の用途が説明できて、俺はかなりの開放感を味わっていた。




 倉庫群では、大量の備蓄品を確認してもらった。


「常温保存の食料、日用品、工具、資材……10人が10年暮らせるくらいの量を確保してあります」


「これはまた……実際に目で見ると壮観ですね。後でリストをいただけるんですよね?」


 レオさんが、あちこちを撮影している。


「皆さん、在庫管理は今後、とても重要になります。とりあえず、物品の持ち出しは自由としますが、無駄使いはしないでください。それと、出入り口の横にスキャナーがあるので、自分の名前を選んだ後にバーコードを読み込んで、持ち出し個数を入力してください」


 俺は重要な説明をしているのに、女性陣は全く話を聞いてくれなかった。


 奥の棚を覗き込んでいた陽菜乃ちゃんの叫び声が響いてくる。


「うわあああ!! リプモン全色揃ってるぅぅぅ!!!」


 桐島博士も珍しく目を輝かせて駆けていく。


「あら、本当! それにこちらの棚は……ドメブラの基礎化粧品ね。デパコスほどじゃないけど、このシリーズなら合格かしら」


「うそ! この美容液、使ってみたかったやつ!! これ10mlで15,000円するんだよ!!」


 陽菜乃ちゃんが興奮して桐島博士に見せている。


「これは製薬会社開発の美容液ね。原材料は……なるほど、これは冷蔵保存したほうがいいわ。全部、事務棟に移動させましょう」


 桐島博士が箱ごと抱えた。




「……おい、神崎君。何で化粧品まであるんだ?」


 二人の興奮ぶりを見て、田村さんと俺は顔を見合わせた。


「……ドラッグストアで売っている商品を、一式まるごとフランチャイズ契約で発注したただけなんですけど」


 レオさんが苦笑いしている。


「女性の美意識は、非常時でも健在ということですね」


 田村さんが小声で俺に囁く。


「化粧品がそんなに大事なものだとは知らなかったぜ……あの桐島博士まで……」


 いつの間にか男の子用子供服と靴をしっかりと抱えた悠真くんが、不思議そうに呟く。


「……ママとお姉ちゃん、なんでキャーキャー言ってるんだろ」


 莉子ちゃんは興味深そうに二人の傍に行っている。


「ねぇ、ママ。私も使っていい?」


「莉子にはまだ早いわよ。でも、そうね、リップクリームならいいかしら……」


 その後10分ほど、二人のコスメ談義が続き、男性陣は完全に置いてけぼりだったが、先に進もうと促す勇気は誰にもなかった。




 次の施設に移動途中で、山羊小屋にも案内した。


「わあ! ヤギさんがいる! 5匹も!」


 莉子ちゃんが興奮して手を叩く。


「白いのと黒いのと、白黒のがいるね!」


 悠真くんも嬉しそうに見ている。


「昨日の夜、この小屋に入れましたが、火山灰の清掃がある程度進んだら、山羊を電気柵内の放し飼いに戻します。将来的には完全放牧の畜産を考えて導入しました」


 子供たちは夢中になって、しばらく見つめていた。

 いざという時は食料にするとは、絶対に言えない雰囲気だった。




 建設資材や重機用の仮設テント式の大型倉庫にも案内した。


「ここは 『リゾートホテル本館建設準備用』 と偽装して備蓄しました。RC5階建のための建設資材、重機、簡易コンクリートプラント、大型工具なども保管しています」


「これだけあれば、島の改造もやり放題だな」


 田村さんが感心している。


「建築資材の他に、既存建物の修理・メンテナンス用部品、防御・要塞化用の鉄格子や強化扉、防弾ガラスなども用意してあります」


「足場の資材もあるし、ドラム缶、有刺鉄線、ブルーシートまで大量にあるじゃねぇか。これは魔物との戦いで役に立ちそうだ」


「災害後は、もう二度と大きなものは島に運搬できないので、できるだけ揃えたつもりです」


 レオさんと並んで、田村さんまで写真を撮り始めた。



 俺は、スチールラックに並んでいる、施行会社や職人さんのヘルメットや安全帯に、心の中でそっと手を合わせた。




 次は、娯楽棟の案内だ。

 ここはみんなに喜んでもらえるだろう。


「1階はジムとスカッシュコート、更衣室などです。温水プールもありますが、申し訳ないけど使用禁止です。2階はシアタールーム、図書室、ビリヤード・ダーツ室、音楽室、カラオケルーム、ボドゲラウンジなど。他にもいくつかのスタジオがあります」


「筋力維持にも運動は大事だわ。あら、音楽室にはピアノやドラムも置いてあるのね? 悠真、あとでピアノの練習をしなさい」


 桐島博士は、図書室の蔵書なども確認して、すぐに子供たち用に数冊を選んでいた。

 みんな、それぞれに興味がある部屋を楽しそうに覗いているのを見て、俺は満足していた。すべては 『長期滞在客用』という魔法の言葉で用意してきたものだった。




「皆さん、集まってください。ここがゴルフシミュレーション設備です」


 俺は広めの部屋に案内し、特別な機器を指差した。


「ここは、射撃訓練のシミュレーションにも転用できるようにしてあります」


 その瞬間、全員の表情が変わった。息を呑むような沈黙が流れる。これまでは、楽しいリゾート施設見学という雰囲気だったが、本来の目的を思い出したようだ。


「射撃訓練……」


 田村さんが呟く。


「魔物との戦いに備えて、ここではVR対応のシミュレーションができるようにしてます。隣のスカッシュコートは格闘訓練に転用できるように、床材を交換できる仕様になっています」


