ずっと頭をぽんぽんしてね
「おはよう」
私はいつでも貴方のそばにいた。
私が貴方を起こすと、まだ眠そうな顔をして私の頭をぽんぽんしてくれるの。
私はそれが幸せだった。
「今日もいい天気だね」
私は貴方と二人で過ごすこの生活が、何よりも大切だった。
私の昔の記憶はもう薄れてきてしまったけれど、貴方が居ればそれだけでいいの。
貴方は私を強く望んでくれて、だから私はここに居て。
ねえ、愛してる。ずっとずっと、貴方が好き。
もっと頭をぽんぽんして、朝のおはようだけなんてイヤよ。貴方に沢山触れたいの。
貴方に沢山、愛されたいの。
けれどある日、貴方は起きなかった。
何度起こしても起きないの。これはきっと只事じゃないのに、その時の私は何も出来なくて、けれど、声を出せるようになってからいっぱい叫んだわ。ずっとずっと叫び続けた。
だけど誰も来てくれなくて。どうすればいいか分からないの。
ねえ、私はここから動けないから。誰か、誰かこの人を。起きてくれないの。
叫ぶ力も無くなって、私は目の前で姿が変わっていくのを見守る事しか出来なかった。
それから少しして、知らない人が家に来たみたい。
何で今更来るの、もうイヤよ。私とこの人だけの部屋に来ないで。
その扉を開けないで。
「ん〜…?………うわああああああ!!!?」
入って来たおじさんは、彼を見て叫んだ。
失礼な人ね、私の大切な人を見てそんなに絶叫するなんて。
それからは沢山の人が来たわ。
ねえ待って来るのはまだいい。けれど彼を何処へ連れていくの?
待って!その人を連れて行かないで!
イヤよ、イヤなの!私はその人とずっと一緒に居るの!声が出なくなってもその人はずっと一緒に居てくれたの!私も何があっても一緒に居るの!
誰も居なくなってしばらくしてから、知らない女たちが来た。
誰よ貴女たち!私と彼の愛の巣に入って来ないで!
「本当にあの子ったら……最後まで迷惑掛けて…」
「でもさお母さん、今アニメのグッズとか高いらしいし、残ってるの売れば良いんじゃない?迷惑料としてお兄ちゃんから貰っても問題無いでしょ」
あら?お母様と妹さんだったのね、彼とお付き合いさせてもらっている……あれ、私の名前は何だったかな?
あの人が私を連れ出してくれた時の事は覚えてるの。見世物にするような場所から、沢山のお金を使って私をすくい出してくれた。
その時のあの人の顔は永遠に忘れられない。とても嬉しそうな顔で笑って、大切そうに抱き抱えてくれたわ。
だから私はここであの人が帰って来るのを待つの!
「あ、ほら!これとか今人気のアニメのDVDセットだし、売れそう!あのケースに入ってる人形も売れると思う!ああいう人形って高いらしいし」
いつかああいうお洋服を着てみたいなと思っていた人形を、妹さんはケースから取り出した。
「うん、やっぱりフリマアプリとかオークションで高く売れてるの多いよ」
「なら、最後の荷物の処分代くらいにはなるかしらね…」
お母様と妹さんは、部屋の中から沢山の物を持ち出した。
「価値が付きそうなものはこれくらいかな」
「じゃあ、あとは業者さんにお願いしようか」
彼の大切な物が無くなった部屋で、私はただ、彼を待つ。
いつまでも待ち続けるの。
それからしばらくして、また知らない人たちが来た。
おじさんと、若い男の子。
「もう残ってる物は処分しちゃっていいらしいぞ」
「え、けっこうオタク心刺激するような部屋ッスね。いいなこれ」
「遺品でも良けりゃ持ち帰っていいぞ、大金とかでない限りはな。許可は取ってるし」
「遺品なぁ……まあ、暑い時期じゃなかったしにおいが無いってのは良いッスね」
だぁれ?貴方たちは。それは彼が好きだったアニメのゲームよ、持って行かないで、彼が泣いちゃう。
私はもう声を出せないから、一生懸命「持って行かないで!」と念じる事しか出来なかった。
念じてたら、男の子が私の目の前にやって来た。
「あ、これ…」
ちょっと!触らないでよ!
