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歪んだままで

作者: 当麻 入

 私は、愛というものが分からない

 もしかすると、見えない愛情を注がれていたのかもしれない。

 生まれてから21年間ずっと愛されたかった人たちから、愛していると、あなたが大切だと、確信できる言葉をもらったことは一度もなかった。曖昧で不安定な、愛と呼べるのか分からないものなんかじゃなく、定義づけられた美しい言葉が欲しかった。


 気遣いは同じ境遇を生きた人間にしか気付かれない。自分を擦り減らせど、報われることなんてない。無下にされて、はじめて傷ついたことを知る。

 生まれたことを祝ったって、それが返されることなんてない。愛を投げたところで、愛を投げ返されることが一度でもあったか?


 そんな幸福を私が味わえるわけがないのに、また期待してしまった。来る年、毎度のように期待して、絶望して、また期待して。


 好意を詐妄され、相手に感情を盗まれることをひどく恐れるようになった。


 例えば、地域猫のように、色々な人から餌付けされている猫がいて、私は毎日同じ時間、場所で餌をあげている。私はそのとき、その猫に何を求めているんだろうか。他の人から餌付けされ、私にしか見せないと思っていた鳴き声や癖を、その人も知っていると気づいたとき、私は何を感じるんだろうか。

 その猫が多くの人間と関わりがあることは最初から分かっていた。しかし私はどこか特別だと、そう思いたかったのだ。

 そうやって愛の勘違いを繰り返して、ひとり泥沼に沈んでいく。3歩進んだと思った距離は、実際には1歩も進んでいなかったし、それは体の物理的な距離に過ぎなかった。それでも、そのときだけは馬鹿なフリして一時的な愛に身を委ねる。まるでドラッグのように、己が身の快楽に溺れるのだ。


 愛してほしいと願う人は、冷たくて色のない私には振り向かず、強い光を放つ愛に溢れた誰かを追っていく。人生そんなことの繰り返しで、好意のない相手からもらう愛ほど気持ち悪いものはないと、そう言い聞かせた。零れ桜の花びらのように、あなたに与えた多くのものが散っていく。私はその姿を美しいと眺めることしか出来ない。


 顔も体も心も、全て醜く、汚れている私は日を追うごとに人間とはとても言えぬ怪物になる。街に出るたびに人間のふりをして、こんな私でも愛してほしい、などと怪物らしからぬエゴに塗れる。昔から自分の欲が嫌いだった。湧き上がる感情は許されるものではないと理解していた。芽吹く度に摘み取り、燃え上がる度に消していった。他人には偉そうに「持っちゃいけない感情なんて存在しないんだ」と講釈垂れるくせにに、自分が持つ途端に許せなくなるのだ。


 私は常に自分を外側から見ている。街を歩くにしても常に自分を俯瞰し、誰かに見られていることを意識する。その異常なまでの客観視が正常な視界を曇らせている。私の愛されるべき部分が靄にかかり、醜い部分だけを映すのだ。


 想いをまっすぐに表現できる人を見ると、

私は、自分の矮小さに絶望する。

力のなさに、くだらなさに。


 痴情に心を奪われ、「私にも可惜夜がくる日があるのかな」と詩を歌う。許容できる耐性を超え、身体中に蕁麻疹ができても尚、あなたを想う。いくら叫んでも届かない。愛を知らない者が、愛を授かるなど、無理だったのだ。



【縺セ縺?繧?j逶エ縺帙k蜷帙◆縺。縺ク】


 自分を偽る癖がつくと、相手の求める"私"になります。自分が分からなくなって、ただただ涙を流す日々が続きます。感情を外に出すことを恐れると、次第に自分の感情は負のものだと、そう思い込むようになります。大好きな音楽でも救うことの出来ない自分が勝手に確立します。あの人のために、と決めた行動も結局何も届かず、自分が傷つきます。言葉にしても届かず、夜が耐えれなくなります。心の靄を、アルコールで消す度にひとりであることを再確認して、腐っていきます。理想はただの理想で低く見積もったそれでも、予想だにしない、夢のような感覚が襲い、世界で1番醜い私になります。


 今はただ、自分を可愛がってください。私が出来なかった、"自分のために生きる"という人生の主題を第一にして下さい。自分が自分じゃなくなるとき、息を吸うことさえも苦痛になります。本当のあなたを見つけてくれる人なんていないかもしれないけど、ありのままで踠くしかないです。手を差し出すのは未来の自分しかいないです。どうしても辛いなら、悲しむ人がいないうちに捨てて下さい。1人でも悲しむ人がいるとそのジレンマがもっと足枷になります。ユートピアに行く道は、ずっと孤独です。判断は早めに、もう誰も傷つけないで。


 そして、自分が傷つきたくないなら、誰も信じないことです。相手に自分を任せることは大きな期待と不安が募ります。嫌なものには、見たくないものは、蓋をして下さい。自分を硬い殻に閉じ込めて下さい。不幸せが常態だけど、稀に訪れる幸せを噛み締められます。争ってもないのに心が血だらけになることなんて、もうない。期待は悪です。生きるうえで1番いらない感情です。他人を不用意に傷つけることさえあります。裏切られた、と思うこともなくなります。周りと違う今に悩んでも、どうせ死ぬときは全員1人です。みんな孤独に人生が終わる。自分が生きた証を残すことができないなら、何年生きたって変わりません。


 愛されなければ、人の記憶にすら残りません。

人の記憶に残らなければ、生きてる意味はありません。


 だから、早く諦めて下さい。

その人がいないと生きていけなくなる前に、

存在したか分からない愛を盗まれる前に。

いつまでも、歪んだままで。


 今日は、厚い雨雲が空を覆って、永遠の雨が今にも降りそうです。未来を期待したせいで。明日かもしれないそれを、君がどうにか止めてほしい。


 私はもう少しだけ、生きていたい。

どうしようもない私でも、

未來が愛しくて、恋しい。

君に返してもらってから、

その先は考えよう。



 返されることはないのに、

そうやって、また期待する。


【愛】あい

 相手が自分より幸せであってほしいと祈ること。

 縛られ、不自由になって、初めて感じるもの。


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