 子供たちが音楽室で遊んでいるのを確認して、映像を少しだけ流す。前世の魔物の記憶を再現してもらったものだ。黒い犬のような素早い動きの魔物や、茶褐色で腕が異常に長い人型の魔物が映る。


「これは……すごいですね。神崎君……本当にすごいですよ」


 レオさんが、珍しく動揺して、動画を撮りながら呟いている。


「対魔物に関しては、俺もいくつか作戦を考えてるよ。あと9日後だよな?」


「はい。このシミュレーションの魔物の動きは、前世の記憶通りにしています。魔物の詳しい情報も後で渡しますね」




 娯楽棟の外の施設も案内した。


「屋外プール、テニスコート、バーベキューエリア、アスレチックエリアそして温泉施設もあります」


「温泉まであるの! えぇぇ、普通にリゾートで滞在したかった~」


 陽菜乃ちゃんの正直な言葉に、思わずみんな笑ってしまい、先ほどの緊張した空気が和らいだ。




 最後に、事務棟に戻って詳しい案内をした。


 まずは、地下のサーバールームを案内する。すでに陽菜乃ちゃんの色々なよくわからない道具が置かれていた。大きなリュックに入っていたのはこれらだろうか。


「私のアリスを育ててるんだ~」


 陽菜乃ちゃんがウキウキと楽しそうにPCの画面を確認している。


「アリスって昨日も言ってたよね?」


「私が開発しているAIアシスタント。まだ簡単な応答しかできないけど、ここの演算環境と膨大なAIの学習データがあれば、すぐに大幅性能向上できそう!」


「それは助かるな。このサーバールームのデータを活かすためにAIがほしいと思っていたんだよね。大手のAIサービスは全部、止まってしまったから」


「いや神崎君……この子、いったい何者なんだ?」


 俺たちの会話を聞いていた田村さんが、若干引き気味に聞いてくる。


「私は女子高生ハッカー☆だよ! きゃぴっ!」


 陽菜乃ちゃんが、よくわからないポーズを決めている。と、思ったら、すぐに桐島博士に声をかけている。


「桐島ママ、莉子ちゃんと悠真君の教育プログラムを作ろっか? アリスが先生になって、楽しくお勉強できるようにするよ~。学習指導要綱のデータもバッチリこのサーバに入ってるから!」


「まぁ、陽菜乃さん! それは本当に助かるわ。毎日、テレビばかり見せるわけにもいかないし、どうしようかと悩んでいたのよ」


「任せて! 桐島ママと二人のためなら、頑張っちゃう!」


 桐島博士が、陽菜乃ちゃんの手を両手で握って喜んでいる。化粧品から、この二人がグッと仲良くなった感じがする。田村さんは、さらに引いている。




 1階に戻って、事務棟に繋がっている増設棟の医務エリアに案内する。

 桐島博士は、すぐに設備を確認し始めた。ここは独立空調・換気になっていて、完全に事務棟とは区画を分離している。実験室や培養室がある研究室エリアと、外部から直接出入りできる専用入り口を持つ処置室や負圧管理された隔離病室・薬品庫などの医務室エリアがある。

 休憩室は大きめに作っておいたので、子供たちと一緒に寛ぐこともできるだろう。




 続けて、玄関の風除室内の横の扉を開けて除染室を案内する。

 魔物の血液や体液がウイルス源になるため、施設内に持ち込まないよう徹底する予定だ。まずは全身を包むように除菌エアシャワーが起動する。圧搾空気に混じって霧状の除菌剤が吹き付けられ、防具や銃器に付着した汚れを叩き落とす。エアシャワーが止まると、UV殺菌灯の通路を通って、温水シャワーブースへと移動し、全身を洗浄して着替えてからロビーへ出る設計だ。この区画の排水や空調・換気も別系統に分けている。

 工事の時は 「俺の趣味なんだ。こういうのに憧れてたんだ。見逃してくれ!」 と頼み込んで作ってもらった。あの時の、現場職人やうちの社員たちの冷たい視線を思い出す。


 田村さんが、「ほう」 「なるほど」 と言いながら、あちこちを確認している。


「コロナの時もそうだったが、全身防具は感染経路を断つために、脱ぐ順番が大切なんだ。除菌エアシャワーも60秒以上、正しい姿勢で回転しながら浴びないと意味がない。武器の初期クリーニングスペースや、防具の個人ロッカーも必要だ。俺が少し改築して、マニュアルを作るよ」


 田村さんの顔は、今までで一番真剣だった。


 無理言って、恥かいて作ってもらってよかった。




 食堂で、みんなでお昼ご飯を食べることになった。

 2階の共用スペースは、見てもらえばわかるので特に案内はしなかったが、食堂には6人テーブルが6セット、海が見える窓際のカウンター席、掘りごたつ形式のテーブルが3台並んだ畳を敷いた小上がりなどがある。

 ラウンジには、座面がバカでかい20人くらい座れるソファセットやマッサージチェアが並ぶ。他にも半個室のコワーキングスペースや、小会議室などもある。

 みんなが、それぞれに島の感想を楽しそうに話していた。たまに「魔王様」という単語が聞こえてくるのは気になるが、基本的に好評だったようだ。






 島のあちこちに思い出が詰まっていた。

 明るい笑顔、呆れた笑顔、冷たい笑顔、爆笑する笑顔。島中に色んな人の笑顔が溢れていた。


 現場監督、職人の皆さん、俺の案内はどうでしたか?新しい仲間は、感心したり、驚いたり、島の施設を楽しんで利用してくれそうでしたよ。監督アイデアの葉巻が並んだシガールームは、みんなスルーしてましたけど、これから喜んでくれる仲間が増える可能性もありますよね。


 ── 今、すごく貴方たちと乾杯したい気分です。



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