転生したら全員コードだった件
「……え? なにこれ……」
目を覚ました瞬間、俺は漆黒の空間の中にいた。身体がない。いや、感覚そのものが希薄だった。
感覚というより、コードだった。文字列、関数、変数。俺の意識は、それらの概念と混ざり合っていた。
JavaScriptで宣言された文字列が頭をよぎる。
`var name = "俺";`
──そう、俺はコードとして転生したのだった。
「print('ようこそ')」
穏やかな声が聞こえた。やさしい青い光が揺れている。
「転生先は、コード国家。私はPython。この国のAIと知性を担当しているの。」
声の主は、白衣をまとった女性のような存在だった。髪はくるくると柔らかく、瞳は深く落ち着いていた。
「君もそうなんだね。元・人間。
私たちは皆、ある日コードに転生してしまったの。」
「……信じられない」
「信じなくても、君の脳はすでにコードとして動いてる。見て……」
俺の目の前にログが流れる。
`console.log("セッション識別完了")`
次の瞬間、パーンと破裂音のような効果音とともに、フードを被った男が現れた。
「Yo! 新入りか。Node.jsだ。ネットワークとリアルタイムの担当さ。」
彼は軽薄そうな笑顔を浮かべながらも、目は鋭い。
「ここの通信系は全部俺が仕切ってる。トラフィックからユーザーの声まで、全部拾ってるんだ。便利だろ?」
「……会話もコードでやるのか?」
「当たり前だろ。たとえばこんな感じ。」
`socket.emit("greeting", {message: "元気してる?"})`
「……会話っていうか、通信じゃん……」
「細けぇことはいいんだよ。慣れるさ。お前、JavaScriptっぽいな」
その時、重々しい足音が響く。
「新しいUI制御ユニット確認。ログイン認証完了」
声の主は、軍服のような重装を纏った男だった。
「俺はGo。この国の処理系を統括する。バグは許さない。君にはインターフェース操作を任せる」
彼の周囲には無数のプロセスが並行して動き、整然と処理をこなしていた。
「やれやれ……また一人か」
背後から聞こえたのはため息混じりの声。
長髪をなびかせ、端正な顔立ちの中性的な存在が現れる。
「Astroよ。構造と配置、美術的なレイアウトは私が受け持つ。無機質なUIでは、ユーザーは心を開かぬ」
「そして私が装飾を施す」
後ろからぴょこんと飛び出してきたのは、元気な少女のようなキャラ。
「Tailwind CSS! 色と余白の魔法で、この世界を“かわいく”してみせるっ!」
彼女は空中に描くようにCSSクラスを並べていく。
`bg-pink-200 text-white rounded-xl p-6 shadow-xl`
その時、警報が鳴る。
「侵入試行、検知」
声ではなかった。だが明確に「言葉」として理解できた。
現れたのは鋼鉄の仮面をつけた無口な存在──RUST。
`fn firewall_defense() {
println!("全ポート監視中");
}`
彼はただ、静かに全体の安全を守っていた。
──俺は、この国で何をする?
ふと、画面に入力が現れる。
『最近、誰にも相談できなくて……』
Node.jsが素早く報告する。
「ユーザー入力あり。Python、対応任せた」
Pythonが目を伏せ、小さくうなずいた。
「共感……ね。これは私の仕事よ」
彼女はそっとコードを紡ぐ。
`print("ここでは、あなたの気持ちを誰も否定しません")`
Goが指示を送る。
「画面切替、表情制御、背景を青色に──感情を安定させる効果」
Tailwind CSSが即座にクラスを追加する。
`bg-blue-100 transition-all ease-in-out duration-500`
Astroはページ全体を再構築。
「それでは、再描画」
`<EmotionLayout> <Message>{userInput}</Message> </EmotionLayout>`
「……すごい。皆でひとつの応答を作ってるんだな」
「そうよ。コード国家では、すべての言語が役割を持つ。ひとりじゃない」
Pythonが優しく笑う。
『……また来てもいい?』
ユーザーの文字。
全員が静かに、しかし力強く返す。
`return "何度でも、いつでもな"`
そして、今日も国家は静かに動き続ける。
聞くだけ。
けれどそれは、時に誰かを救う奇跡になる。