「ん?その目覚まし時計がどうかしたのか?」
「や、これ、昔流行ったアニメのやつで、ゲーセンの景品だったんですよ。けっこう似たようなグッズとか沢山出てたから、特定の時計とか今ネットで探してもなかなか無くて」
「ほう、好きなのか?」
「まあ、ネットで探しちゃうくらいには。これ、このキャラと絵柄が凄い好きで……でも動いてないなこれ」
私を覗き込むのはやめてよ!アンタの顔なんて至近距離で見たくない!
「電池切れなだけじゃないか?目覚ましセットしてても止める人間居なかっただろうしな」
「あー…ありえますね。ウチの子にしちゃおうかな!」
イヤよ!イヤ!やめてよ!
「お前の元の持ち主、死んじゃったからもう起きて来ないんだよ。明日からは俺を起こしてくれな?」
……?死んだ?ねえ、死んだってなぁに?死んだって、壊れたって事?何で?前の夜まで沢山ゲームしてたのに。ねえ、死んだの?壊れたの?
私が混乱している間に、私は男の子の家に連れて行かれた。
「電池入れてっと……お、動いた」
やだ!やだやだやだやだやだやだ!!!!触らないでいやだあの人がいいの彼がいいの彼が死んだなら私も死ぬのお願い私を壊して触らないでいやいやいやいや!!!!!!
「明日の朝、よろしくな!」
いやよ、お前なんか起こしたくない。私を殺して。ねえ、壊して。
いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!!!!!!壊して殺して壊して殺して何でねえ壊して壊して壊して壊して殺して私をあの人と同じ場所に連れて行ってお願いお願いお願いだからねえ誰か
「………ひっ」
目を覚ました男の子は、泣きそうな顔をしてたわ。
せっかく起こしてやったのに何でそんな顔してるのよ。私が泣きたいの。泣きたいのに泣けないの。ねえ、きっとお前には分からない。泣きたくても泣けないの。
男の子は私の背中を開けてから、タオルでグルグル巻いて真っ暗な所に入れたみたい。
何で?起こしてやったじゃない。
明日もちゃんと起こしてやるから。
ちゃんと毎日毎日起こした。
私は毎日毎日壊れたかった死にたかったあの人と同じ場所に行きたかった。
大好きなあの人と一緒に居たいの。
「これ!これを!お願いします!」
久しぶりに明るい場所に出たと思ったら知らない場所だった。
ここはどこ?
知らない場所で、黒い服……着物?を着たおじさんと、男の子は何か話してる。
しばらく話してから男の子は
「それじゃあ、どうかお願いします…!」
そう言って知らない場所から男の子は出て行った。
「しかし、人の形の物に魂は宿るとは言うが…」
ちょっとおじさん何でそんなに見るの?そんなに私を見つめても私はあの人の物よ?
「お前さん、持ち主に愛されてたんだろうなぁ」
当然よ!あの人の一番だったんだから!
「あの世でも持ち主の人を起こしてあげな」
おじさんが何か唱え始めて、私はだんだん眠くなってきた。
何だか気持ちいいわ、よく分からないけどありがとうおじさん。
「ん?まさか棺桶に入れてくれたのか?」
会えた!やっと会えた!!お願いまた頭ぽんぽんってして?
「初めてクレーンゲームでガチになって取ったからなぁ、長い事俺を起こしてくれてありがとな。こっちでもよろしく」
優しく頭をぽんぽんしてくれた。嬉しい。幸せ。貴方の声を聞けたのが嬉しい。その笑顔を見れたのが嬉しい。幸せなの。大好きなの。愛してるの。
私はずっと、毎日毎日貴方を起こすわ。
だからこれからも、優しく頭をぽんぽんしてね。
この作品のジャンルは何になるのでしょう。
恋愛にしましたが違うような気もします。




