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二の巻

 これが冬次郎さまとわたしの初めての出会いです。イングランド語でいうところのファーストコンタクトです。冬次郎さまは涼し気な眉に美しく抜けるような白い肌に赤い口元をしていて、それが目尻の引き締まり具合と一緒になってさらなる美貌につながるわけですが、その美しさはだらだら見惚れるものではなく、見たものの背をシャンとさせる、凛としたものでした。黒い袖なしの、腰がキュッとしまっている西洋上衣(プールポワン)の下にやはり黒い長手甲をつけ、裁着袴も黒いので、〈ツヴァルテ〉の名前で通っていました。か、かっこいい。ツヴァルテって、なんか、もう冬次郎さまのためにある言葉じゃないですかね。冬次郎さまの年齢はわたしより四つくらい上の十七歳ですが、普通の十七歳よりもずっと濃くて大変な十七歳で、それが先ほどの凛とした風貌につけ加えられるわけです。

 冬次郎さまは腕組をしてわたしを見ていて、わたしに優しく話しかけられました。

「目が覚めたか」

 これがわたしと冬次郎さまの初めての言葉です。

「あ……あ」

 情けないことに誰かと会話をするのは一か月以上前のことだったので、これ以上、話すことはできませんでしたけど。

「待ってろ。先生を呼んでくる」

 ああ、自分を痛めつけようとしない人間に会うのはいつ以来でしょう。それも冬次郎さまとの出会いでなんて。

 さて、先生――ミンの出らしい孫楽と呼ばれる老人があらわれました。細い顎に白い髭。わたしの左目のことを指摘し、わたしの市場価格を下げた御仁です。孫楽さんはわたしの額、首筋、喉に触れ、「まだ、痛むかの?」とたずねました。

 痛かったのでうなずきます。

 すると、冬次郎さまは、

「助かるのか?」

 と、もう、こっちは鼻血ものの声できいてきます。

「ああ。助かるぞい」

 そう言って三十ペニヒを孫楽さんが冬次郎さまに払いました。わたしが助かるかどうかで賭けていたようです。

 そして、賭けは冬次郎さまの勝ち。つまり、冬次郎さまはわたしが生きるほうに賭けていたということです。いやあ、照れますね。てへてへ。素直に助かってほしいと言ってくださればいいのに、てへてへ。

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